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お付き合い編 忍、宰相にタメ口をきく
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「オニール宰相殿。面会にナターシャ様が来ておられます」
「あ、通せ。構わない」
部下が下がるとともに、一室の固く閉められていたドアが開く。
そこには言われた通りの人物が立っていた。
しかし、もう一人、予期しない人間も横にいた。
「おー、これは珍しい。久しぶりだな。シルク、元気そうでなにより。それに、ナターシャ様も……」
だが、いつものように宰相としての仮面の笑みで、この眉目秀麗な魔法師たちを迎える。
「……オニール様。どうもお久しぶりですね。今日は弟子のシルクがどうしても貴方にお会いして、お聞きしたいことがあるそうで、まあ、付き添いとしてきましたのよ」
ナターシャは、今日は絶世の美女の格好で現れていた。
正直、こちらの格好でいつも来てくれたら、目の保養となってありがたい。
彼女の真の姿を知っているだけに、まあ、見た目だけでもお手柔らかにして頂きたいのだ……。
「それは、それは、まあどうぞ、こちらへ……おふたりとも優秀な魔法の使い手。我が国としては丁重に扱わなければいけない方々ですからね……」
と言って、応接室のソファーを勧める。
今まで無口であったシルクがいきなり話し出した。
「オニール、なにを隠している?」
氷の微笑の魔法師シルクは、その魔力とまたその人柄でこの国に大きな貢献をしている。
いまではグランビィア王国に留学生として滞在し、貿易の促進や魔法術における技術革新の交流を促進してもらっている。そのシルクがいきなりタメ口で、我が国の宰相である私に口を聞いてきたのだ。
「シルク。お前、宰相様に対してなんて口の利き方。その態度はいただけないよ」
今回ばかりは師匠ナターシャのほうが焦っていた。
陰鬱な表情のシルクが話し出した。
声は明らかに苛立っており、いつもの穏やかな彼の声色は消え失せていた。
「ナターシャ、今、俺は非常に腹の虫が悪い。なぜなら、妹からわざわざ離れて、ここまできているんだ。その意味が……わかるか?」
機嫌の悪いシルクが自分を睨んできた。
部屋の空気が一気に重くなった。
宰相は気が付かないが、この部屋から半径五十メートル以内のすべての生物たちが異常を感じ、外へ逃げ出し始めた。窓から見える鳥たちもほとんどが羽ばたいていく。
窓ガラスは僅かだが、振動波で揺れていた。
(これは、非常に厄介だ……)と魔女は心でつぶやいた。
「シルク。落ち着け。ここで、あばれるのはまずいぞ。あの、宰相様……シルクはこの国の飛人のことについて伺いたくて参りましたのですよ」
魔女は師匠らしく?説明を述べた。
しかし、このナターシャに気を使わせるこの男は何者なんだと、宰相自身がなにか違和感を感じ始めた。
「飛人か……そういう噂が確かにあるな。まあ、それについては、私からは何もいえない。ミハエル王子に聞いてくれ」
「ミハエル王子?」
シルクがつぶやく。
この国の第一王権継承者で御年やっと8歳になられたばかりだ。
あの夜会で、忍に気の利いた言葉をかけた少年だった。
「わかった。彼にすぐに会いたい……」とシルクは述べる。
「おい、シルク、貴様、そんなすぐに我が国の王子に会える立場ではないんだぞ。身をわきまえろ」
と宰相の威厳を言葉に含ませる。
じろっと睨まれた瞳が、この俺の心臓を縮ませるぐらい恐ろしいっと宰相オニールは怯えた。
「シルク……まったくお前は……」
ナターシャが呆れていう。
宰相は心のなかでつぶやく。
正直、このナターシャが自分の命の運命を操っているのではないかという錯覚さえ起こすような緊張感だ。
この尋常じゃない殺気を放つ目の前の銀色の髪の男に対して!
