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初夜二 *
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気がつくと、すでにどこだかわからないが、誰かのお屋敷と思われる、重厚な雰囲気が漂う寝室にいた。
え?? っと、何が起こったか、わからないディアナは興奮しながらも、パニックになっている。
「イーサン様、これって?」
「大丈夫だ。これはクロス公邸の中の我々の新たな寝室だ。わかったか? 俺も出来た時点で、非常にびっくりしたんだが、君に毎晩、会いに行っている間に、転移できる自分に気がついたんだ……。君への想いがこれを可能にしたんだ……」
「すごいです。こんな魔法、見たこともないですわ」
「そうなんだ、この国では、こんなことできる奴は誰もいない。でも、これで、時間が短縮できて、君にいつでも会える……」
夫婦になったばかりの二人はじっと見つめあった。部屋には灯りが一つ灯されていたが、ほとんどの明かりは重厚なカーテンの間から洩れる二つの月の光だった。
イーサンはその月明かりによってさらに顔のシルエットを際立たせたディアナの顔をみる。イーサンの胸に熱いものが押し寄せた。
「……ディアナ、ごめん、もう、待てない……」
まるでそのこもった熱で湯気が見えそうなくらい、イーサンは恍惚とした表情をディアナに向けていた。
ディアナのために用意されていた夫婦の寝室は、寝台にはこの国では珍しい薔薇と呼ばれる花びらが撒かれており、その芳しい匂いが、ディアナの感覚を酔わせた。
まるでこうやって現れてくるのを予想していたかのように、部屋はあちらこちらにディアナの好きな花や色合いのカーテンが施され、イーサンの気遣いに感謝した。そして、新婚のカップルに何が一番必要かわかっているかのように、邪魔するものは誰もいなかった。いつもいるだろうと思われるメイド達の影も感じられないほど、その花の匂いが香る部屋はひっそりとしていた。
イーサンは自分の黒の外套を勢いよく剥ぎ取り、寝台の傍に投げ捨てた。そして、今までその男らしい首元を縛り上げていた襟元のカラーの留め金を外していく。その乱れたシャツと騎士団長の正装の上着があまりにもディアナにとっては、抗えない色気を放っていた。そんな艶やかな姿のイーサンにディアナは目が離せない。
「おや? 姫はこう言うのがお好きなのか?」
自分の服を脱ぎながら、ディアナの真っ直ぐすぎる視線を浴びて、イーサンがディアナを揶揄う。
ディアナの顔が林檎のように赤くなる。
「ひ、酷いですわ。イーサン様、だってそんな、貴方のような逞しい身体を見せつけられては……」
イーサンがまるでその微笑みでさえ、愛の前戯のように淫らに口角を上げながら、答えた。
「貴方ほどではないよ……」
イーサンの指がまたディアナの顎を上げた。
そして、熱い接吻を繰り返した。
ディアナは、ほとんど、先ほどの転移魔法に興奮していて、一番大事なことを忘れていた。
今夜は夫婦の最初の夜なのだ。猛烈にイヤらしい口付けに翻弄されながら、ディアナは考えていた。
それを思うと心臓がパンクしそうなくらいにドキドキした。
口を寄せながら、時々見つめてくるイーサンの獣のような視線が、ディアナの体の芯を熱くさせた。今までも感じてきたが、少し親密になってからというもの、ディアナは、イーサンの全ての仕草やその佇まいだけで、自分の顔が時々、火照ってしまうのだ。
本当に、信じられなかった。
あのイーサン様が自分の夫になってくれるなんて……。
キスの合間に見える月明かりに映し出させるイーサンの顔は、とても男らしいと共に、眩しいほどの綺麗さがあった。
ディアナは、高鳴る心臓の音を抑えながら、ただ、その神秘的な光により現れるすっと通った鼻梁の形を眺めた。
ああ、イーサン様の鼻の形でさえ、何か心を騒がせる。
毎晩、あの愛の言葉がディアナを心から震えてしまうほど、幸せな気持ちにさせてくれた。
元々、イーサンは生真面目なタイプだったから、愛の言葉や、ささやきなどは、あまり得意ではないと思っていた。
それなのに、毎晩、現れては、「愛してる……ディアナ……君は僕の女神だ……」とか、想像以上なことを言われ続けて、今までに自分が受けてきた心の傷、あの社交界デビュー、そして、イブとしてのイーサンとのやりとり、修道院へ行くと決めた時の自分の気持ち、それらは段々と癒されていくことに気がついた。
