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お付き合い編 アリスは鞭がお気に入り

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 グレンビィア王国の王宮に帰ってから、とにかく皆んなにもみくちゃにされた。
 マリアちゃんやら、騎士団のもろもろ、あの王宮絵師マリウスも出てきて、みんなで笑いながら、もみくちゃにされた。

 その度にフェリスと忍が出てきて、みんな散らしていった。
 でも、一番酷かったのはヴァンとケヴィンだ。
 馬車を降りた瞬間に、あのいつも冷静なケヴィンが、感激のあまり抱きついてきた。
 みんながいる目の前でだ。

 ちょっと焦ったが、忍もフェリスも仕方がないといった感じで、私たちを見ている。

 いや……とめてほしい。恥ずかしいです。
 でも、その後がもっと大変だった。
 もしかしたら、ヴァンのほうが酷かったかもしれない。
 自分が一緒にいながら、カナを見失ったことについて、深く反省しすぎて、見ている私のほうが辛くなってきた。
 なぜなら、立ちながら、男泣きをしているのだ。
 でも決して近寄らない。

 そして、『すまん、お前を見失って……』と膝を地面につけ、なぜか鞭を私に差し出した。

 え? 鞭? なにすんの? これ?

 唖然としていると……ヴァンが、
 「おれの気が済まん。おれを打ってくれ。ここで……」
と懇願する。

 え? ちょっと私そんな趣味ないんですけどっと思っているど、横から母、寿美代がさっと横から出てきてその鞭をヴァンから取りあげる。

 え、母さん! ヴァンさん打っちゃうの? 
 それマズイでしょ。

 「あのヴァンさんとおっしゃったわね。ごめんなさい。カナを誘拐したのは私だから、それだったら、私を鞭で叩くべきよ」と言う。

 緑髪の魔女を見て、ヴァンが誰だか気が付いたようだ。
 しかし、魔女は『しーっ』といって人差し指を口にする。
 そして、自分は『アリスである』と名乗った。
 それだけで、ヴァンは母が身の上を隠していることを悟る。

 「あ、大変、失礼いたしました。でも、私はアリス様を追求しようとは一切思っていなく、自分の管理責任のなさにただ、自分を責めるばかり。ただ、自分を罰することが自分ではできないので、こうやって……」

 そうしたら、寿美代がわかったという顔をして、

 「では、ヴァンさん。私があなたを罰します。」と言って、その鞭を構えるようなふりをする。

 すっごい様になっています。
 お母さん。
 だって、緑魔女がダイナマイトボディで、アイテムが鞭ですから……。

 映像的にやばい。

 ヴァンも覚悟をして目を瞑ると、寿美代はさっと鞭を持ち替えて、彼の耳元にささやく。

 「あなたへの罰は********」

 ヴァンは聞いた瞬間、目を一瞬瞬かせた。
 そして、寿美代をじっと見る。

 「それで、本当にいいんですか?」
 「いいのよ。私が言っているんだから……でも、よく意味を考えなさい。かなり大変よ」
 「あ、確かに責任重大ですね」
 「そう。だから罰よ。がんばってやってね」
 「わかりました。アリス様。 心して精進いたします」

 なぜか二人で満足してなにかを結論づけていた。

 そこへケヴィンがやってきて、こう告げる。

 「皆様、大変お疲れ様でした。ようこそグレンビィア王国へいらっしゃいました。どうぞお部屋を準備しておりますので、こちらへ……」

 父と母を部屋に案内してくれるらしい。
 フェリス、ヴァン、ケヴィン、忍、私で一応、父と母が泊まる部屋まで案内することになった。

 そうしたら、母寿美代は、
「ヴァンさん、この鞭(むち)いただいても、いいかしら? なんだか使いたい用事、思い出しちゃったの」と言って、ジロっと功ことキリエを見ている。

 え、どういうこと。母さん……もしかしてそんな趣味? とカナが考えいていると、その鞭を持ちながらルンルンしているアリスは、
 「じゃーみんなでお部屋に行きましょう!」と言ってケヴィンを急かす。
 しかも、がっちりキリエの腕を抱きしめ、ウィンクしているではないか……。

