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ご乱心は続く
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今日発売である週刊誌が手元にあった。
急いで先ほどコンビニに駆け込んで買ってきた。
自分のデスクに戻りさっとその問題のページを探し出す。
バッチリと社長と女優の記事が目に入った。
嘘ネタとはわかっているが、女が本気なのが経験上、手に取る様にわかる。
こんなカメラマンが取りやすい位置でこの撓った姿だ。
私、島崎那月、二十七歳。
父母のいない兄だけで家庭で、色々人生擦った揉んだの挙句、この御曹司の幼馴染の兄のたっての願いでここに就職した。
木原海斗は今年で御年三十一歳。水の滴るいい男とはまさに彼のような人を形容しているのだと思う。
彼は自分の四歳年上の兄、島崎慶太と同年齢だ。
「あいつはバカだから…な」
と自分よりはるかにいい学歴を持った男を貶しながら、そう辛辣に言い放す兄の慶太の言葉の余韻には悪意は感じられない。
当時小学生の御曹司が、これが何のきまぐれかは知らないが、入部した草野球チームからの縁の幼馴染み、慶太ならではの言い草だ。
「だからお前が助けてやれ…お前にしかこの問題は解決できない」
と言われ引き摺るようにここに連れてこられて、ここの本社の門をくぐったのが数年前だ。
あの小学生の草野球チームに突然現れた海斗に、監督も慶太も、ただの見学専門である自分に「那月、お前が見ている間に、ルールを教えてやれ」と言った。
まさに慶太の頼み方は同じだった。
たかがちょっと兄より学歴を持った妹にこんな畏れ多い肩書きを持つ御曹司の何のお手伝いができるのかと懐疑的だったが、それは入社してすぐに通常業務以外の男女のいざこざに巻き込まれて、何で自分がここに呼ばれたのかをよく理解した。
だから、この手の話が初めてのことではないのだ。
ただそれがメジャーな週刊誌にイニシャルで載ってしまっただけの話だ。
長年の付き合いのおかげで自分がこの海斗社長になびかないと知っている兄は自分を急遽空いた秘書のポジションに自分を推薦したのだ。この推薦はある意味当たっていただろう。
兄以上に…彼の趣向を理解しているから…。
すでに今朝、会社宛に彼女のマネージャーらしき人からメッセージが入っている。
『お話がしたいことがありまして…』とあるが、どちらにせよ、こちらにとってはいい話ではないはずだ。
無視するか返信するか悩んだ後、あるところにメールを出す。
木原が社長に就任してから、彼の交際範囲がどんどんと広がっていくとは対称的に、木原の個人の携帯番号を知る者は増えているようには思えない。彼のポジションを考えると仕方がない。だから、その皺寄せは全て自分に来る。皆、木原社長を求める人たちは、今自分の目の前の固定電話にメッセージを残すのだ。
問題の女優のマネージャーという人からのボイスメッセージをまた聞きながら、ため息をつく。でも、まあこのくらいなら秘書としてさっさとやっつけて、通常の仕事に戻ればいいと思っている。さらにいくつかのところにメールをする。今夜も重要取引先との接待がある。そのセッテングの最終確認もしないといけない。英訳の会議資料ももう一度チェックしてしないと。猫の手でも借りたいほどの忙しさだ。
それなのにあんな馬鹿げた工作……。
木原社長が言った言葉を思い出して仕事に集中出来ない。
有難くない形のはっきりしない感情を剥ぎ取りたいがのごとく、手元だけを忙しくさせた。今日の接待の参加者の再確認と場所をメールでチェックする。変更はなさそうだった。
幸い、かなり酒に弱い自分はその様な接待の場所にはほとんど出なくていいことが決まっている。
自分の立場から言うと、かなり珍しい特例だ。
酒は好きだが、強くはない。
欧州留学時代ではあまり感じなかったが、やはり日本の接待は、何か秘書という立場は、どっちかというと酒の席の華と言う感じだ。
