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一体、なんの修羅場なんでしょうか?

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 リュークの相手を射抜くような凄みのある睨みが、ジンを襲う。

 一瞬、時間が凍結されたかのように、息さえするのもはばかられるような緊張感が辺りに漂った。

 見ているだけで、ぞくぞくと自分の体毛が総毛立ちしてしまいそうな、白光りする剣の刃が、じとっとジンの首に当たっていた。
 多分、それがひやっと冷たかったのだろうか?
 それともリュークの燃えるような眼光にビビったのだろうか?
 あのおしゃべりな男が微動たりともせずに、ただ、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「あ、あの、そ、それって……」

 首に当たるものを気にしながら、ジンが話し始めた。
 私もどうしていいかわからなくて、言葉を失っていた。

「そういう意味だ。それ以上でも、それ以下でもない…」

 リュークの、何か感情を抑えたような、重々しい低音の声が聞こえた。

「──っ!」

 ジンはもっと何かを言いたそうだったが、首に当たるものにやはりびびっているようで、言葉に詰まっている。
 彼の首元から一筋の鮮血が見えた。

「ジン、二度と言わせるな。俺はだ……」

 誰もがその光景に息を止める。
 流石に自分も声をかけようとした瞬間、横からのんびりとした口調で話を始める声がした。

「……リューク、それはちょっとやり過ぎじゃない?」

 アマイくんが緊迫した空気をその言葉で緩めるかのごとく、意見する。

──そうそう、そうだよ。ちょっとやり過ぎだよ。

 激しくアマイくんに同意した。

 けれども、そんなことを言っているアマイくんでさえも、彼が放った、今ジンをにしちゃっている、そのツル状の縄を緩めるつもりは一切ないらしい。
 手厳しい!

「いや、やり過ぎではない。そうだ。切ってしまえ、リューク。僕が許す……」

 ロアンが火に油を注ぐように口を挟む。
 金髪の美青年のニヒルな笑みが怖すぎだ。

──いやいや、殺しはまずいでしょ!  

 一体誰がこの騒ぎを止めるのかと思い、その横の男を見つめた。
 シモンの中性的な色気のある顔が歪んでいた。
 そう、神聖なる神に仕える神官だ。
 こんな暴力沙汰は許さないに違いない。殿下の行き過ぎの行為にアドバイスが出来るのも、彼しかいないはずだ。

──よし、そうそう、こういう時こそを重んじる神官の登場だよ。

 何かを言おうとするシモンを凝視する。

──そうだ! 言ってやれ! シモン。君しかいない。この血の騒ぎ過ぎた男達を静めるのは!

 期待を込めて彼を見つめた。
 まさに固唾をのむように銀糸の髪の彼の動向を見守る。

「そうですね。私も拷問は嫌いですが、このような幼げな女子に無理強いをして誘い出すとは、騎士たる行為とは言えませんね。これは殿下に同意です。ほら、こんなに見惚れてしまうぐらいの美しい彼女の顔が、歪んでいる。それだけでも重罪に等しい……」

 シモンが話しながら、こちらを見る。

──なっ!  シモンがんできた。

 顔が歪んでいるのはで、眉間にシワがよっているのは、をぶっ殺しそうだからだよ! 
 バカモン! シモン、正気になれ! と叫びたくなった。

 が、口には出さなかった。

 変な失言をし、彼らの怒りや興味が今度何かのきっかけで、こちらに向かないとは限らない。
 
 どう言えば全て丸く収まるのだろうか?
 
 ただ、今、この何かに狂った、病んだ男達をどうしていいかがわからずに、そのである私は大変困惑していた。

 それに、自分の扱いにマジギレした男四人が、なぜ、一人の男をここまでリンチしようとするのかが、自分はまだよく理解できないでいる。

 これは一体、何の修羅場なんだと自分は焦りだしていた。

 視線をずらすと、ジンの顔が改めてよく見えた。
 奴の顔は、初めて真っ青になっていた。
 どうやら状況をマジで理解したらしい。
 おそいよ!
 チャラ男、全く!

 「た、助けて!!」という瞳でこっちを見てくる。

 おいおい、誰のせいだと思っているんだっと思う。
 お前のせいだよ! 完全に!

 私だってこの暴走する彼らを止めたいよ。
 ジンをギャフンっては言わせたいとは思っていたけど、別にジンをマジに殺したいとか思っていないし。

 あ、でも、穴ぼこに落ちてしまえっとは思ったよ。ごめん、ジン。

 でも、こっちだって、いつ、つまりジンみたいに糾弾されて、ツル状の植物に巻き巻きにされちゃうか、わかんないんだから! と馬鹿男を見つめ返した。

──なっ、その捨てられた子犬のような視線、ずるい! ジンめ!