「早くしろ……と言っただろ、ナターシャ。俺は機嫌が悪いんだ」
(ああ、やばいね。この状況。もう王宮の外堀の外側まで行っちゃったね。鳥たちの気配が一切しないではないか)
魔女が思案する。
どうしようかと焦っていたナターシャであったが、ちょうどその時、この部屋のドアを叩く音がした。
「なんだ。いま大事な人と面会中であるぞ」
と宰相が小言をつぶやくと、ドアが関係なく開かれた。
そこには、いまシルクが会わせろといった人物が立っていた。
「「ミハエル殿下!」」
宰相と魔女が声を上げる。シルクは無言であった。
「やあ、シルク。来てくれてありがとう。ぼくがシルクに会いたかったんだ」
と8歳の少年はにっこりと我々に微笑んだ。
「で、殿下。シルクはちょっと身の程をわきまえない不届き者。魔法師としては才能があり、人徳もございますが……殿下自身がお相手をするような人物ではないかと……」
宰相としてのアドバイスをさせてもらうが、主君の耳には届かないようだ。
「いいんだ、オニール。これは、ぼくが仕組んだことだ。シルクが何を求めているか、僕にはわかる」
目を見開いたシルクがこの少年を凝視する。
「シルク……君に会わせたい人がいる。来てくれるよね」
「あ、通せ。構わない」
部下が下がるとともに、一室の固く閉められていたドアが開く。
そこには言われた通りの人物が立っていた。
しかし、もう一人、予期しない人間も横にいた。
「おー、これは珍しい。久しぶりだな。シルク、元気そうでなにより。それに、ナターシャ様も……」
だが、いつものように宰相としての仮面の笑みで、この眉目秀麗な魔法師たちを迎える。
「……オニール様。どうもお久しぶりですね。今日は弟子のシルクがどうしても貴方にお会いして、お聞きしたいことがあるそうで、まあ、付き添いとしてきましたのよ」
ナターシャは、今日は絶世の美女の格好で現れていた。
正直、こちらの格好でいつも来てくれたら、目の保養となってありがたい。
彼女の真の姿を知っているだけに、まあ、見た目だけでもお手柔らかにして頂きたいのだ……。
「それは、それは、まあどうぞ、こちらへ……おふたりとも優秀な魔法の使い手。我が国としては丁重に扱わなければいけない方々ですからね……」
と言って、応接室のソファーを勧める。
今まで無口であったシルクがいきなり話し出した。
「オニール、なにを隠している?」
氷の微笑の魔法師シルクは、その魔力とまたその人柄でこの国に大きな貢献をしている。
いまではグランビィア王国に留学生として滞在し、貿易の促進や魔法術における技術革新の交流を促進してもらっている。そのシルクがいきなりタメ口で、我が国の宰相である私に口を聞いてきたのだ。
「シルク。お前、宰相様に対してなんて口の利き方。その態度はいただけないよ」
今回ばかりは師匠ナターシャのほうが焦っていた。
陰鬱な表情のシルクが話し出した。
声は明らかに苛立っており、いつもの穏やかな彼の声色は消え失せていた。
「ナターシャ、今、俺は非常に腹の虫が悪い。なぜなら、妹からわざわざ離れて、ここまできているんだ。その意味が……わかるか?」
機嫌の悪いシルクが自分を睨んできた。
部屋の空気が一気に重くなった。
宰相は気が付かないが、この部屋から半径五十メートル以内のすべての生物たちが異常を感じ、外へ逃げ出し始めた。窓から見える鳥たちもほとんどが羽ばたいていく。
窓ガラスは僅かだが、振動波で揺れていた。
(これは、非常に厄介だ……)と魔女は心でつぶやいた。
「シルク。落ち着け。ここで、あばれるのはまずいぞ。あの、宰相様……シルクはこの国の飛人のことについて伺いたくて参りましたのですよ」
魔女は師匠らしく?説明を述べた。
しかし、このナターシャに気を使わせるこの男は何者なんだと、宰相自身がなにか違和感を感じ始めた。
「飛人か……そういう噂が確かにあるな。まあ、それについては、私からは何もいえない。ミハエル王子に聞いてくれ」
「ミハエル王子?」
シルクがつぶやく。
この国の第一王権継承者で御年やっと8歳になられたばかりだ。
あの夜会で、忍に気の利いた言葉をかけた少年だった。
「わかった。彼にすぐに会いたい……」とシルクは述べる。
「おい、シルク、貴様、そんなすぐに我が国の王子に会える立場ではないんだぞ。身をわきまえろ」
と宰相の威厳を言葉に含ませる。
じろっと睨まれた瞳が、この俺の心臓を縮ませるぐらい恐ろしいっと宰相オニールは怯えた。
「シルク……まったくお前は……」
ナターシャが呆れていう。
宰相は心のなかでつぶやく。
正直、このナターシャが自分の命の運命を操っているのではないかという錯覚さえ起こすような緊張感だ。
この尋常じゃない殺気を放つ目の前の銀色の髪の男に対して!
「早くしろ……と言っただろ、ナターシャ。俺は機嫌が悪いんだ」
(ああ、やばいね。この状況。もう王宮の外堀の外側まで行っちゃったね。鳥たちの気配が一切しないではないか)
魔女が思案する。
どうしようかと焦っていたナターシャであったが、ちょうどその時、この部屋のドアを叩く音がした。
「なんだ。いま大事な人と面会中であるぞ」
と宰相が小言をつぶやくと、ドアが関係なく開かれた。
そこには、いまシルクが会わせろといった人物が立っていた。
「「ミハエル殿下!」」
宰相と魔女が声を上げる。シルクは無言であった。
「やあ、シルク。来てくれてありがとう。ぼくがシルクに会いたかったんだ」
と8歳の少年はにっこりと我々に微笑んだ。
「で、殿下。シルクはちょっと身の程をわきまえない不届き者。魔法師としては才能があり、人徳もございますが……殿下自身がお相手をするような人物ではないかと……」
宰相としてのアドバイスをさせてもらうが、主君の耳には届かないようだ。
「いいんだ、オニール。これは、ぼくが仕組んだことだ。シルクが何を求めているか、僕にはわかる」
目を見開いたシルクがこの少年を凝視する。
「シルク……君に会わせたい人がいる。来てくれるよね」
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