唇を名残惜しそうにディアナから離し、少しイーサンが申し訳なさそうに話す。
「本来なら、君はメイド達と、その、今晩のために……湯浴みをするのだが……」
すでにそういいながら、イーサンはディアナの靴を脱がし、その可愛らしい足にまとわりついている純白のストッキングに手を滑らせていた。
「……君の体調が良ければ、今晩、君と……繋がりたい……」
ディアナも同じ気持ちだった。
はしたないと思われるかもしれないが、イーサンの口付けや、あの林檎の樹の下での秘め事が、いつも忘れられず、ときどきイーサンに会えないと、何か体が熱い。砂漠にいる旅人がオアシスの水を求めるがのごとく、イーサンを待ちわびている間に、自分の芯が疼くのだ。
「私もです……イーサン様と、繋がりたい……」
そんな言葉が、全く聞けるとは思っていなかったイーサンは、一瞬、口を半開きに開けたまま、呆然としていた。だが、そのうちに、すぐにスイッチが切り替わった機械のごとく、その顔には至福の笑みがこぼれた。
「……ディアナ、そんな嬉し過ぎること、言うと、気遣わないといけないのに、眠れないほど、君を抱いてしまいそうだ……」
イーサンがディアナを寝台の上に押し倒した。
また彼の美しい上唇と下唇がディアナの唇を優しく、でも執拗についばんだ。彼の唇は、その体の筋肉とは全く違い、柔らかだった。イーサンの男の香りがディアナを包んだ。
次第に、その熱い抱擁と口づけが段々と深まっていた。ディアナの口腔は、イーサンの唇と、そのイヤらしいほどのしつこい舌に侵食され、もう歯列さえ全てイーサンの舌がマーキングを繰り返す。
先ほどの接吻も大人の味がしたが、今回のものは、なにか野獣に襲われているかのような切迫したものだった。
こんなキスは、経験したことがなかったディアナは、思わず、声が漏れた。
「はぁ……んっ、い、イーサン様!」
その桃色の吐息を聞いた刹那、イーサンは何かを重大なミッションを持った騎士が出動するかのように、ディアナの耳元へとその違う生き物のような舌を這いずらせた。
耳が弱いっと知ったのは、ディアナにとっては、イーサンとこんな時になって初めて知ることだった。あまり、酒など入らないと多くを語らない恋人は、丁寧にディアナの耳を舐め回しながら、己の吐息を彼女の耳元で漏らせる。
「あ、わたし、いやぁん、弱いんですっ、ああ」
「……ああ、そうかディアナ、ではちょっと鍛錬しないとな……」
なんの鍛錬なの? と唖然としながら、イーサンは無言のまま、愛撫と口づけを首元から胸元に移していく。
そして何かに気がついたのか、少しディアナを抱き起こし、純白のウェディングドレスと、その下に隠れている鎧のようなコルセットと外していく。フックが多いので、取るのにも手こずりそうだった。
「……あの、大丈夫でしょうか? メイドを呼びましょうか?」
気遣いのつもりで言ったのだが、イーサンの答えは言葉より態度に現れていた。
少しずつ後ろのホックをそのゾクゾクするような、這いずる手つきで、徐々に外していく。どんどんと外していくのかと思いきや、コルセットの前にある紐も徐々に緩め始めた。
そして、段々と露わになっていくディアナの美しい背中にイーサンが熱いキスを落としていく。コルセットもドレスもほとんど、意味がなさない布切れの塊として、ディアナの腰下までずり下ろされた。
「ああっ………」
隠そうと思っていても、イーサンの愛撫から生み出される感覚にはまだディアナは慣れていなかった。
思わず声が漏れてしまう。
「こんな名誉な仕事、正直、メイドにやるのにはもったいない……」
ディアナのウェディングドレスの膨らみを抑えながら、イーサンは巧みに自分の両手を背中からディアナの胸前に滑り込ませた。そして、ベットの上で座りながら、後ろから抱え込むような姿勢で、ディアナの胸の見事な双峰の膨らみをいたぶりだす。
恥ずかしさとそれとは全く反対の欲求が重なり合い、何かを言おうと思ったら、ディアナは唇を横からイーサンに塞がれた。
漏れる吐息でさえも、イーサンは吸い上げてしまうのだ。
室内は差し込む青白い光で、自分の盛り上がっている胸にイーサンの大きな両手が弄っているのが、よくわかった。
その恥辱的な映像に、なぜだか恥ずかしさと同時に、別の想いも出てきてしまう。
それをイーサンに気がつかれたくなくて、身を捩りながら、下唇を噛む。