ニコニコしながら、お酒を注ぐ。まるでホステス!と思うが、まだまだ日本の社会は女性の立場は低いのではないかと言う感じは拭えない。自分がしないと決めてもそれが当然という顔の取引先の方も実際に存在するのだ。
でも、英国に学生時から留学していた木原社長はバッチリとレディーファーストを叩き込まれていて、自分がそんなことでもしようなら氷よりも冷たい目線でこちらを見つめる。
最初の接待で社長同席の元、隣からビールのガラスを持ち上げてニコニコして来るおじさまについお酌をしたら、あっという間に、知らない間に立ち上がっていて横にいた社長に腕をぐいっと掴まれて、そのまま店の外に連れ出された。
「俺はお前をホステス代わり雇ったつもりは全くない。そんな暇があるなら、家に帰って相手の会社のデータをまとめろ」とまで言われた。
掴まれた手首を持つ木原社長には、昔のオドオドしていつも頬を赤らめていた少年の面影はなかった。
仕事のできる立派な大の男の顔だった。
そんな男前に中身も外見も育ってしまった幼馴染の面につい見惚れてしまう。
最初は自分が何で怒られたのかを理解できなかった。
でも、本当に会社が自分に支払う給料の額を考えると、それは確かに説得力のある話なのだ。
飲めない酒をどんどん勧めてくる相手先のお偉方に正直辟易していたから、無理やりタクシーに乗せさせられてそこを去った時、まあちょっと有難いと思ってしまった。
次の日、あれからどうしたのかと訊ねたら、「お前は急遽具合が悪くなって帰ったことにした」と言われた。しかもどうやらいやいやの作り顔でのお酌がバレていた様で、「あちらがその気分なら、それの道のプロに任せた方がいいだろ」っとまで言ってきた。
あの後、どうやら銀座の夜に一行は流れたと聞いた。
確かにプロの接待には自分も負ける。社長のいう事に一利はあった。
それからと言うもの、ほとんど夜の接待には付き合わないでいいことが慣例化された。
その代わり、夜のお誘いが増えた社長は、だんだんとそのプレイボーイ的な噂を加速させていく。
そんな昔の話をぼうっと考えていると、先ほどのメールからの返信がきていた。いつもお世話になっているから、ネタはあっちがすでに持って待ち構えていたのかもしれない。
写真が添付されている。
踏み込んでもいいと、いつも社長からは言われているのだが、上司と部下という関係上、一応ラインは引いているつもりだ。個人的なことまで侵入したくはないが、週刊誌に載っている様な事項は、ある程度探りを入れないと思ったのだ。
社長がハニートラップなどにかからない様にするためだ。
先ほど頼んだのは、いつも個人的にお世話になっている探偵事務所からの返信だった。
ファイルを開けて写された三十代前半ぐらいの美形の男を見る。
「なるほど。美形だわ。もしかして、こっちが本命?」
どれどれ借金もないし、この業界にいるにしては真面目か。
先ほどの噂になった女優のマネージャーだった。
社長の趣味をわかっていても、気分はやはり複雑だ。
あんな可愛い女の子みたいだった海ちゃんが、ああー、こんな美形を食っちゃう野獣になっちゃって~と言いながら、エンターテイメントの記事を切り抜いた。だってもういまの海斗は、昔の小学生の時の、あのレースとかのブラウスが似合うような美少年ではなく、細身ながらもがっちりと筋肉がついているのがスーツからわかるくらいの、長身でちょっとワイルド感が漂う男なのだ。
「おい、誰が…野獣だ…」
頭の上で声がした。声が漏れていたらしい。
ドキッとして慌てて立ち上がると、自分の椅子がカラカラと音を立てながら後ろにずれる。それに合わせるかの様に、五センチのパンプスが運悪くバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
ぐいっと男らしい逞しい腕に支えられた。かすかなスパイスと甘い香りが混じった匂いが彼のノリが効いているストライプのシャツとネクタイの間からした。
「社、社長、申し訳ありません」
「……ナツは相変わらずそそっかしいな…」
自分が郷愁に耽っていたのが、テレパシーか何かでバレたのだろうか?
