団長、それはやり過ぎです。

たまる

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見つかった真実

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 イブともう一度、会いたかった。
 あの晩の出来事をもう一回話し合いたかった。
 どう考えても、お金もなにも請求されず、相手がなにも言ってこないのだ。
 商売女のはずがなかった。
 彼女が何を考えているかどうしても知りたかった。

 だが、そんな中、いきなり殿下から婚約の話をされ、気が動転する。
 ディアナと結婚?

 そんな夢物語があるのだろうか?
 彼女のことは、もう諦めかけていたのだ。
 自分のような激しい性欲が持つ者が、相手にしていいような相手には思えない。

 だが、驚くべきことにあのイブと関係を持ってから、明らかに自分の体質が激変しているのだ。
 もう、毎晩アレをしなくても、保てるのだ。
 どう考えても、なにかイブに秘密があるのではと考えてしまう。

 最初の問題にまたぶち当たる。
 イブはどこの誰だか、どこに住んでいるのか全く不明なのだ。

 すでにかなりの日数が経過していた。
 ディアナとも話をしないといけない。

 焦りと疲れが体にどっと押し寄せた。

 すると、向こうから、前に殴ったリアムがやってきた。
 あれ以来向こうに避けられているのか、なかなか会えなかった。
 相手は自分の顔を見るなり、体をビクンと硬直させていたが、私が、『このまえは悪かった』と一言、声をかけると、あちらもなにかちょっと安心したような素振りを見せた。

 これで何も会話がなく、通り過ぎようとした時に、リアムが口を開いた。
 「あ、団長。思いついたんですけど、もしそのイブって女が、スパイでもなくて、商売女でもなかったら、玉の輿狙いの市井の女ということはないですか? そうしたら、あちらから名乗り出てきても、いいはずですよね?」
 「いや、今のところ、何も申し立ては来ていないんだ」
 明らかにがっくりした様子の団長を見て、リアムは少し同情した。

 いつもは颯爽として、男たちの憧れなのに、こんなにしょげてしまって、よっぽどあの眼鏡っに惚れちまったんだと想像した。

 「あ、それか、なんか手掛かりみたいなのはないんですか? よく女性は、その髪飾りやら、耳飾りとか、落としたりしますよ。その、まあ、あの時に勢い余って落ちたりしますよね。あと、まあ稀ですが、自分を探してほしいために、刺繍がはいったハンカチとか、いろいろありますけど、なにも彼女は残していかなかったんですか?」

 「!!!!!」

 団長が急に翻して、「リアム! 偉いぞ! お前は! 恩にきる!」
と言いながら、自分の私室の方向へ走り去った。

 「なんだあれ? 完全に恋にいかれた男だな!」

 リアムは、ちょっと頭を掻きながら、
 「あのイブって子、どっかで見たことがあるような気がするんだけどな~~」
と、言いながら演習場の方へと足を向けた。

***


 「マーク! マーク!」

 別の騎士が、演習場で先輩騎士の道具の手入れをしていたマークを呼び出した。
 「お前、何かしたのか? いまイーサン団長が血相を変えて、お前のことを探しているぞ。首にでもなるようなことをしたのか?」
 「…まじですか? どうしよう、俺!」
 「なんだよ。身に覚えがあるのか?」
 「いや、全くないから、余計怖いんじゃないか!」

 そして、ただいまイーサンの形相が自分の目の前にある。
 一カ月前の掃除のことについて言及されているのだが、質問がこうだった。

 「お前、一ヶ月前、ここの部屋を掃除した時、なにか女物の耳飾りとかハンカチとか落ちていなかったか?!」

 あまりにも顔が近いので、団長、顔、近過ぎますよ!!!と言いたかったが、この状況で言えるほど、マークの肝っ玉はデカくなかった。

 さらに団長の顔がアップになり、マークの顔がひきつる。
 「一ヶ月も前ですか? も、申し訳ありません。ありませんでした。女性の物と思われる物は何もなかったです」

 凝視しているイーサンの顔に、失望の色が濃く現れた。
 「……そうか、やっぱりそうか。ああ、なぜなんだ。彼女はなにも俺に残してはくれなかった……」

 自分のベットにどしっと腰をかけ、頭を抱えながら団長は明らかに失意のどん底という状態だった。
 もう自分が助けられることはないと思い、団長に退出許可をもらおうと思い口を開ける。

 「なにもお力になれませんで、すみませんでした」
 「いい、もうお前は下がれ……」
 「ああ、団長。お茶でも用意しましょうか?」
 「いい、そんな気分になれん!」
 「じゃー、お酒でも……」
 「就労時間中だ。無理だ……」

 そうですよねっとマークは思う。

 もう団長の部屋のドアのノブに手をかけ、あ、そういえば、一ヶ月前といえば、団長、そのイブさんが消えた日にすごい怪我をされたのだと思った。もう治っているのだろうかと気になった。

 「団長、そういえば、怪我は治りましたか? 団長は治療ヒール魔法使えたんでしたっけ?」
 「怪我? 何を言っている。おれは怪我などしていない」
 「……あれ? じゃーあれは、誰の血だったんですかね、灰色のストールにべったりと血が付いていたんですよ。まさか嫌がらせで団長の……」

 マークは最後まで言葉を続けられなかった。

 「おい、どういうことだ! それはいつの話だ!」
 「ええ? 何ですか?」

 マークの両肩が、力強いイーサンの手に掴まれる。
 
 「マーク、早く言うんだ!それはいつどこでの話だ?」
 「あ、あの、その一ヶ月前の、そのイブっていう人が消えた朝の掃除だったと思いますよ。そのゴミ箱にストールがあって、血糊みたいのが、べったりとくっついていました」

 イーサンはなにか雷を打たれた様な衝撃を受けていた。
 あの時のイブの様子。
 とても初心ウブだったように見えた。
 最初はわざとそうしているのかと思い、彼女のプレイに自分は合わせたと思っていた。

 しかし、彼女のあの温かい中は、今までイーサンが感じたことのないようなキツさがあった。
 ランプが倒れてしまっていたので、暗闇で彼女の間から、滴り落ちてきたものが何色かまでは気がつかなかった。
 イブがいないことに気が動転していた自分も、そんな行為が終わった後の己を清めたタオルのことなど、全く覚えていなかった。

 彼女は純潔だった。
 やはり商売女でも、なんでもない。
 ああ、それを俺が無理やりに奪ってしまったのだ。
 自分の罪の大きさを知る。
 
 ただ、いま、こちらのほうが一番の問題だった。

 「マーク。お前は見習生として、規約をきちんと守って、掃除をしているのか?」

 厳しい表情のイーサンがマークを見つめる。
 彼はイーサンが、何を問いているかよく理解をしていた。
 にっこりと笑みを浮かべて、答えた。

 「もちろんです。イーサン団長」

 その自信に溢れる見習い騎士のマークを見て、イーサンがすこしホッとした表情をした。





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