 キリエ自身もなにか真っ赤になりながら、アリスの言うがままになっている。

 あーなんか知りたくない親の事実を知ってしまったカナは、ちょっとがっくりするが、途中で忍に肩を叩かれ、ウィンクされる。

 (あれはふたりでしあわせなんだよ。だから、気にしないの)と囁かれる。

 確かにそうだなっと思って歩きながら、ようやくそのゲスト用の特別室にたどり着く。

 そして、部屋までたどり着くと、ちょうどそこの部屋の前にマリアちゃんが待っていた。
 お部屋の最後のチェックを今終えたばかりのようだ。
 ふたりの新顔のお客様をみると、笑顔でご挨拶をする。

 そして、カナにちょっとつぶやいた。
 だが、声が意外に大きくて、近くに立っているものに聞かれてしまう。

 「カナさまのお父様とお母様って随分若くてイケメンと美人さんなんですね」
 「おい、それは秘密っていったではないか」ケヴィンがそこを突っ込んだ。
 「す、すみません。あの画像通信のときに、マリアだけが近くにいたもので、聞いたんだと思います」

 忍がすごい冷たい表情で睨んでくる。

 そして、なぜか父と母たちを部屋に入れ、忍はマリアだけを部屋の外に連れ出した。
 ちょっと話があるといって……。
 そして、そんな不穏な様子のシルクとマリアを心配したケヴィンとフェリスまでもが部屋の外に出てきた。
 ヴァンとカナと両親は、部屋で和やかに話を続けていた。

 部屋の外では男3人と侍女一人が廊下に居ることになった。
 忍はゆっくりとマリアに近づいてきた。
 にっこりと彼女の顔をのぞきこむ。

 「マリアさん。さきほどの両親のことは他言しましたか?」
 「いえ、そんなことはしてはおりません……大丈夫です。シルク様」
 「ごめんね。でも、わたしはちょっと心配症だし、貴方には騎士の誓いなどカナにたてられないから……」と呟く。

 「おい、シルク、何をするつもりだ。マリアは信用できる一番の侍女だぞ」

 フェリスがぐいっとシルクの腕を取ろうとする。
 が、バシっと結界のようなものが貼られて、忍の腕を掴めない。

 フェリスが不安に感じ、なにか魔法を発動しようとした瞬間、忍の指先一つで体が金縛りのようになる。

 「殿下、だいじょうぶですか? いい加減に!!」

 ケヴィンでさえも怒りによって、我を忘れている。

 「だいじょうぶだよ。お二人さん。マリアにはなにも傷をつけるようなことはしない。そんなことをしたら、僕はカナから嫌われるどころか……殺されるよ……ねっ。マリアさん……」

 「え、シルク様、そんな、もちろんです。私もカナ様を傷つけるようなことはいたしません!」
 「知っているよ。君を信用している。でも、ちょっと念には念をだよ」

 そして、マリアと目線を合わせ、腕をギュっと握る。
 忍の目がほのかに光り出す。
 一瞬の瞬間、その光がフラッシュライトのように瞬いた。

 「マリア、さきほどのカナの両親のことは忘れなさい……」

 すこし意識が飛んでいると思われたマリアがはっと意識をとりもどして、答える。

 「はい……わかりました」

 金縛りにあっていたフェリスが、驚愕の表情をうかべる。

 「おい、忍……まさか、お前……」

 ケヴィンも今、自分が見たものが信じられない……。

 「フェリス、今の状態でこの方たちが俺たちの両親とばれるのはまずい。カナを身の危険にさらす。それはできない……」
 「それでも……おまえが今使った魔法は禁忌のものだ」

 (それ自体を使えるやつがほとんどいないということは、フェリスは言わない)

 「フェリス、勘違いしているね。僕の中には禁忌事項はただひとつだけだよ」

 その禁忌が何かと、この男に問うのは、たしかに馬鹿げていた。
 たった一つしかありえないからだ。

 「貴様……。なんてことを……。俺はひどく、カナが可哀相に思ってくる。こんな複雑な兄というか、お前のようなものに取り憑かれて……」
 「取り憑かれて……確かにそうだ。そうかもね。だから、カナには君たちが必要なんだよ。僕は、普通ではないから……」

 ちょっと悲しい表情をする忍が目を下におとす。
 そこへ、意識がかなりはっきりと戻って来たマリアが、
「では、これで私はお仕事がありませすので、失礼します。」と言った。