木原社長にいきなり昔の呼び名で呼ばれて、心臓が飛び跳ねた。それと同時に近づき過ぎている厚い胸板を両手で押し返した。本当、これがあの可愛らしかった海ちゃんだったとは思えない。
それくらいに男性的なのだ。大きく育った。いや育ち過ぎだろう。この逞しい二の腕にくらっときそうだ。
「…つれないな…ナツは」
顔を斜めにして顎に手をつき、意味深な表情で海斗が見つめてくる。
立派な大人の男の体格になった海斗には、幼い頃からの年齢に削ぐわない色気だけはまだそこに存在していた。男のくせに、その薄い形の良い唇には妙に気になるぐらいの艶がある。切れ長の眼下には優雅にカーブを描く鼻梁がある。見慣れていても、何か不動的な美しさがそこにはあった。
少し社長が目を細めた。
それだけなのに、自分の心拍数が煩く鳴り始める。
先ほどの美形マネージャーと目の前の男の姿が重なる。
自分の趣味を呪いたかった。
ど、どんだけ病んでんだ! 私。
まずい。身内で妄想はしたくない。いや、正確には木原海斗は身内ではないが、ある意味家族以上の存在だ。
ハシタナイ妄想は二次元だけにするって決めたじゃない!と自分を叱る。
あまりにものバツの悪さに顔を下に向けた。
彼を正視できない。
「大丈夫か? ナツ。顔色が悪いぞ…」
彼が長い指先を自分に寄せてくる。
ああ、まずい。
ただちょっと憂いを帯びた顔で指先をこちらに寄せてながら、覗いてくる社長の仕草はやばかった。
昔、彼をただ「海ちゃん」と呼んでいた頃以上の妖艶さがあった。
自分の邪心を突っぱねるかのように木原社長の腕を掴んで自分から離した。
今回の妄想はただではすまない。ただ喜んで男の絡みを妄想するという事は出来なかった。
楽しくない妄想はただの嫌な感情でしかない。
とにかく今日の社長は変だ。
今までこんなに絡んできたことはあまりない。
昔の子供時代の様な関わりは、自分がここに入社した時からがわりと変わったのだ。
もうお互いが「ちゃん」づけの間柄ではないのだ。
海斗、いや、木原社長も、今までの頬を赤らめて言葉が言えないようなシャイな青年ではなくて、もう立派な「俺様」的社長に大変身したではないか。
「しゃ、社長。ここは仕事場です。昔のあだ名で呼ばないでください」
「あ? 昔のあだ名はカッパちゃんじゃないか?」
ぐさっと言われる昔のあだ名でまた足元がクラクラしそうだ。
確かに経済的にあまり豊かでなかった我が家では簡単髪型がモットーであり、幼い時代はおかっぱ頭でかなり過ごしていた。
草野球チームのみんなにはカッパちゃんと確かに呼ばれ続けていた。
もうなんで今更カッパなのよっと、もう二十七歳の妙齢になってきた自分を顧みる。
そうだ。もうそろそろ本当に婚活とか、しないといけないのかもしれない。
こんな偽造婚約を持ちかけられる独身女性ってどんだけなの。幼馴染でなければぶった切るところだったと思う。
一瞬、手元に置いてある週刊誌の切り抜きを見られたと思った。社長の目元がわずかに緩んだ。
意外だ。今までこの手の物に対して無関心だった彼には考えられない面持ちだ。
こんな表情を見せたことはなかった。
どう考えても少し喜んでいるような様子だった。
「…あの、こちらは」
どうせちょっと意見を聞くつもりだったから、今、聞いてみた。答えはわかっていると思っていた。きっと「ほっておけ…」といつものように言われるに違いないと信じて。
彼が少し眉を寄せて自分をみる。
少しの間があった。
「ああ、それはまあ、俺に電話番号を回してくれ。俺から直接連絡する」
驚きのあまり体のバランスをまた崩しそうだった。
今までこのようなケースに木原社長が入ることは一切なかった。
「…なんだ? 意外か」
「あ、はい。ちょっと驚きました」
やはりあの美形の男が本命なのだと思う。
少し胸を軋ませる痛みを感じないように顔には微笑みを浮かべた。
木原社長がそれを無表情ないつもの顔で見ていた。感情が読み取れない。
ただ自分の手はデスクの上の違うファイルに置いていた。書いてあるのに、出せないでいた結婚相談所の入会への申し込みだった。外からはそれが何なのかは見えない。
潮時かもしれないなぁっと思っていると、横からまた声がした。
「さっきの件だが……」
「え? 週刊誌」
「いや、その婚約についてだが……」
すこし気まずい雰囲気が流れた。
確かにすでにこの本命の彼氏の存在がこの週刊誌の女の影に見え隠れしているのだ。
幼馴染とはいえ、彼は自分が彼の趣向について知っているとはまさか思うまい。
「社長、申し訳ないですが…私はそういうつもりは……」
「……そうか」
「……力になれなくて申し訳ありません」
そういうと、その答えが意外かのように彼がこちらを見つめる。
今の答えがいけなかったのだろうか。
「ナツ……付き合っている男がいるのか?」
力のこもった視線が来た。
「……いませんけど。社長、呼び名、ナツはやめてください」
だが、彼は自分のいう事は半分聞いていない様子だ。
目だけは真剣な様子なのに。
「……じゃあ、好きな男がいるのか?」
「……なんでそんな事」
「…いるから拒んだのか?」
「…ひ、秘密です。し、社長に言う必要ないじゃないですか」
「なっ……」
ちょうどよく手元の電話がなる。目の前の壁のような男を押しのけて受話器を取る。よかった。大手出版社の社長さんだった。彼のプロファイルが入っている卓上名刺ホルダーを素早く探す。愛犬の話や娘さんの話をこちらからふる。
話題をわざと長くしようとしたのが木原社長にもバレていたかもしれない。
諦めたように社長が踵を返して社長室に戻ろうとしていた。
かすかに彼がこう言ったように聞こえた。
「……誰だ…そいつは」
え?