そんな様子に気がついたのか、イーサンが優しく囁いた。
「……大丈夫、気持ち良くなっていいんだ……。初めてのやり直しだ……」
耳元で、お腹に響くような低音の声を出され、知らない間に、自分のドローワーの中が濡れているような気がした。
丹念にイーサンの指がディアナの滑らかで美しい肌とその魅惑的な身体の形を確かめていく。
そして、イーサンのその長い指が、ようやく目的地はここだったかと思い出したように、ディアナの脚の間の秘めたるところに降りていく。
強くもなく、また、決して弱くもない微妙な指触りは、まだあまりこのような経験がないディアナを震わせた。
「……愛してる。ディアナ……緊張しないで……」
「でも、私……」
にっこりとイーサンは、ディアナの手を自分の心臓に寄せた。
すると、その厚い隆々とした筋肉の下から、物凄い激しい心音をその手の中にディアナは感じる。驚きの表情がディアナに浮かんだ。
「僕だって、物凄い緊張しているんだ……ディアナ。今晩が君を、ディアナとして、初めて抱くのだから……」
「……イーサン様……」
「君を妻に娶れて、僕は本当に幸せだ……。君は僕にとっては、最初は大事な妹みたいなものだった。でも、君が枯葉の中で戯れているうちに、あんまり可愛いことを言い出すから、僕の心は奪われてしまったんだ」
「……え?」
「君が、僕がお化けの餌食になるように言ったら、君が一緒に、枯葉の中に隠れようと言ったんだ。覚えているかい?」
「はい、覚えています……」
「もうあの頃から、幼い君に惹かれていたんだ。でも、それがまだ何かはよくわからなかった。君があの枯葉のマジックで隠れる姿は、まだ脳裏に焼き付いている……」
イーサンが優しく微笑んでる。
「しかも、その魔法で僕まで助けてくれようとは、なんたる優しい、可愛いお嬢さんだと思ったよ……」
「……恥ずかしいです。そんなこと、覚えていらしただなんて……」
「僕からしたら、あれは宝石箱のような思い出だ」
あの、我を忘れてしまいそうな怒りがこみ上げてきた、ガイザーとの対峙の後に、天から舞い降りてきた一枚の葉が、まさか自分をここまで冷静にする力があるとは、今でも驚きなのだ。でも、それは全て、心優しいディアナのお陰だった。あの枯葉が彼を、ディアナがいるこの世界に冷静に引き戻してくれたのだ。
あの微笑ましい思い出がイーサンの廃れた心を癒したのだ。
「……さあ、まだ始まったばかりだ……。夫婦の営みを始めなければ……」
そう言って、イーサンは先ほど触れかかったディアナの熱い部分からを触り出す。
すでにもうドローワーは脱がされていた。
イーサンの巧みな指使いと、熱いキスによって、何度もうねるような快感がディアナのか細い身体に溜まっていく。イーサンは的確にディアナを焦らさせ、また、彼女がまた求めれば、その動きをイヤらしく早めた。己が暴走するかと心配したのだが、この寝台に横たわる、黄金の絹糸のような髪が散乱し、その白い輝くような裸体のディアナを見ているだけで、幸せな気持ちが胸を押し上げた。
彼女に愛の行為の快感を与えたかった。
自分の愛をこの高まる感情と欲情に合わせて、ディアナに感じ取ってもらいたかった。
そして、またその息遣いがお互いに激しくなってきた時、ディアナのその積もっていた感情と昂まりが一気に爆発した。
ディアナはどくどくと何か体の中の液体が沸騰したかのような感覚を味わった。
初めてではないが、前の時よりも何かがもっと深く感じた。
脚はツンと張りながらも、僅かに痙攣し、甲高い嬌声がディアナから漏れた。
「はぁーーー、嗚呼!!!イーサン、様」
ディアナの全身から一気に力がひいていく。
ちょっとぐったりとしたディアナの乱れた髪の毛をイーサンがその指でそっと直す。
「では、もういいな……」
かなり指と唇で嬲られたディアナの秘所は、滴る液体を纏わり付かせ、主人の気持ちをよそに新たなる侵入者を待ち構えていた。
「……ディアナ、今回は、前みたく、痛みは伴わないはずだ……」
身体に微かな震えを感じながら、こくんっとディアナが頷く。
イーサンは、自分の腰ベルトを外した。そして、ようやくズボンを全部脱いだ。腿の辺りの筋肉は、さすが騎士団の長である、団長であると思うぐらいの相当量の筋肉が付いていた。強靭な肉体がもっと露わにディアナの目の前に現れる。イーサンが、何か耐えられないっといったような切ない表情を見せながら、己自身を解放した。
