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リュークの視点 回想 パンダの君といつまでも*

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 ちょっと性描写あり!(BY作者)
 風邪ひきました。更新遅くてすみません。二話分一挙にお届けします!



 レオから聞かされた「パンティさんが、もしかしたら、パンダという生き物」っていうことは衝撃的過ぎて、頭が一瞬真っ白になった。
 必死で驚きを隠したが、もしかしたらレオにもバレているかもしれない。

 パンティさん本人が否定していたことを考えると、言えない事情があるか、こちらに知らせたくない事情があるかのどちらかだ。

 たぶん、言えない用件で俺を頼ってきたレオも、パンティさんにを見出したのだと感じた。
 
 レオは異形生物には目がない。
 彼が目をつけたということはある意味を示す。きっとレオ本人は気が付いていないはずだ。
 彼の野生のカンはバカには出来ない。
 あのレオが飲み込まれたスライムも実は新種であると後で残された液体から判明した。
 
 レオには何か異物を見つける特技みたいのがあるのかもしれない。
 だから、本人はわかっていないとは思うが、その特質を見込んであいつを門番に勧めたのだ。
 王宮に入る玄関口に、直感で異質をわかるものがいるのはある意味、最強だからだ。
 これだけは、トレーニングなどで鍛えあげれるものではない。
 直感が必要だ。

 本人は騎士団に入りたいようだが、それは追々で良いと俺は思っている。
 彼なら剣の腕を少し鍛えれば、余裕で騎士団に上がれる。
 それまで、現地で見る目を鍛えた方がいいと思ったからだ。
 今の世界の状況を考えると、それが一番大切なようなことに思えた。

 だが、ここからが本題だった。
 パンティさんがあのサキがパンダであれば、とにかくである可能性が否定できないのだから、何かしらの対応をしないといけない。

 しかし、殿下やシモンにそれを報告するのが躊躇われた。
 パンティさん自身がそのパンダであることを隠したがっているのだ。
 それを俺は無下にできるのだろうか?っと……。

 いや、本当のことを言えば、路地裏で話し合ってから、パンティさんともっと知り合いになりたかった。
 だから、あのパンダのことを知る前から、何とかパンティさんと接点を持ちたかった俺にとっては、色々な意味で今回のレオの頼みは驚きと共にこちらにも好都合だった。

 しかも、パンダという事実を知ってしまった今は、王宮の立場とか、国の存亡とは関係なしに、絶対にパンティさんを保護しないといけない使命感に駆られる。

 騎士団に入れてしまえば、ある程度自分の範疇内だ。
 殿下でさえもその運営には口出しできない。
 
 それがわかってこの癒し係を作った。
 ゆっくりとパンティさんと慣れ親しんで、その隠している実情を聞き出そうと思っていた。

 これが自分のエゴだとはわかっている。
 それでも、もしかしたらサキに繋がっている、パンティさんを大切にしたかった。
 できれば、何を目的にに来たか知りたかった。

 その答えを見つけるのには、信頼関係が必要だ。
 もしパンティさんが異界から来たと認めて、そして、逃げられたら……。
 考えるだけで、何か恐ろしくなる。
 
 それはこの世界の終わりが怖いという意味ではない。
 もうサキに関わるものを失いたくないという思いだった。
 彼女を失うだけで、十分だった。

 もう終わると思っていた世界は意外にも聖女が亡くなった後、平穏を保っていた。
 きっとサキがその身をもってこの世界を助けてくれたのかもしれないと思うぐらいだった。

 そして、まるで彼女の遺品のようなパンティさんが現れた。

 だが、自分の心配を余所に、パンティさんにはらしき兆候は見えない。

 それがなぜか自分をホッとさせる。
 あのであれば、圧倒的な奇跡が起こせると信じられているからだ。

 もちろん、パンティさんには、俺もレオも、なにかしらの癒しの効果があると思っている。
 それは疑いのない事実だ。
 話す者、いや自分もそうだが、心が晴れていく。

 でも、果たしてそれがあの女神、つまり聖なる水に値するかとなると、疑問だった。
 パンティさんは普通過ぎた。
 しかも、パンティさんには性別がなさそうだ。

 この国の民話にあるのだ。
 『聖なる水』である聖女が『清き水』つまり、女神となって戻ってくるという話が。

 ほとんど神話に近いものだが、殿下とシモンはあれはただの民話でも神話でもないという。
 あれは聖女を口説き、また来世で女神と降臨してもらうための口説き文句なのだと……。