思わず、受話器を手で塞いで、
「幸田出版の葛西社長です……」
と囁き声で話す。
彼はなぜか苦笑いをして社長室に消えていく。
社長が今日はおかしい。なぜ?
くだらないと思われる疑問が頭の中で浮かんでは消えているうちに普段の業務が忙しくなり、そのことについてはすっかり帰宅時間になるまで忘れてしまった。
でも帰宅時が迫ると、また同じ様な質問が繰り返されるのではないかと何か焦り始めていた。
なぜなら、なんども時計と睨めっこしているのかと思われるくらいの頻度で、木原社長がドアから顔を覗かせて、「今、時間はないか?」と聞いてくるのだ。仕事の話ですかっと聞くと、眉間にシワを寄せるだけで、違うということがわかる。
「忙しいので、いまは無理です」っと言う。
正直、まだ詳しくは聞いていない本命の彼氏についての説明も、偽造婚約の話も、今日はもう聞きたくなかった。
騒いでしまっている自分の気持ちに、嫌気がする。
どうせならちょっと心を落ち着けた明日にでもして欲しかった。
どう考えても、笑顔で彼の話を聞く自信はなかった。
ほつれそうな糸をもう引っ張られないようにと自分でその糸の切れ目を相手から隠したかった。
ずっとこの日を恐れて、自分はこのどうしようもない気持ちを自分の奥深くに、漏れないように、固めて、固めて、塗り固めてきたつもりだった。
それはまるで保育園で友達と競争して作った泥団子だとふと思った。
誰が一番固い泥団子を作れるか競争したのだ。
ちょっと濡れた砂で中心を作る。そして、ちょっと乾いた砂で塗していくのだ。
でもたかが泥団子だ。
子供の手でも強く握れば、グシャと意図も簡単に潰れてしまう。
今の自分の心のように。
離れた席に座っている第二秘書の新卒の高槻護が唖然とした顔をしている。
社長が顔をもっと顰めて何度も社長室に消える様子に、
「す、すごいですね。あの木原社長にバシっと言えるのは島崎さんしか我が社ではいなんじゃないですか?」
と言ってきた。彼はフレックス制で時間差で出社しているので、私達の朝の微妙なやりとりを知らないのだ。
いや自分よりもっとすごいのが、グループ内にはいると思うが苦笑いで後輩に油を売らないで仕事をするように進言する。もちろん、そのすごいやつとは自分の兄だ。グループ企業に勤めていて、現在、海外に出行中だ。
社長の趣向はわかっているつもりでも、今まで入社してから自分を見ても無表情だった社長に真剣に「婚約してくれ」と言われたら、例えそれが嘘だとしても、グラグラしてしまう。
これでは今までのただの上司と部下としての良好関係が保てない。
いや幼馴染としても不適切だ。
なんだかもう社長に顔を合わすのが嫌になった。
帰宅時もほとんど彼と目を合わさずにさっと挨拶をして、さっとバックを無造作にもぎ取ると、呼び止めようとする木原社長にお構いなしに、「どうしても今日、急な先約があるんです!!」と宣言して会社を飛び出していた。
「な、那月!」と呼ぶ声がした。
それを防ぐかのように高槻が社長を止めている。
ナイスジョブだ。
高槻。
接待の打ち合わせを社長とするようにと出る前に彼に言っていたのだ。
完全に彼は高槻に足止めされていた。
ああ完全に秘書失格だ。
幼馴染としても失格だ。
もう泥団子はただの砂だ。
手はただ泥だらけで、もうその残りの砂はただ砂場に戻すしかない。
他の泥と砂に紛れてそれの形も影も残さない。
会社の正門ロビーを急いで出たら、熱気が顔を覆った。
まるでそれは今日の朝の木原社長が自分にした突然の攻撃みたいだった。
まだ5月の中旬なのにこの暑さ。
梅雨もまだきてもいないのに…。
夏はまだ始まっていなかったのだ。
それなのに。
彼にちょっと触れられた腕にまだ熱が帯びていた。
自分は、まるでもう夏が始まったかのような、持て余す熱に体を震わせながら、早足で家路へと急いだ。
急いで先ほどコンビニに駆け込んで買ってきた。