あまりにもの質量と、その見た目にディアナが引いている。
「……イーサン様、無理かもしれません……」
本能的にディアナは自分の脚を閉じようとした。
「大丈夫、リラックスするんだ………」
ディアナの脚をゆっくりと大きく開かせて、その間に屈強な身体をイーサンは割り込ませた。
視線はディアナから離さない。
ディアナを不安にさせないためか、ディアナの口元とまた口付けで塞ぐ。
「愛してる……ディアナ……いつまでも」
「……はい」
とディアナが返事をしてきた瞬間、イーサンはゆっくりと己を彼女の温かい体内に埋め込んでいく。
やはり予想していたより、狭かったが、そこに絡みついてくるような快感にイーサンはめまいを覚えた。
「……ディアナ! 」
「……い、イーサン様!!」
本当は、ディアナは、一体自分は何をしたらいいのでしょうかと、イーサンに聞きたかったのだ。でも、イーサンのものがディアナに侵入してきたその時点で、ディアナの身体を他の感情と感覚が全て支配した。
もう彼女の口からは、意味をなさない音しか発せなかった。
「あん、はぁーーーーっ、い、ああ」
己をよく知っているイーサンは、少しずつディアナを攻めていった。
ディアナの表情を一つでも見逃さないような真剣さがあった。
ゆっくりと、優しく、でも、獰猛に……。
ディアナと自分が結合していると感じるだけで、天にも登って行くような素晴らしい感覚だった。
正直、本当は今晩ずっとこうしていたかった。
でも、やはりそれは妊婦にはどう考えても辛いものであろうと感じた。
イーサンは、自分の中の昂まりをディアナに合わせた。
彼女の中に侵入しながら、その可憐な粒を自分の指で触り始めた。
ディアナの身体がびくんと跳ねる。
「……、そうだ、感じるんだ……ディアナ」
「……い、いや、ダメ、イーサン様、またきちゃう! ああ、そんな」
イーサンはその昂まりに合わせ、自分の有り余る熱を彼女に注ぎ込む。
彼女の快感に合わせて、ゆっくりと進入を繰り返した。
ディアナの身体の中ががイーサンの形に変わっていく。
己をディアナの滴る愛液の中に擦り込みさせながら、震えながら、また快感を溜め込んでいるディアナを見たとき、もうイーサンは我慢が出来なかった。
「ああ、ダメだ、ディアナ。気持ちが良すぎて……」
イーサンがぐいっとディアナの腰を自分に寄せた。
ディアナの膝の後ろを持ち、大きく開かれている彼女の脚に間に激しく腰を振り、自分を彼女に打ち込み始めた。
ああっとディアナの悲鳴のような声がイーサンをさらに熱くさせた。
「ごめん、ディアナ……!」
パンパンと甲高い音が部屋に響き、ディアナが魚のように反り返りそうだった。
だが、イーサンにがっちりと掴まれ、ただその熱い愛の楔を受け続ける。
これ以上熱くなりえない熱気が二人を高揚させていた。
もう絶対に、イーサンの激情は止まらなかった。
今までのディアナに対する想いを全て己の象徴に注ぎ込んでいく。
激しく粘膜が擦りあい、今までないほどの快感が生み出されていた。
「あ、あ!! ディ、ディアナ!!」
「……!!」
荒々しい息が二人を包む。ディアナもイーサンの狂おしいほどの愛の行為に、心も身体も支配されていた。
全身の毛が逆立ちしそうなくらいの快感の電流がディアナを襲う。
ディアナの悲鳴にも近い、嬌声が響き渡り、イーサンがその熱き飛沫を愛しい女の中に解き放した。
二人の息が上がり、滴る汗が月の蒼い光によって照らされていた。
少し息が戻るまで二人は抱き合っていた。
「……ありがとう。ディアナ、私を受け入れてくれて……」
ディアナはそれはどういう意味なのだろうかと思った。
イーサンとしては、今まで過去に散々な事をしたのに、ディアナがそれを水に流してくれた優しさに感謝していたのだ。でも、ディアナ的には、この夫婦の営みについて言われているのかと思っていた。
「……いえ、大丈夫です。イーサン様。二回めは、その痛く、ありませんでした。お、お恥ずかしいですが、あまりにも、押し寄せる感情というか、感覚が凄すぎて、何も考えられませんでした……」
まだ快感の余韻に浸っているディアナは、幸せでいっぱいだった。
「……そうか、それでいいのだ……」
「愛してる……ディアナ」
「……私もです。イーサン様」
「ディアナ、もう様はいらない。私達は夫婦なのだから……」
頬を桃色に染めたディアナが、答えた。
「イ、イーサン、愛してます……」
抱きしめ合う二人はこれ以上のない幸せを噛み締めあった。