 だが、『聖なる水』が『清き水』になるには色々な解釈が横行していた。
 聖女がそのまま女神になるのか?
 それとも、水という媒体が同じで、単なる同じ繋がりが持つものがくるのか。
 それに関する文献は全て王室と神殿で管理されていた。

 
 そうは言っても、パンティさん自身にも疑惑はある。
 とにかくパンダという生き物は俺の知る限り、この国にはいない。
 もしかしたら、外国にいる生き物かもと思うが、あのレオがまだ見当さえつけていないとなると、やはり、あの仮定が真実味を帯びていく。

 しかも、あの個室の浴室で、湯と水のノブを何も躊躇いもなく触っていた。
 間違えれば上からのシャワーが出てきてしまうのに、それ以前にやったことがあるかのように、真ん中のバーを下に下げて、風呂の栓を閉める。お湯とお水の量を確認して、ものすごく手際よく出している。

 レオのような平民の家では浴室でお湯などは出せない。
 それがあのように簡単にお湯と水を調節させて出す姿は俺を非常に驚かせた。

 異界者?
 聖女サキのように……?

 でも、聖女でもないのに現れるのか?
 やはり……。

 


 回想した。
 まだ聖女サキが生きている時だ。
 殿下に話があると言って呼び出されたのだ。
 
『リューク、これは王室の命令だ。聖女を奪ってもいい……』
『!!!』

 殿下が真剣な目で俺を覗き込む。
 奪うという意味が飲み込めない。

『ロアン殿下、意味がわかりません』
『言葉のままだ。多分、聖女サキ様は無垢だ。お前が奪ってもいい。彼女が一番お前を信頼しているようだ』

『!!そんなこと、俺はできません。守れと言われて、守っているのに、あなたは彼女を襲えっと言っている!』

『すまん、それほど、この国は切迫しているんだ。彼女の純潔を奪い、この国の布石、いや、彼女の繋がりとなってはくれないか!』
 
 苦渋の表情かおをしている殿下を俺は睨んだ。

 どう考えても、聖女サキ様はそのような経験があるとは思えない。
 俺と目線が合うだけで、顔を赤らめるのだ。

 その気持ちを弄んで、彼女を襲えというのか?
 確かに俺はサキ様には好意を持っているが、そういう問題ではなかった。

 自分が試されているような気がした。

『できません。彼女の気持ちを弄ぶ上、しかも彼女の貞操を奪えなどと……。あなたが殿下でなければ、俺はあなたを殴り殺していたかもしれません』

 自分の言葉で殿下が少し、取り乱した己を取り戻したような顔をした。

『……そうだな。悪かった。俺は見境を無くしていた。聖女がこの国と想い、深く繋がれば、彼女が、彼女が何らかの形で我らを救うために光臨してくれると思ったのだ。わかっている。これは狂気の沙汰だ。もう私自身もこの聖女を騙してこの地に留めていくことに疲れたのだ』


 聖女サキをもうこれ以上我々の苦しみに付き合わせるのは気が止めると殿下が自分に告白する。
 シモンも俺も、息が止まりそうになった。


『リューク。お前はどちらをとるのだ? 彼女の安らかな死と我々の怠慢、それか無慈悲な壮絶な苦しみの死と我々のエゴだ?』

  その意味を悟って、唇が震える。

『──つまり……』
『聖女サキ様に、あの紅茶を飲ませるのをやめる』

『!!でも、そんなことをしたら、彼女の体は大気の闇の毒素ですぐにやられてしまいます!!』
『──リューク。お前はそれまでもして彼女を長生きさせて、どうするというのだ! 壮絶な死しか、彼女には待っていないんだぞ!』
『っ!!』
『リューク、殿下も悩まれた。英断をされたのだ。これ以上無意味な浄化と無意味な聖女の苦しみはいらないと』
『つまり……』
『聖女を溜まりに戻す。そして、彼女がこの世界に何らかの価値を見出し、戻ってきてくれることを願う』