自分のデスクに戻りさっとその問題のページを探し出す。
バッチリと社長と女優の記事が目に入った。
嘘ネタとはわかっているが、女が本気なのが経験上、手に取る様にわかる。
こんなカメラマンが取りやすい位置でこの撓った姿だ。
私、島崎那月、二十七歳。
父母のいない兄だけで家庭で、色々人生擦った揉んだの挙句、この御曹司の幼馴染の兄のたっての願いでここに就職した。
木原海斗は今年で御年三十一歳。水の滴るいい男とはまさに彼のような人を形容しているのだと思う。
彼は自分の四歳年上の兄、島崎慶太と同年齢だ。
「あいつはバカだから…な」
と自分よりはるかにいい学歴を持った男を貶しながら、そう辛辣に言い放す兄の慶太の言葉の余韻には悪意は感じられない。
当時小学生の御曹司が、これが何のきまぐれかは知らないが、入部した草野球チームからの縁の幼馴染み、慶太ならではの言い草だ。
「だからお前が助けてやれ…お前にしかこの問題は解決できない」
と言われ引き摺るようにここに連れてこられて、ここの本社の門をくぐったのが数年前だ。
あの小学生の草野球チームに突然現れた海斗に、監督も慶太も、ただの見学専門である自分に「那月、お前が見ている間に、ルールを教えてやれ」と言った。
まさに慶太の頼み方は同じだった。
たかがちょっと兄より学歴を持った妹にこんな畏れ多い肩書きを持つ御曹司の何のお手伝いができるのかと懐疑的だったが、それは入社してすぐに通常業務以外の男女のいざこざに巻き込まれて、何で自分がここに呼ばれたのかをよく理解した。
だから、この手の話が初めてのことではないのだ。
ただそれがメジャーな週刊誌にイニシャルで載ってしまっただけの話だ。
長年の付き合いのおかげで自分がこの海斗社長になびかないと知っている兄は自分を急遽空いた秘書のポジションに自分を推薦したのだ。この推薦はある意味当たっていただろう。
兄以上に…彼の趣向を理解しているから…。
すでに今朝、会社宛に彼女のマネージャーらしき人からメッセージが入っている。
『お話がしたいことがありまして…』とあるが、どちらにせよ、こちらにとってはいい話ではないはずだ。
無視するか返信するか悩んだ後、あるところにメールを出す。
木原が社長に就任してから、彼の交際範囲がどんどんと広がっていくとは対称的に、木原の個人の携帯番号を知る者は増えているようには思えない。彼のポジションを考えると仕方がない。だから、その皺寄せは全て自分に来る。皆、木原社長を求める人たちは、今自分の目の前の固定電話にメッセージを残すのだ。
問題の女優のマネージャーという人からのボイスメッセージをまた聞きながら、ため息をつく。でも、まあこのくらいなら秘書としてさっさとやっつけて、通常の仕事に戻ればいいと思っている。さらにいくつかのところにメールをする。今夜も重要取引先との接待がある。そのセッテングの最終確認もしないといけない。英訳の会議資料ももう一度チェックしてしないと。猫の手でも借りたいほどの忙しさだ。
それなのにあんな馬鹿げた工作……。
木原社長が言った言葉を思い出して仕事に集中出来ない。
有難くない形のはっきりしない感情を剥ぎ取りたいがのごとく、手元だけを忙しくさせた。今日の接待の参加者の再確認と場所をメールでチェックする。変更はなさそうだった。
幸い、かなり酒に弱い自分はその様な接待の場所にはほとんど出なくていいことが決まっている。
自分の立場から言うと、かなり珍しい特例だ。
酒は好きだが、強くはない。
欧州留学時代ではあまり感じなかったが、やはり日本の接待は、何か秘書という立場は、どっちかというと酒の席の華と言う感じだ。
ニコニコしながら、お酒を注ぐ。まるでホステス!と思うが、まだまだ日本の社会は女性の立場は低いのではないかと言う感じは拭えない。自分がしないと決めてもそれが当然という顔の取引先の方も実際に存在するのだ。