だが、まさか初夜の次の日がトンデモナイ事態になるとは二人とも全く想像していなかった。
え?? っと、何が起こったか、わからないディアナは興奮しながらも、パニックになっている。
「イーサン様、これって?」
「大丈夫だ。これはクロス公邸の中の我々の新たな寝室だ。わかったか? 俺も出来た時点で、非常にびっくりしたんだが、君に毎晩、会いに行っている間に、転移できる自分に気がついたんだ……。君への想いがこれを可能にしたんだ……」
「すごいです。こんな魔法、見たこともないですわ」
「そうなんだ、この国では、こんなことできる奴は誰もいない。でも、これで、時間が短縮できて、君にいつでも会える……」
夫婦になったばかりの二人はじっと見つめあった。部屋には灯りが一つ灯されていたが、ほとんどの明かりは重厚なカーテンの間から洩れる二つの月の光だった。
イーサンはその月明かりによってさらに顔のシルエットを際立たせたディアナの顔をみる。イーサンの胸に熱いものが押し寄せた。
「……ディアナ、ごめん、もう、待てない……」
まるでそのこもった熱で湯気が見えそうなくらい、イーサンは恍惚とした表情をディアナに向けていた。
ディアナのために用意されていた夫婦の寝室は、寝台にはこの国では珍しい薔薇と呼ばれる花びらが撒かれており、その芳しい匂いが、ディアナの感覚を酔わせた。
まるでこうやって現れてくるのを予想していたかのように、部屋はあちらこちらにディアナの好きな花や色合いのカーテンが施され、イーサンの気遣いに感謝した。そして、新婚のカップルに何が一番必要かわかっているかのように、邪魔するものは誰もいなかった。いつもいるだろうと思われるメイド達の影も感じられないほど、その花の匂いが香る部屋はひっそりとしていた。
イーサンは自分の黒の外套を勢いよく剥ぎ取り、寝台の傍に投げ捨てた。そして、今までその男らしい首元を縛り上げていた襟元のカラーの留め金を外していく。その乱れたシャツと騎士団長の正装の上着があまりにもディアナにとっては、抗えない色気を放っていた。そんな艶やかな姿のイーサンにディアナは目が離せない。
「おや? 姫はこう言うのがお好きなのか?」
自分の服を脱ぎながら、ディアナの真っ直ぐすぎる視線を浴びて、イーサンがディアナを揶揄う。
ディアナの顔が林檎のように赤くなる。
「ひ、酷いですわ。イーサン様、だってそんな、貴方のような逞しい身体を見せつけられては……」
イーサンがまるでその微笑みでさえ、愛の前戯のように淫らに口角を上げながら、答えた。
「貴方ほどではないよ……」
イーサンの指がまたディアナの顎を上げた。
そして、熱い接吻を繰り返した。
ディアナは、ほとんど、先ほどの転移魔法に興奮していて、一番大事なことを忘れていた。
今夜は夫婦の最初の夜なのだ。猛烈にイヤらしい口付けに翻弄されながら、ディアナは考えていた。
それを思うと心臓がパンクしそうなくらいにドキドキした。
口を寄せながら、時々見つめてくるイーサンの獣のような視線が、ディアナの体の芯を熱くさせた。今までも感じてきたが、少し親密になってからというもの、ディアナは、イーサンの全ての仕草やその佇まいだけで、自分の顔が時々、火照ってしまうのだ。
本当に、信じられなかった。
あのイーサン様が自分の夫になってくれるなんて……。
キスの合間に見える月明かりに映し出させるイーサンの顔は、とても男らしいと共に、眩しいほどの綺麗さがあった。
ディアナは、高鳴る心臓の音を抑えながら、ただ、その神秘的な光により現れるすっと通った鼻梁の形を眺めた。
ああ、イーサン様の鼻の形でさえ、何か心を騒がせる。
毎晩、あの愛の言葉がディアナを心から震えてしまうほど、幸せな気持ちにさせてくれた。
元々、イーサンは生真面目なタイプだったから、愛の言葉や、ささやきなどは、あまり得意ではないと思っていた。
それなのに、毎晩、現れては、「愛してる……ディアナ……君は僕の女神だ……」とか、想像以上なことを言われ続けて、今までに自分が受けてきた心の傷、あの社交界デビュー、そして、イブとしてのイーサンとのやりとり、修道院へ行くと決めた時の自分の気持ち、それらは段々と癒されていくことに気がついた。
唇を名残惜しそうにディアナから離し、少しイーサンが申し訳なさそうに話す。
「本来なら、君はメイド達と、その、今晩のために……湯浴みをするのだが……」