 ジンは本当に馬鹿で鬼畜で、監禁趣味?っぽいけれど、やっぱり殺されちゃったらかわいそうだと思った。

「あの~」

 持てる勇気を振り絞って声を出した瞬間、イケメン軍団(面倒だからそう呼ぶことにした)が一斉にこちらを振り返る。

「どうしましたか? サキ様。やはり殺しましょうか? この馬鹿者を」

 なぜかその微笑にさらに磨きがかかったシモンが話す。

──ど、どうやればそんな微笑が磨けんですか? ハウツー本だそうよ!!っと思う。いや、違う、なんで、そのすでに聖女扱いのような口調、心臓がっ……壊れそうだ。

「どうした? それとも、もっと痛めつければ良いか? お前のしたいようにしてやる」

 ロアンが!! あのロアンが、なぜか自分への目線が熱い。

 ──やめようよ!あんた一国の王子でしょ? これ、イジメっぽいんですけど!!

 あと、その背筋がザワザワしちゃう、こちらを舐めるような目つき、真面目によして欲しいとも思う。

「なに? サキちゃん、参加したい? ツル増やす? もっと締め上げる? あ、それとも目障りか? 僕がこいつを移動させて、拷問してもいいよ」

 ──こ、声が出ない。アマイくん。君が言うと絶対にシャレに聞こえないよ。口調は全然軽いのに! しかも、デジャヴのようなその懐かしい口調。バレてんの? バレてないの?
 
 二つの疑問が浮かんでは消えていく。

 自分の心臓、もしかして、本当は今止まった方が良いのかもしれないとでさえ、思ってきた。
 もうこれ以上の緊張感に自分が耐えられそうになかった。

「……どうしたい? 君が望むことは?」

 最後のリュークだけがまともな返事をした。だが、彼のやいばはジンに当たったままだ。
 ただ、彼はその澄み渡る青色の目をまるでナイフの鋭い光のように光らせて、自分を見つめている。
 その奥に、何か揺れるものが見えた。

 だけれども、に惑わされている余裕は、今はなかった。

 なぜ自分が、鬼畜馬鹿野郎と思っているヤツを救わなければいけないんだっと思いながら、このジンがここで殺されないで、かつ、自分から上手に距離を置ける方法をどう作り出せばいいのか、考えながら話し出す。

「あの、この人、超馬鹿で変態で鬼畜ですけど……」
「ひぇーー。サキさん!!!」

 ジンが叫んだ。ツル状の紐がぐいっとジンの胸周りをもっと締め上げたらしい。
 アマイくんがニコニコしている。怖いって、マジで!

 だが、状況はこれよりも悪化した。

「ちょっと、待って! 違うの!」

 自分が叫ぶ。

「サキさーんっ、た、助けて」
「ちょっと、ジン、黙って、だから」
「俺は、無実ですぅ!」

 その時、ジンの情けない声に誰かの罵声が重なり響いた。
 
「うるせえぇ、ボケ!! 喋るな!! サキ様がお話になっているんだろう?」

 ドスッという音がして、ジンが倒れ込んだ。

 え、ヤーさん?
 誰よ?
 この中でそんな言葉遣いの人、いたっけ?


 一瞬、そのドスの聞いた声色の持ち主に皆、目を見張る。
 気がついたら、エントがいきなり横からジンを蹴り上げていた。

 なっ!!エント!!!
 き、君は中立じゃなかったのか?
 しかも、初めて君の声を聞いたよ!!!!

「エント? どうした?」

 珍しく殿下が心配した口調で、自分の長年の従者に声をかけた。

「あ、ロアン殿下。今日から、俺、この方につくから……。よろしく。今まで世話になったな」
「!!!!!」

 殿下が目を見張る。

「この方とは? まさか……」
「え、この方です。サキ様です」

 みんなが唖然としている中、エントが自分の褐色のマントを翻し、自分の足元にひざまずいた。
 そして、腰から下げていた滅多に見ないエントの刀が地上に対して、直立に刺された。
 その刀を入れている鞘でさえも見たことがなかったのに、その中の刀の形に驚いた。

 男たちも自分もただ黙ってその様子を見ている。

 刃の反対側の部分がギザギザなのだ。まるで大きな釣り針が何本も付いているようだった。
 これは相手の剣をその峰の凹凸にかませて折るのが目的なのかと考えた。
 その珍しさにぼうっとみとれてしまい、エントが言った言葉を上手く飲み込めていなかった。

「エント・ギルデヴァーン、ここに貴方に忠実、誠実であることを誓い、貴方の為に命を持ってでも盾となることを永遠とわに忠誠いたします。どうぞ私を貴方の下僕に……」

「は、はあ? げ、下僕?」

「もちろんです。貴方に私の命を捧げます!」
「え? いいです。いらないです。どうぞ自分の命は大切にしてください!!!」
「そ、そんな……サキ様。俺を貴方の椅子でも、足置きでもなんでもいいです! お願いいたします!!」

 ひ、ひぇーーー、なんだよ。それ!!

 やっぱパンダに戻りたい!
 卑猥な名前でもいいです。

 パンティーさん!!! 
 カムバック!





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