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眠ったライオンを起こしてはいけません

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 美代はただいま大原家の厨房の横にある使用人用の休憩室で、その芸能プロダクションの大騒動をお茶を飲みながら凝視していた。実は今日は、大晦日で本来なら自宅で休みをとっているはずなのだが、真田の甘い言葉に誘われてなぜか年越しを大原家で過ごすことになったのだ。

 クリスマスパーティーもソツなく終わり、さて年末まで仕事もぼちぼちだなと思っていたら、年越しとお正月に美味しい手打ちの年越しソバと豪華な御節を食べれますから、大原家で過ごしませんか? と真田さんに言われた。

 え、手打ちの蕎麦!なに!!豪華御節。
 心を奪われる。
 一応、大原家に滞在している間は、何と朝に会長直接忘れ物を指摘できますよっという言葉にも惹かれた。
 もちろん、そのあとは仕事ないので大丈夫ですと言われる。
 一回でいいからその忘れ物を出かける前にチェックしたかった。そのチャンス! とまあ忘れ物お届け係としては考える。
 休みとそのチャンス、手打ち蕎麦、豪華御節を頭の中で天秤にかけました。

 「わかりました。一月二日まで大原本宅にお世話になります……」

 なぜか真田さんが目を見張って驚いているような気がする。はて、勘違いなのだろうか?このご招待……。

 「大丈夫ですか? やっぱりそんな美味しい話ないですよね。ごめんなさい。勘違いしてました」
と言いかけた瞬間、
 「め、滅相もないです! 是非どうぞいらしてください。美代様の御身は、私が命をかけてもお守りしますので!」
 「え、なんですか? 大原宅、熊か亡霊でも出るんですか!?」
 「あ、いや、その都市伝説みたいなもんです」

 すっごいな大原家。家の亡霊が都市伝説並なんだと美代は感心する。

 そんなわけで、いま大原家の使用人用の部屋に入り浸っていた。だって、自分が案内された部屋、『え?ここヨーロッパのお城?』と思うぐらいゴージャスで落ち着かない部屋だったのだ。この目の前のテレビは年末の芸能騒動を報じている。オスキーヌプロダクションの社長の背任行為や、裏での過激な接待などが一気にマスコミに取り上げられた。まず、労働基準監督官の立ち入り検査から火種がはじまったことが放送されていた。それから、かなり質(たち)が悪質ということですぐさま警察も介入し始めそうな勢いだ。このスキャンダルはしばらく続きそうだなとテレビを見ながら感じた。

***

 こわーーーーっ……やっぱり会長は鬼なんだなっと思った。
 こんなに早くここまで潰すなんて……

 「やっぱ会長って、鬼将軍なんですね。怒らせると怖いーーーー!!」

 事を知っている真田がこんなことになったのは、まさかあなたがテスト休みをとったからですよとは、口が裂けても言えなかった。

 「まあ会長は、確かに怒らせると怖いですよ。とくに自分のモノのことになりますとね……まあ眠れるライオンは起こさないほうがいいですからね」

 美代は、それは会社のことか会長自身のポジションを意味しているのかなーっと思って納得した。
 真田は憂のある視線で美代を眺める。

 ライオンはもうすでにかなり起きているかもしれませんねっと真田は心で思った。

ーーーーー

 その後の話

 その後のオスキーヌプロダクションの話だが、このテレビ放送からはもう火の車だった。スポンサーがすべてのオスキーヌプロダクション所属のタレントを使わないようになり、本来なら大原財閥の傘下とライバルとまでされていたオスキーヌプロダクションがあれあれよと業績が悪化し、しまいには民事改正法適用になるまで、つまり倒産となるまで続いたのだ。しかも大手だったためその傘下にあったレコード会社もイベント会社もその業績の悪化の波を受ける。

 負債総額が膨大になりそうな勢いだった。
 社長含む幾人の重役も背任罪の他に、自分たちのタレントに仕事以外な違法なことをさせていたとし刑事事件にも発展しそうだった。
 しばらくはこの傘下の会社でさえもトップに戻ることは難しいし、もしかしたら、完全倒産も目の前の話のように聞こえた。

 行き場のないタレントたちは焦りを隠せなかったが、今回の場合は経営者が圧倒的に悪いという報道がなされ、実力のあるタレントたちはどんどんと事務所の移籍先を決めていった。これは事務所の移籍が本来ならもっと難しいものではあったのだが、会社自体がなくなってしまえばその壁も無くなる。
 あの国民的スターの有紗もその行方がみな動向を見守っていたが、結局、大手最大のメディファクトへの移転が決定した。

 それには美代も驚いたが、矢崎も驚いた。

 あの熱愛報道から、これは蓮司氏が恋人を引き抜いたのではないかとかなり報道されたが、有紗自身が今度は違う芸能人の恋愛報道がなされ、この噂は潮が引くように消え失せた。
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