すでにそういいながら、イーサンはディアナの靴を脱がし、その可愛らしい足にまとわりついている純白のストッキングに手を滑らせていた。
「……君の体調が良ければ、今晩、君と……繋がりたい……」
ディアナも同じ気持ちだった。
はしたないと思われるかもしれないが、イーサンの口付けや、あの林檎の樹の下での秘め事が、いつも忘れられず、ときどきイーサンに会えないと、何か体が熱い。砂漠にいる旅人がオアシスの水を求めるがのごとく、イーサンを待ちわびている間に、自分の芯が疼くのだ。
「私もです……イーサン様と、繋がりたい……」
そんな言葉が、全く聞けるとは思っていなかったイーサンは、一瞬、口を半開きに開けたまま、呆然としていた。だが、そのうちに、すぐにスイッチが切り替わった機械のごとく、その顔には至福の笑みがこぼれた。
「……ディアナ、そんな嬉し過ぎること、言うと、気遣わないといけないのに、眠れないほど、君を抱いてしまいそうだ……」
イーサンがディアナを寝台の上に押し倒した。
また彼の美しい上唇と下唇がディアナの唇を優しく、でも執拗についばんだ。彼の唇は、その体の筋肉とは全く違い、柔らかだった。イーサンの男の香りがディアナを包んだ。
次第に、その熱い抱擁と口づけが段々と深まっていた。ディアナの口腔は、イーサンの唇と、そのイヤらしいほどのしつこい舌に侵食され、もう歯列さえ全てイーサンの舌がマーキングを繰り返す。
先ほどの接吻も大人の味がしたが、今回のものは、なにか野獣に襲われているかのような切迫したものだった。
こんなキスは、経験したことがなかったディアナは、思わず、声が漏れた。
「はぁ……んっ、い、イーサン様!」
その桃色の吐息を聞いた刹那、イーサンは何かを重大なミッションを持った騎士が出動するかのように、ディアナの耳元へとその違う生き物のような舌を這いずらせた。
耳が弱いっと知ったのは、ディアナにとっては、イーサンとこんな時になって初めて知ることだった。あまり、酒など入らないと多くを語らない恋人は、丁寧にディアナの耳を舐め回しながら、己の吐息を彼女の耳元で漏らせる。
「あ、わたし、いやぁん、弱いんですっ、ああ」
「……ああ、そうかディアナ、ではちょっと鍛錬しないとな……」
なんの鍛錬なの? と唖然としながら、イーサンは無言のまま、愛撫と口づけを首元から胸元に移していく。
そして何かに気がついたのか、少しディアナを抱き起こし、純白のウェディングドレスと、その下に隠れている鎧のようなコルセットと外していく。フックが多いので、取るのにも手こずりそうだった。
「……あの、大丈夫でしょうか? メイドを呼びましょうか?」
気遣いのつもりで言ったのだが、イーサンの答えは言葉より態度に現れていた。
少しずつ後ろのホックをそのゾクゾクするような、這いずる手つきで、徐々に外していく。どんどんと外していくのかと思いきや、コルセットの前にある紐も徐々に緩め始めた。
そして、段々と露わになっていくディアナの美しい背中にイーサンが熱いキスを落としていく。コルセットもドレスもほとんど、意味がなさない布切れの塊として、ディアナの腰下までずり下ろされた。
「ああっ………」
隠そうと思っていても、イーサンの愛撫から生み出される感覚にはまだディアナは慣れていなかった。
思わず声が漏れてしまう。
「こんな名誉な仕事、正直、メイドにやるのにはもったいない……」
ディアナのウェディングドレスの膨らみを抑えながら、イーサンは巧みに自分の両手を背中からディアナの胸前に滑り込ませた。そして、ベットの上で座りながら、後ろから抱え込むような姿勢で、ディアナの胸の見事な双峰の膨らみをいたぶりだす。
恥ずかしさとそれとは全く反対の欲求が重なり合い、何かを言おうと思ったら、ディアナは唇を横からイーサンに塞がれた。
漏れる吐息でさえも、イーサンは吸い上げてしまうのだ。
室内は差し込む青白い光で、自分の盛り上がっている胸にイーサンの大きな両手が弄っているのが、よくわかった。
その恥辱的な映像に、なぜだか恥ずかしさと同時に、別の想いも出てきてしまう。
それをイーサンに気がつかれたくなくて、身を捩りながら、下唇を噛む。
そんな様子に気がついたのか、イーサンが優しく囁いた。
「……大丈夫、気持ち良くなっていいんだ……。初めてのやり直しだ……」
耳元で、お腹に響くような低音の声を出され、知らない間に、自分のドローワーの中が濡れているような気がした。
