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え! どうして! どうして!

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 声を失ったの。
 目の前の光景が信じられなかったから。
 初めて見るお部屋だったけれど、これが高貴な方用のものだとはすぐにわかったの。

 だけれど、それは問題ではなかったの。
 だって…肌の吸い付くような感覚。
 その原因が目の前にあったから。

 天蓋がついた寝台の上で、ピンク色のヒラヒラドレスを着ているが、高貴な衣装を着込んでいる男に組み敷かれているの。

 も、問題でしょ!!
 まさか…寝台の上で取っ組みあいなんかが始まる…なんてこと、こんな私でも流石に思わなかったわ。

 貞操の危機よ!
 まだだって…わたくし、これでも人妻だから。

 ばちんと叩くのよと意志を猫の自分に伝えたいと思ったの。
 でも、自分の意志が効かないの。

 ど、どういうことなのかしら!
 
 魔女の契約の規則に反した事なら自動的に猫は応じるはずなの。

 この襲っている相手が…なぜ自分にこんなことをしながら、それが許されているのかが全くわからなくて動揺してしまったわ。
 
 ベットに飛び乗って、その男を見て息をのんだわ。
 見れば一目瞭然。
 あの白地に金糸で百獣の王が描かれている紋章。
 
 そしてこの国の継承者であることを示すように深紅の心臓が横に描かれている。
 それを身に付けることが許されるのはこの国にはただ一人。

 顔が見えなくても知っているわ。

 そう…このひとからまだサインをもらっていないから…。
 この人はまだ自分の旦那様でもあるの!!

 あ、ありえない。
 
 はっと気づくと、先程と同じような感覚を唇や首筋に感じたの。
 くすぐったいような、そして、電流が走るような感覚。
 ぼうっとしていた頭がフル回転したわ!
 いまやっと状況を理解したから。

 殿下、つまり、まあ旦那様が、私の体に口づけをしているの。

 な、なんなの!
 規則的には確かにオッケーなの!!

 しかも猫ちゃんである私は、その殿下の触り方を大変にお気に召しているようで、「ん、ん、ああっ」と猫なで声。

 耳の裏を摩られて、たいそうご満悦な顔を浮かばせている。

 うきゃーーー!!!
 ダメ猫。

 顔が見えない殿下が、自分の胸の締め付けの紐を指で絡みはじめたわ。

 だ、だめよ。
 とっても何か良くない方向に進んでいるわ。

「…ああ、リーナ」

 初めてこのひとの…こんな声色を聞いたの。
 なんでそんな切羽詰まっているのか、意味がわからないけれど。

「可愛い。リーナ。もっと私を求めてくれ…」

 か、可愛い?
 何を言い出すの。
 こんな状況で…。

 今までそんなこと一度も聞いたことがなかったわ。

 それに、二人切りで会ったのなんて…本当に覚えがないくらいの昔の話。

 ぎえーー、求めないで!! 私!!
 猫の私はこちらから見ても、顔がとろ~んとしちゃって全く使えないの。

 術を解くにはお互いに目を合わせないと解除できないのよ。

 ああ、やめてっと思うのに、彼が自分の唇を奪っていくの。
 生暖かい柔らかな感触が自分の口内を刺激していくの。
 いやんっと思うのに、何かもっとして欲しいと思ってしまうわ。

「ん、んん、ああっ」

 猫の自分が出せない声をダミーが出しているの。

 馬鹿猫!!と言いたいけど、刺激的過ぎる行為に声さえも塞がれたわ。

「ああ、リーナ感じてくれているのかい? 僕が君の離縁届なんて承諾するわけないだろう?」

 えええ、受けてくれないの!
 なんなの!
 だって愛人がいるんじゃん!
 ピュアな愛が好きなの!私!!

 心で叫びながら、疼くような快感が自分を責め立てたわ。

 ダメよ、私。
 
 魔女は…魔女は、淫乱じゃないんだから!!!!




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