 でも、あっと言って、ケヴィンに質問してきた。

 「ケヴィン様、大変失礼ですが、さきほどのお客様……お名前を聞くのを忘れてしまいました。すみませんが、教えていただけますか?」といきなり聞いてきた。

 困った顔をみせるケヴィンに代わって、忍が答える。

 「マリア、あの方たちは、魔法師のアリス様とキリエ殿だ。ふたりとも魔女だ。そして、これは信頼できるマリアだから、教える。あの二人はあのフェリス殿下が生まれた際に福音を授けた七人のうちの魔女の二人だ」

 今度は三人が三人とも、驚愕で声が出ない。
 もちろん、そんな気がしていたフェリスでさえも、驚きのあまり、言葉が出ない。
 衝撃の事実だった。
 なぜなら、その伝説の7人の魔女について、ほとんどのものがその正体について、知らなかった。
 フェリス自身も、よく知らないのだ。
 その7人が誰でどこにすんでいるのかっと国王に尋ねたことがあるが、国王自身もそれについてはなにも教えられないと言われた。

 知らないのか、それとも隠しているのかも教えたれなかった。
 それがいきなりの事実を告げられる。

 「おい、忍。もしかして、3人目はあの……お前の師匠か?」

 以前から引っかかっていた疑問を投げかける。

 「うーーん。まあ、その辺は本人に聞いた方がいいかな? ぼくに聞くより……」

 忍はしれっと答える。

 「でも、まーこれで、一応、さっきの行為の代償にしてほしい。国家機密をマリアに与えたんだからね……」と忍はウィンクする。
 「それだけ、信用しているよ。マリアさん」
 「は、はい!!わかりました。シルク様。気を引き締めて、お客人をもてなします」と言ってパタパタと走って行った。

 そんな中、カナがパッとドアから顔を出す。

 「え、みんななにしてんの? 廊下で……今お母さんとお父さんと散歩しようかって言ってるの。どうする?」
と平然にさっきの秘密をもらす最大の人が呑気にしゃべりだす。

 幸い周りにはだれもいないので、心配は無用だが、あきらかに他の三人の男は呆れている。

 「カナ!! どうしてあなたって!! もう!!!」

 といって、忍はいきなりカナの唇を奪う。
 猛烈なキスだ。
 みんな周りにいるのにだれも忍を止められない。

 「ぷはっ、え、ちょっと……忍、待って」

 ありったけの力で忍を止める。

 「カナちゃん。言ったでしょ? お父さんとお母さんのことはいっちゃダメって」
 「ごめーーん。わかった。アリスさんとキリエさんだよね」
 「もし、またカナちゃんがそんなミスしたら、今度はもっと猛烈なキス、みんなの前でしちゃうからね。悶絶モンのやつをかますわよ。この鈍感娘。腰抜かすキス喰らわすわよ」

 二人のやりとりを見終えて、フェリスが忍に耳元で囁く。

 「なぜカナに技をかけない?お前なら、簡単に口封じの法をカナにかけられるだろう?」と聞いた。

 忍はふっと笑みをうかべ、フェリスに答える。

 「どうして? カナにそんなこと出来るか……」
 「でも、もしカナが公衆の面前で今の発言をしたら、一発で終わりだぞ。マリアだけでは済まない」

 忍が真顔で答える。

 「フェリス、全く問題ない。それなら、国中のみんなの記憶を消すまでだよ」
 「………」

 最近は態度が柔軟だから、おれは忍の本性を忘れていた。
 こいつは本当に只者ではない。
 一人の記憶を消すだけでも、それは大変なことなのだ。
 いまではほとんどの魔法師、その方法がいかに理論的に可能であるかを話すような内容なのだ。
 実際にできるものなんて、ほとんどお目にかかったことがない。
 それを国中だと?
 そんな神を超える技がコイツにはできるのか……。

 しかも、やつの再生魔法をマルトでみたばかりだ。

 「忍。おまえをぜったいに敵にまわしたくないな……」
 「ふっ、フェリス。それが、お前には、なにが原因となるか簡単に想像つくだろう」
 「ああ、まあそれは簡単だな」
 「じゃー大丈夫。僕たちはうまくやっていける。一つの目的のために……」

 そういいながら、忍は最高の笑顔を向けて、カナに呼びかける。

 「じゃーみんなで、外散歩しましょうか? あのキリエさんもアリスさんも自分の身元のことは秘密でお願いしますね。いろいろ面倒ですからね」と言い放ち、爽やかな笑顔をふりまいた。
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