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バカップルは朝食時にはいらないと気がついた件

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 蓮司の髪の毛から水の雫が滴り落ちていた。

 「……ふう、ありがとうと言うべきかな、歩美さん?」
 
 蓮司が前髪を掻き分けながら、話をする。
 
 「そうよ、た、たとえ相思相愛でも、人前でやっていい事と悪い事があるわ!」
 「歩美ちゃん!」
 「……美代、まだ返事をもらってない」
 「え?」
 
 美代に返事を請う蓮司の瞳が、目の前にあった。
 なんだろう。彼に目線が合わせられない。

 「一緒にいてくれる? いつまでも」

 蓮司がほとんど歩美を無視しながら、美代に体をすり寄せて、懇願している。

 「ち、ちょっと、人の話をきいているの?」

 花瓶を持って立ち尽くした歩美は言葉が出ない。

 「……美代、俺を捨てないよな?」
 「「!!!!」」
 
 美代と歩美が驚愕する。
 蓮司はまさしく昔話で、姫を目の前に愛を説く王子のように、足をまだ跪きながら、美代の答えを待っているらしかった。

 「美代が俺を見捨てたら、俺、死んじゃうかも……」
 「し、死んじゃう? な、何、馬鹿なこと言ってんですか?」
 
 美代は口をアワアワさせながら、話している。
 さっきから、蓮司の変容に美代はついていけないのだ。
 しかも、今朝、蓮司を見ていたら、なにか自分の心臓がドキドキしてしまい、緊張していた。
 
 「じゃーいてくれる?」

 いつもの蓮司ではありえないくらいの甘えん坊的な蓮司が上目遣いで美代を覗く。
 む、無理!!
 会長の目が、凶器だ!
 その目を見ているだけで、自分が心臓の病気なんではないかと思うくらいに鼓動を早める。

 もう美代は降参するしかなかった。

 「もう、わかった! いるから!! そんな格好しないでください!」

 よしっといって蓮司は立ち上がる。
 すると、主人の行動を全てわかっていたかのように、大きなタオルを真田が蓮司に持ってくる。

 受け取った蓮司は、真田に軽く礼を言うと、自分が濡れているはずなのに、なぜか美代の体にタオルを巻きつけた。

 「風邪、引いたら困るしな……」

 おでこにちゅっとキスをされる。
 そして、そのまま美代を抱き上げて、ダイニングの席についた。
 どうやら先ほどのタオルは、濡れた自分の身体から美代が濡れるのを避ける為であったことがわかった。
 美代の顔は真っ赤を通り越し、声さえもだせない。
 
 「じゃー、一緒に食べよう! 昨日はちょっと俺を心配させすぎだ、お前は!」

 なぜか蓮司の膝に横抱きにされる。

 「え? 蓮司さん、ちょっとなんで私、ここなの?」と言おうとした瞬間、
 「はい、美代。あーーん! 口を開けて」と蓮司に言われる。

 スプーンにオムレツがすくってのってある。

 「なっ、無理!!」
 「え、無理? ああそうか、美代はケチャップ派? いまつけてあげるよ」
 「ち、ちがうんです!!」
 
 いそいそとケチャップを出している蓮司を見つめる美代が、もう完全に茹でタコ状態で、蓮司の膝上で震えている。

 またスプーンを口元に出され、にっこりと蓮司が微笑んでいる。
 爽やかな微笑であるのに、なぜかそれに寒気を美代は感じた。
 フルフルと首をふって拒否している美代に、蓮司が話す。

 「恥ずかしいのか? 美代。一応、歩美さんに見せようよ。俺たちは仲のいいカップルなんだって」
 「っ、いやーーー!! むりむりむり!」

 そうすると、美代の耳元で超低音のあの色気を含んだ声色で、いきなり囁かれる。

 「美代。今、約束しただろ? 一緒にいるって。それとも、ここで、また俺のものって証拠、躰に付け直す?」

 身体中に電流に似たゾクゾクとした感覚が走る。
 ああ、この声でさえも奴には武器なんだと思えてくる。

 「え!いや、それだけは!」

 恥じらいながら、蓮司がスプーンで作ったオムレツを口に含む。
 
 先ほどの花瓶をテーブルに置き、真田に急かされて、彼らの斜め横に座った歩美は唖然として口が閉まらない。
 歩美も、あの大原財閥の総裁の鬼とまで呼ばれている男が、ここまで、親友美代のために、訳のわからないものに成り下がり、目を見張りながら様子を見守っていた。

 「ああ、ちょっと歩美様には目の毒かもしれませんね。私が目隠しをして差し上げましょうか?」

 こんな状況でも冷静な真田は、申し訳なさそうに言葉をかける。

 「ば、バカじゃない。目隠してどうやって食べるのよ。早くしないと遅刻になっちゃうんだから! ああ、でも元サヤに収まって、よかったんじゃない!」

と言って、朝からのバカカップルを無視して朝食を食べ始めた。

 すると、いきなり、歩美の目が、立ち上がって後ろに回った真田の手によって隠された。
 
 「な、何よ。見えなかったら何も食べれないでしょ?」
 
 その返事をなぜか耳元で真田に囁かれた。

 「私も、上手ですので……」

 真田がそういった瞬間、立ち上がった歩美は、真田に平手打ちを食らわした。

 「ふ、ふざけないで!! もう、学校に行く! 美代、あんた!もう置いていくからね!」
 「あ、歩美ちゃん!! 私もいくから!!!」

 そう言いながら、女性陣はダイニングリームから退出した。
 蓮司はなぜか美代にウィンクしながら、『またあとで!』と口パクをした。

 そして、歩美は部屋の出口で、ばっと振り返り、思いっきり、あっかんべーっと、まだ打たれた頬を抑えている真田にむかってした。

***

 二人の嵐のような女性が立ち去った後、蓮司がちろっと真田を見た。
 その表情は、何かとても珍しいものを見たという感じだった。

 「……慎一郎しんいちろう、なにか面白いことになっているじゃないか?」

 もう忘れかけていた自分の名前を言われて、真田はどきっとする。

 「……蓮司様、今日はどうなされますか?」

 その言葉を聞いて、まだ真田は自分に心の内を話さないのだと理解した。

 『そうか、わかった』っと蓮司はただつぶやいて、真田と今後の仕事についての調整を始めた。







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