 聖女の口にするものが厳しく管理されている理由。

 それは彼女の体が、この世の闇を浄化するなのだ。

 聖女にそれを告げることは禁忌の行為だった。
 それにより過去、精神を犯した聖女がいたらしい。

 それはそうだ。
 自分の体が、まさか世界の浄化をしているただの器だと分かれば、正常にしている方が難しい。

 ある種の紅茶がその毒素を聖女の体内から出すことがわかっている。
 その紅茶を飲ますことをやめれば、彼女の体はすぐに蝕まれていくに違いない。
 竜の説得も彼女の仕事だが、本当の召喚にはこの世界の浄化の意味が含まれていた。


 殿下はそれをするという。
 
『リューク。君も知っているだろう? 長年の毒素を溜めた聖女の果ての姿を…』

 その言葉を聞いて、自分がゾッとする。
 殿下は俺の秘密にしていた過去を知っているのだろうかと?

 確かに、あんな恐ろしいことをこのサキに味あわせられない。
 彼女に情が移れば、移るほどそれは自分の心を蝕んでいた。

 だから、せめて彼女が寝る時ぐらいは安らかな気持ちでいてほしいといつも願っていた。

 だが、忘れていた過去が噴き出しそうだった。

 自分の腹が決まった。

 俺は聖女殺しに加担することを決めたのだ。

 
 ***


 とうとう待ちに待った日がやって来た。
 寄宿舎に来た個室にパンティさんを案内する。
 
 嬉しさでニヤニヤしそうになるが、なるべく無表情で抑えていた。

 君が……聖女との繋がりなのか?
 俺の想いが、このパンティさんとなって現れたのか?
 君がまだこの国を少し思ってくれて、この可愛らしい生き物を送ってくれたのか?

 そこに俺は入っているのか?

 憎まれてもいい。
 ただ、俺のことは覚えてくれているのだろうか?

 押し寄せる波のような感情と頭の中に取り留めないくらいの疑問がぶつかり合い、考えがまとまらない。

 何かパンティさんがサキの残してくれた遺品のような気がした。

 しかも、あの浴室の手際よい湯浴みの準備を見て、その想いが溢れてしまいそうだった。

 抱きしめたくて、堪らない……。
 サキ……。

 思わず、興奮した自分を落ち着かせるように、彼女を思い出して、昔のように聖女を守るようにパンティさんの寝台の横に座ってしまう。

 君の分まで、この君の世界からきたと思われる生物を守る。
 俺が前回、君を本当に守れなかった分まで。

 サキが酔って語ってくれた彼女の本当の姿を語った時を思い出す。
 どう考えても、パンティさんは違う。

 彼女はまた転生してくれなかった。
 
 でもいい。
 こんな愛らしい者を送ってくれたんだ。

 思わずパンティさんを抱きしめていた。
 
 お願いだ。
 もしサキが君を送ってきてくれたなら、俺に、俺に、頼ってほしい。

 思わず、パンティさんの丸い顔をあげてみる。

 残念ながら、パンティさんはかなりの強者つわものだ。
 俺がこんなに追い詰めているつもりでも、眉ひとつあげない。

 ただ、パンティさんに頼られたいがために、言葉を漏らす。
 しかも俺は理性がきれ、パンティさんを抱きしめていた。

「パンティさん、俺は君の味方だ。何かあったら、頼ってほしい……。お願いだ……」

 もう正直、総大将になっても心にあることは失った愛しい人への想いばかりだった。
 いっそパンティさんだけを匿って、どこかに逃げ去りたいという気持ちさえ起きてくる。

 パンティさんにはそれだけ、なにかサキを思い出す要因がある。
 
 それが何かのか、俺にはよくわからない。




 
 その晩、俺は夢を見た。

 黒髪の少女。
 細い切れ長の双眸。
 低い可愛らしい鼻。

 あまり凹凸のない細い体が、白い肌をむき出しに寝台の上に艶かしく横たわっている。
 それだけで、俺の体にぞくっと電流が走ったような欲望がかけ巡る。
 
 心臓がこれでもかというくらいに鳴り響き、鋭い痛みを覚えるぐらいだ。
 自分の今まで死んでいたと思われていた血流が一気に沸騰する。
 今まで使えものにならなかった俺のモノが一気にその興奮を表している。
 