でも、英国に学生時から留学していた木原社長はバッチリとレディーファーストを叩き込まれていて、自分がそんなことでもしようなら氷よりも冷たい目線でこちらを見つめる。
最初の接待で社長同席の元、隣からビールのガラスを持ち上げてニコニコして来るおじさまについお酌をしたら、あっという間に、知らない間に立ち上がっていて横にいた社長に腕をぐいっと掴まれて、そのまま店の外に連れ出された。
「俺はお前をホステス代わり雇ったつもりは全くない。そんな暇があるなら、家に帰って相手の会社のデータをまとめろ」とまで言われた。
掴まれた手首を持つ木原社長には、昔のオドオドしていつも頬を赤らめていた少年の面影はなかった。
仕事のできる立派な大の男の顔だった。
そんな男前に中身も外見も育ってしまった幼馴染の面につい見惚れてしまう。
最初は自分が何で怒られたのかを理解できなかった。
でも、本当に会社が自分に支払う給料の額を考えると、それは確かに説得力のある話なのだ。
飲めない酒をどんどん勧めてくる相手先のお偉方に正直辟易していたから、無理やりタクシーに乗せさせられてそこを去った時、まあちょっと有難いと思ってしまった。
次の日、あれからどうしたのかと訊ねたら、「お前は急遽具合が悪くなって帰ったことにした」と言われた。しかもどうやらいやいやの作り顔でのお酌がバレていた様で、「あちらがその気分なら、それの道のプロに任せた方がいいだろ」っとまで言ってきた。
あの後、どうやら銀座の夜に一行は流れたと聞いた。
確かにプロの接待には自分も負ける。社長のいう事に一利はあった。
それからと言うもの、ほとんど夜の接待には付き合わないでいいことが慣例化された。
その代わり、夜のお誘いが増えた社長は、だんだんとそのプレイボーイ的な噂を加速させていく。
そんな昔の話をぼうっと考えていると、先ほどのメールからの返信がきていた。いつもお世話になっているから、ネタはあっちがすでに持って待ち構えていたのかもしれない。
写真が添付されている。
踏み込んでもいいと、いつも社長からは言われているのだが、上司と部下という関係上、一応ラインは引いているつもりだ。個人的なことまで侵入したくはないが、週刊誌に載っている様な事項は、ある程度探りを入れないと思ったのだ。
社長がハニートラップなどにかからない様にするためだ。
先ほど頼んだのは、いつも個人的にお世話になっている探偵事務所からの返信だった。
ファイルを開けて写された三十代前半ぐらいの美形の男を見る。
「なるほど。美形だわ。もしかして、こっちが本命?」
どれどれ借金もないし、この業界にいるにしては真面目か。
先ほどの噂になった女優のマネージャーだった。
社長の趣味をわかっていても、気分はやはり複雑だ。
あんな可愛い女の子みたいだった海ちゃんが、ああー、こんな美形を食っちゃう野獣になっちゃって~と言いながら、エンターテイメントの記事を切り抜いた。だってもういまの海斗は、昔の小学生の時の、あのレースとかのブラウスが似合うような美少年ではなく、細身ながらもがっちりと筋肉がついているのがスーツからわかるくらいの、長身でちょっとワイルド感が漂う男なのだ。
「おい、誰が…野獣だ…」
頭の上で声がした。声が漏れていたらしい。
ドキッとして慌てて立ち上がると、自分の椅子がカラカラと音を立てながら後ろにずれる。それに合わせるかの様に、五センチのパンプスが運悪くバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
ぐいっと男らしい逞しい腕に支えられた。かすかなスパイスと甘い香りが混じった匂いが彼のノリが効いているストライプのシャツとネクタイの間からした。
「社、社長、申し訳ありません」
「……ナツは相変わらずそそっかしいな…」
自分が郷愁に耽っていたのが、テレパシーか何かでバレたのだろうか?