丹念にイーサンの指がディアナの滑らかで美しい肌とその魅惑的な身体の形を確かめていく。
そして、イーサンのその長い指が、ようやく目的地はここだったかと思い出したように、ディアナの脚の間の秘めたるところに降りていく。
強くもなく、また、決して弱くもない微妙な指触りは、まだあまりこのような経験がないディアナを震わせた。
「……愛してる。ディアナ……緊張しないで……」
「でも、私……」
にっこりとイーサンは、ディアナの手を自分の心臓に寄せた。
すると、その厚い隆々とした筋肉の下から、物凄い激しい心音をその手の中にディアナは感じる。驚きの表情がディアナに浮かんだ。
「僕だって、物凄い緊張しているんだ……ディアナ。今晩が君を、ディアナとして、初めて抱くのだから……」
「……イーサン様……」
「君を妻に娶れて、僕は本当に幸せだ……。君は僕にとっては、最初は大事な妹みたいなものだった。でも、君が枯葉の中で戯れているうちに、あんまり可愛いことを言い出すから、僕の心は奪われてしまったんだ」
「……え?」
「君が、僕がお化けの餌食になるように言ったら、君が一緒に、枯葉の中に隠れようと言ったんだ。覚えているかい?」
「はい、覚えています……」
「もうあの頃から、幼い君に惹かれていたんだ。でも、それがまだ何かはよくわからなかった。君があの枯葉のマジックで隠れる姿は、まだ脳裏に焼き付いている……」
イーサンが優しく微笑んでる。
「しかも、その魔法で僕まで助けてくれようとは、なんたる優しい、可愛いお嬢さんだと思ったよ……」
「……恥ずかしいです。そんなこと、覚えていらしただなんて……」
「僕からしたら、あれは宝石箱のような思い出だ」
あの、我を忘れてしまいそうな怒りがこみ上げてきた、ガイザーとの対峙の後に、天から舞い降りてきた一枚の葉が、まさか自分をここまで冷静にする力があるとは、今でも驚きなのだ。でも、それは全て、心優しいディアナのお陰だった。あの枯葉が彼を、ディアナがいるこの世界に冷静に引き戻してくれたのだ。
あの微笑ましい思い出がイーサンの廃れた心を癒したのだ。
「……さあ、まだ始まったばかりだ……。夫婦の営みを始めなければ……」
そう言って、イーサンは先ほど触れかかったディアナの熱い部分からを触り出す。
すでにもうドローワーは脱がされていた。
イーサンの巧みな指使いと、熱いキスによって、何度もうねるような快感がディアナのか細い身体に溜まっていく。イーサンは的確にディアナを焦らさせ、また、彼女がまた求めれば、その動きをイヤらしく早めた。己が暴走するかと心配したのだが、この寝台に横たわる、黄金の絹糸のような髪が散乱し、その白い輝くような裸体のディアナを見ているだけで、幸せな気持ちが胸を押し上げた。
彼女に愛の行為の快感を与えたかった。
自分の愛をこの高まる感情と欲情に合わせて、ディアナに感じ取ってもらいたかった。
そして、またその息遣いがお互いに激しくなってきた時、ディアナのその積もっていた感情と昂まりが一気に爆発した。
ディアナはどくどくと何か体の中の液体が沸騰したかのような感覚を味わった。
初めてではないが、前の時よりも何かがもっと深く感じた。
脚はツンと張りながらも、僅かに痙攣し、甲高い嬌声がディアナから漏れた。
「はぁーーー、嗚呼!!!イーサン、様」
ディアナの全身から一気に力がひいていく。
ちょっとぐったりとしたディアナの乱れた髪の毛をイーサンがその指でそっと直す。
「では、もういいな……」
かなり指と唇で嬲られたディアナの秘所は、滴る液体を纏わり付かせ、主人の気持ちをよそに新たなる侵入者を待ち構えていた。
「……ディアナ、今回は、前みたく、痛みは伴わないはずだ……」
身体に微かな震えを感じながら、こくんっとディアナが頷く。
イーサンは、自分の腰ベルトを外した。そして、ようやくズボンを全部脱いだ。腿の辺りの筋肉は、さすが騎士団の長である、団長であると思うぐらいの相当量の筋肉が付いていた。強靭な肉体がもっと露わにディアナの目の前に現れる。イーサンが、何か耐えられないっといったような切ない表情を見せながら、己自身を解放した。
あまりにもの質量と、その見た目にディアナが引いている。
「……イーサン様、無理かもしれません……」
本能的にディアナは自分の脚を閉じようとした。
「大丈夫、リラックスするんだ………」
ディアナの脚をゆっくりと大きく開かせて、その間に屈強な身体をイーサンは割り込ませた。