 これは、あのサキがあのお菓子で酔ってしまった時、サキが酔いながら説明してくれた姿だった。
 実は、あの告白を聞いてから、密かに本当のサキの姿に恋い焦がれていた。
 これは俺だけの秘密だった。
 あの金髪碧眼の少女を見るたびに、本当のサキの姿を重ねていたのだ。

 ああ本当のサキは、全ての男性を虜にしてしまいそうだ。
 あの時、本当のサキの容貌についてもっと詳しく聞いておけばよかったと自分は後悔した。

 それだったら、夢の中の、少しこの霧がかかったような顔立ちの彼女が、自分の熱い飛沫を受けながら、顔を赤らめ、淫らな言葉を発し、自分の中で上り詰めていく様子にもう少し現実味があったはずだ。
 
 激しく彼女を追い詰める。

 サキに殺されてもいい。
 もう一度だけ、君に逢いたい……。
 
 そう言いながらも夢の中の黒髪の少女を愛し続けた。
 夢の中だか、自分勝手な行為に、後で自分でも反吐がでた。

 朝、起きあがり自分の失態を下着に見る。
 情けない。

 こんな様子ですぐにあの可愛らしいパンティさんに会うのは躊躇われた。
 彼女の話し方は、サキをなぜか思い出させる。

 やはり彼女と同じ世界からの者なのだろうと考えてしまう。

 朝、スケジュールの調整しにきたジークが、いつになく朝から取り乱している俺に驚いた表情をしている。

 確かに、いつもこの時間なら髪の毛も軍服もきちっとしているはずなのに、昨日の淫らな夢のせいで、現在の俺は髪の毛もボサボサ、シャツもまだ寝起き、ひどい有様だった。
 
「──ああ、ジーク。悪いな。ちょっとパンティさんが来てから少し興奮してしまったんだ」

 奴が驚愕した顔をしている。
 そっか。俺はあまりこのようなことを言ったことがなかったなと思った。

「あの、そのパンティさんのカウンセリングについてですか……。少し問題がありまして」
「なんだ?」
「殿下とシモン様もカウンセリングを受けたいと申されて…」
「──殿下とシモンまでがか?」
「はい、そうです。一応、パンティさんはリューク大将の直下になりますから、ご報告と許可をもらいにきました」


 ──さすが一国の主人だな。嗅覚が鋭いのか、それとも、シモンの入れ知恵か?あれだけ、カウンセラーの係りは神官の職を脅すようなことはないと説明したのに、それがかえって奴の興味を引いてしまったのだろうか?


 下手に隠すと怪しまれるかもしれない。
 まだパンティさんが何者とわかるまでは、注意深くその動向を見守る必要があると思う。
 
「わかった。それは俺が許可する。だが、ジーク。あくまでも言っておく。パンティさんに関しては、全てに報告しろ。殿下やシモンに何か言われても、これはだと言って、パンティさんに関しての情報は機密扱いだ。いいな?」
「!!わ、わかりました! でもそれだと、殿下がもしパンティさんの身柄をあちらで確保したいときになったら…」

 勘の鋭いジークは何かを感じたようだった。

「そうだな。悪いが、そうしたら、殿下には悪いがクーデターにでもなりかねないな。俺はそれだけパンティさんの身の安全に関しては、命を張っている。ジークもそれなりの覚悟が必要だ。あちらにその時につくなら、そうしろ。まあそうならない事態を願いたいがな……」

「リューク大将。あなたはそこまでパンティさんに惚れ込んで……」
「──惚れ込む? 」

 ちょっとため息をついた。

「そういうことかもしれないな。悪いな。ほとんど女房役のお前にこんな非常識なことを言って。軍事会議でも、なんでもかけていいぞ。総大将はちょっと頭がおかしくなったってな」
「ま、まさか! そんなことありません。大将には命を助けてもらったんですから! 大将の大切なものは私にとっても大切です。パンティさんの件、かしこまりました。でも、本当に殿下とシモン様の謁見はいいのですね」

「ああ、隠してもしょうがない。パンティさんには確かに癒しの効果がある。こんな時勢だ。誰もが何かにすがりたいだろう?」
「……大将」



 そう思っていた数日後だった。

 殿下とシモン神官が血相を変えて、報告してくる。
 前回聖女を失ってから、ある程度収まりをつけていたの動きが活発になったと……。

 闇が惹きつける何かがこの国にあるということだ。

 ざわざわと胸騒ぎがした。





 
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