木原社長にいきなり昔の呼び名で呼ばれて、心臓が飛び跳ねた。それと同時に近づき過ぎている厚い胸板を両手で押し返した。本当、これがあの可愛らしかった海ちゃんだったとは思えない。
それくらいに男性的なのだ。大きく育った。いや育ち過ぎだろう。この逞しい二の腕にくらっときそうだ。
「…つれないな…ナツは」
顔を斜めにして顎に手をつき、意味深な表情で海斗が見つめてくる。
立派な大人の男の体格になった海斗には、幼い頃からの年齢に削ぐわない色気だけはまだそこに存在していた。男のくせに、その薄い形の良い唇には妙に気になるぐらいの艶がある。切れ長の眼下には優雅にカーブを描く鼻梁がある。見慣れていても、何か不動的な美しさがそこにはあった。
少し社長が目を細めた。
それだけなのに、自分の心拍数が煩く鳴り始める。
先ほどの美形マネージャーと目の前の男の姿が重なる。
自分の趣味を呪いたかった。
ど、どんだけ病んでんだ! 私。
まずい。身内で妄想はしたくない。いや、正確には木原海斗は身内ではないが、ある意味家族以上の存在だ。
ハシタナイ妄想は二次元だけにするって決めたじゃない!と自分を叱る。
あまりにものバツの悪さに顔を下に向けた。
彼を正視できない。
「大丈夫か? ナツ。顔色が悪いぞ…」
彼が長い指先を自分に寄せてくる。
ああ、まずい。
ただちょっと憂いを帯びた顔で指先をこちらに寄せてながら、覗いてくる社長の仕草はやばかった。
昔、彼をただ「海ちゃん」と呼んでいた頃以上の妖艶さがあった。
自分の邪心を突っぱねるかのように木原社長の腕を掴んで自分から離した。
今回の妄想はただではすまない。ただ喜んで男の絡みを妄想するという事は出来なかった。
楽しくない妄想はただの嫌な感情でしかない。
とにかく今日の社長は変だ。
今までこんなに絡んできたことはあまりない。
昔の子供時代の様な関わりは、自分がここに入社した時からがわりと変わったのだ。
もうお互いが「ちゃん」づけの間柄ではないのだ。
海斗、いや、木原社長も、今までの頬を赤らめて言葉が言えないようなシャイな青年ではなくて、もう立派な「俺様」的社長に大変身したではないか。
「しゃ、社長。ここは仕事場です。昔のあだ名で呼ばないでください」
「あ? 昔のあだ名はカッパちゃんじゃないか?」
ぐさっと言われる昔のあだ名でまた足元がクラクラしそうだ。
確かに経済的にあまり豊かでなかった我が家では簡単髪型がモットーであり、幼い時代はおかっぱ頭でかなり過ごしていた。
草野球チームのみんなにはカッパちゃんと確かに呼ばれ続けていた。
もうなんで今更カッパなのよっと、もう二十七歳の妙齢になってきた自分を顧みる。
そうだ。もうそろそろ本当に婚活とか、しないといけないのかもしれない。
こんな偽造婚約を持ちかけられる独身女性ってどんだけなの。幼馴染でなければぶった切るところだったと思う。
一瞬、手元に置いてある週刊誌の切り抜きを見られたと思った。社長の目元がわずかに緩んだ。
意外だ。今までこの手の物に対して無関心だった彼には考えられない面持ちだ。
こんな表情を見せたことはなかった。
どう考えても少し喜んでいるような様子だった。
「…あの、こちらは」
どうせちょっと意見を聞くつもりだったから、今、聞いてみた。答えはわかっていると思っていた。きっと「ほっておけ…」といつものように言われるに違いないと信じて。
彼が少し眉を寄せて自分をみる。
少しの間があった。
「ああ、それはまあ、俺に電話番号を回してくれ。俺から直接連絡する」
驚きのあまり体のバランスをまた崩しそうだった。
今までこのようなケースに木原社長が入ることは一切なかった。
「…なんだ? 意外か」
「あ、はい。ちょっと驚きました」
やはりあの美形の男が本命なのだと思う。
少し胸を軋ませる痛みを感じないように顔には微笑みを浮かべた。
木原社長がそれを無表情ないつもの顔で見ていた。感情が読み取れない。
ただ自分の手はデスクの上の違うファイルに置いていた。書いてあるのに、出せないでいた結婚相談所の入会への申し込みだった。外からはそれが何なのかは見えない。
潮時かもしれないなぁっと思っていると、横からまた声がした。
「さっきの件だが……」
「え? 週刊誌」
「いや、その婚約についてだが……」
すこし気まずい雰囲気が流れた。
確かにすでにこの本命の彼氏の存在がこの週刊誌の女の影に見え隠れしているのだ。
幼馴染とはいえ、彼は自分が彼の趣向について知っているとはまさか思うまい。
「社長、申し訳ないですが…私はそういうつもりは……」
「……そうか」
「……力になれなくて申し訳ありません」
そういうと、その答えが意外かのように彼がこちらを見つめる。
今の答えがいけなかったのだろうか。
「ナツ……付き合っている男がいるのか?」
力のこもった視線が来た。
「……いませんけど。社長、呼び名、ナツはやめてください」
だが、彼は自分のいう事は半分聞いていない様子だ。
目だけは真剣な様子なのに。
「……じゃあ、好きな男がいるのか?」
「……なんでそんな事」
「…いるから拒んだのか?」
「…ひ、秘密です。し、社長に言う必要ないじゃないですか」
「なっ……」
ちょうどよく手元の電話がなる。目の前の壁のような男を押しのけて受話器を取る。よかった。大手出版社の社長さんだった。彼のプロファイルが入っている卓上名刺ホルダーを素早く探す。愛犬の話や娘さんの話をこちらからふる。
話題をわざと長くしようとしたのが木原社長にもバレていたかもしれない。
諦めたように社長が踵を返して社長室に戻ろうとしていた。
かすかに彼がこう言ったように聞こえた。
「……誰だ…そいつは」
え?