視線はディアナから離さない。
ディアナを不安にさせないためか、ディアナの口元とまた口付けで塞ぐ。
「愛してる……ディアナ……いつまでも」
「……はい」
とディアナが返事をしてきた瞬間、イーサンはゆっくりと己を彼女の温かい体内に埋め込んでいく。
やはり予想していたより、狭かったが、そこに絡みついてくるような快感にイーサンはめまいを覚えた。
「……ディアナ! 」
「……い、イーサン様!!」
本当は、ディアナは、一体自分は何をしたらいいのでしょうかと、イーサンに聞きたかったのだ。でも、イーサンのものがディアナに侵入してきたその時点で、ディアナの身体を他の感情と感覚が全て支配した。
もう彼女の口からは、意味をなさない音しか発せなかった。
「あん、はぁーーーーっ、い、ああ」
己をよく知っているイーサンは、少しずつディアナを攻めていった。
ディアナの表情を一つでも見逃さないような真剣さがあった。
ゆっくりと、優しく、でも、獰猛に……。
ディアナと自分が結合していると感じるだけで、天にも登って行くような素晴らしい感覚だった。
正直、本当は今晩ずっとこうしていたかった。
でも、やはりそれは妊婦にはどう考えても辛いものであろうと感じた。
イーサンは、自分の中の昂まりをディアナに合わせた。
彼女の中に侵入しながら、その可憐な粒を自分の指で触り始めた。
ディアナの身体がびくんと跳ねる。
「……、そうだ、感じるんだ……ディアナ」
「……い、いや、ダメ、イーサン様、またきちゃう! ああ、そんな」
イーサンはその昂まりに合わせ、自分の有り余る熱を彼女に注ぎ込む。
彼女の快感に合わせて、ゆっくりと進入を繰り返した。
ディアナの身体の中ががイーサンの形に変わっていく。
己をディアナの滴る愛液の中に擦り込みさせながら、震えながら、また快感を溜め込んでいるディアナを見たとき、もうイーサンは我慢が出来なかった。
「ああ、ダメだ、ディアナ。気持ちが良すぎて……」
イーサンがぐいっとディアナの腰を自分に寄せた。
ディアナの膝の後ろを持ち、大きく開かれている彼女の脚に間に激しく腰を振り、自分を彼女に打ち込み始めた。
ああっとディアナの悲鳴のような声がイーサンをさらに熱くさせた。
「ごめん、ディアナ……!」
パンパンと甲高い音が部屋に響き、ディアナが魚のように反り返りそうだった。
だが、イーサンにがっちりと掴まれ、ただその熱い愛の楔を受け続ける。
これ以上熱くなりえない熱気が二人を高揚させていた。
もう絶対に、イーサンの激情は止まらなかった。
今までのディアナに対する想いを全て己の象徴に注ぎ込んでいく。
激しく粘膜が擦りあい、今までないほどの快感が生み出されていた。
「あ、あ!! ディ、ディアナ!!」
「……!!」
荒々しい息が二人を包む。ディアナもイーサンの狂おしいほどの愛の行為に、心も身体も支配されていた。
全身の毛が逆立ちしそうなくらいの快感の電流がディアナを襲う。
ディアナの悲鳴にも近い、嬌声が響き渡り、イーサンがその熱き飛沫を愛しい女の中に解き放した。
二人の息が上がり、滴る汗が月の蒼い光によって照らされていた。
少し息が戻るまで二人は抱き合っていた。
「……ありがとう。ディアナ、私を受け入れてくれて……」
ディアナはそれはどういう意味なのだろうかと思った。
イーサンとしては、今まで過去に散々な事をしたのに、ディアナがそれを水に流してくれた優しさに感謝していたのだ。でも、ディアナ的には、この夫婦の営みについて言われているのかと思っていた。
「……いえ、大丈夫です。イーサン様。二回めは、その痛く、ありませんでした。お、お恥ずかしいですが、あまりにも、押し寄せる感情というか、感覚が凄すぎて、何も考えられませんでした……」
まだ快感の余韻に浸っているディアナは、幸せでいっぱいだった。
「……そうか、それでいいのだ……」
「愛してる……ディアナ」
「……私もです。イーサン様」
「ディアナ、もう様はいらない。私達は夫婦なのだから……」
頬を桃色に染めたディアナが、答えた。
「イ、イーサン、愛してます……」
抱きしめ合う二人はこれ以上のない幸せを噛み締めあった。
だが、まさか初夜の次の日がトンデモナイ事態になるとは二人とも全く想像していなかった。
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