思わず、受話器を手で塞いで、
「幸田出版の葛西社長です……」
と囁き声で話す。
彼はなぜか苦笑いをして社長室に消えていく。
社長が今日はおかしい。なぜ?
くだらないと思われる疑問が頭の中で浮かんでは消えているうちに普段の業務が忙しくなり、そのことについてはすっかり帰宅時間になるまで忘れてしまった。
でも帰宅時が迫ると、また同じ様な質問が繰り返されるのではないかと何か焦り始めていた。
なぜなら、なんども時計と睨めっこしているのかと思われるくらいの頻度で、木原社長がドアから顔を覗かせて、「今、時間はないか?」と聞いてくるのだ。仕事の話ですかっと聞くと、眉間にシワを寄せるだけで、違うということがわかる。
「忙しいので、いまは無理です」っと言う。
正直、まだ詳しくは聞いていない本命の彼氏についての説明も、偽造婚約の話も、今日はもう聞きたくなかった。
騒いでしまっている自分の気持ちに、嫌気がする。
どうせならちょっと心を落ち着けた明日にでもして欲しかった。
どう考えても、笑顔で彼の話を聞く自信はなかった。
ほつれそうな糸をもう引っ張られないようにと自分でその糸の切れ目を相手から隠したかった。
ずっとこの日を恐れて、自分はこのどうしようもない気持ちを自分の奥深くに、漏れないように、固めて、固めて、塗り固めてきたつもりだった。
それはまるで保育園で友達と競争して作った泥団子だとふと思った。
誰が一番固い泥団子を作れるか競争したのだ。
ちょっと濡れた砂で中心を作る。そして、ちょっと乾いた砂で塗していくのだ。
でもたかが泥団子だ。
子供の手でも強く握れば、グシャと意図も簡単に潰れてしまう。
今の自分の心のように。
離れた席に座っている第二秘書の新卒の高槻護が唖然とした顔をしている。
社長が顔をもっと顰めて何度も社長室に消える様子に、
「す、すごいですね。あの木原社長にバシっと言えるのは島崎さんしか我が社ではいなんじゃないですか?」
と言ってきた。彼はフレックス制で時間差で出社しているので、私達の朝の微妙なやりとりを知らないのだ。
いや自分よりもっとすごいのが、グループ内にはいると思うが苦笑いで後輩に油を売らないで仕事をするように進言する。もちろん、そのすごいやつとは自分の兄だ。グループ企業に勤めていて、現在、海外に出行中だ。
社長の趣向はわかっているつもりでも、今まで入社してから自分を見ても無表情だった社長に真剣に「婚約してくれ」と言われたら、例えそれが嘘だとしても、グラグラしてしまう。
これでは今までのただの上司と部下としての良好関係が保てない。
いや幼馴染としても不適切だ。
なんだかもう社長に顔を合わすのが嫌になった。
帰宅時もほとんど彼と目を合わさずにさっと挨拶をして、さっとバックを無造作にもぎ取ると、呼び止めようとする木原社長にお構いなしに、「どうしても今日、急な先約があるんです!!」と宣言して会社を飛び出していた。
「な、那月!」と呼ぶ声がした。
それを防ぐかのように高槻が社長を止めている。
ナイスジョブだ。
高槻。
接待の打ち合わせを社長とするようにと出る前に彼に言っていたのだ。
完全に彼は高槻に足止めされていた。
ああ完全に秘書失格だ。
幼馴染としても失格だ。
もう泥団子はただの砂だ。
手はただ泥だらけで、もうその残りの砂はただ砂場に戻すしかない。
他の泥と砂に紛れてそれの形も影も残さない。
会社の正門ロビーを急いで出たら、熱気が顔を覆った。
まるでそれは今日の朝の木原社長が自分にした突然の攻撃みたいだった。
まだ5月の中旬なのにこの暑さ。
梅雨もまだきてもいないのに…。
夏はまだ始まっていなかったのだ。
それなのに。
彼にちょっと触れられた腕にまだ熱が帯びていた。
自分は、まるでもう夏が始まったかのような、持て余す熱に体を震わせながら、早足で家路へと急いだ。
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