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お付き合い編 フェリスの告白
しおりを挟むすべてのカナの印の感覚が消え失せる。
それは、彼女が彼女の部屋で忍といる時だ。
その時間は俺にとっては、苦悩の時間だ。
忍の張る結界の種類は、俺の印でさえをも、防げるようだ。
微かに彼女がそこにいることがわかる。しかし、何を具体的にしているかは、まるでわからない。
忍に言わせると、結界とは違うと言われた。
何だといって聞いてみたが、『ジャミング効果だよ』と言われた。
最初は意味がわからなかったが、どうやら印から発信する魔号を忍が発する違う魔号と交差させ、情報を交差させるものらしい。だから、いろいろな不可解なノイズが聞こえるのだが、その意味が不明なのだ。もちろん、彼女の部屋の周りには、忍の結界が張っており、入れるはずもない。
それは、もしかして、忍の俺に対する気遣いなのかもしれない。
ただ、自分の拳を握るだけで、なにも出来やしない。
彼女が望むことを受け入れる……それは、俺にとっては、もしかしたら、荊の道かもしれない。
でも、彼女がこの世から去ってしまうことを考えると、恐ろしい虚無感が自分を襲う。
それはありえないだろう。
正直、多くの者に先を越されたと思ってしまう。
あのヴァンでさえ、デートにこぎつけたというではないか。
俺の立場的を考えると、どうしても多くの男性からアプローチを受け、複数の旦那を持つ女性を娶るということができるのだろうかと自問する。
でも、諦めたくない。
忍は『方法はある……お前次第だよ……』といつも平然な顔をする。
しばらく、そんなようなことを頭のなかで考え込んでいた。
今日は実はカナを遠乗りに誘っている。
忍がいないんだ。
カナも寂しいだろう。
ちょっと公務もお預けだ。
腕のなかに彼女を抱きしめ、自分の愛馬で王宮からちょっと離れた丘へ出かける。
彼女の匂いがおれの気持ちを昂ぶらせる。
そこは、俺の小さいころからの隠れ場で、むしゃくしゃした時や、一人になりたい時に来る隠れ場所だった。木陰に彼女をそっとおろすと、カナが弁当というものを広げ始める。
「フェリス。ありがとう。今日は突然のお誘い。びっくりしたけど……楽しいね」
「そうか。よかった。お前と二人きりは久しぶりだな」
俺たちは一緒に地面に座って、お弁当を食べ始めた。
「どうだ。カナ。寂しくないか?」
「え、大丈夫。なんか変な感じだけど……忍がいないって」
「まあ、あいつがいないと、こちらも気が抜けるな……」
晴れ渡る空を見上げる。
「あ、もう食べ終わったか? 実は、今日はカナにプレゼントがある」
そう言って、自分の上着のコートから3冊の本を出した。
外見は意外と地味な装丁だ。
「これ、もしかして、お前気にいるかと思って……」
その本をカナは受け取ると題名と中身を確認しだした。
「!!!フェ……リス、こ、これは!」
「うん、ケヴィンから聞いたぞ。お前、そんな趣味があるらしいな。驚いたが……」
ちょっと鼻をすすりながら、返答した。
女性にプレゼントなんて、キザなことをした自分の恥ずかしさを隠したいからだ。
横に座っているカナを見たら、彼女はなんと赤面していた。
しばらく忍が出かけるということで、前々から練っていたプレゼントをカナにあげることにしたのだ。
「あ! ありがとう。う、うれしいよ。でもどうやって……? 私も結構探したんだけど、なかなか見つからなかったの」
「あ、まあ……これはな……おれがちょっと、色々なところにいって情報を仕入れてきたんだ。まあちょっと普通の本じゃないから、なんというか……予約しないと受け取れないんだよ」
「え!じゃーもしかして、フェリス、わざわざ注文してくれたの?」
「あ、まーな。でも、お前、感謝しろよ。まだ、シリーズものがあるみたいだぞ。それらは重いから、残りは王宮においてある」
「えー、本当にありがとう」と言いながら、カナはもらった本の中身を見ながら、新しいおもちゃをもらった子供のようにはしゃいでる。
「じゃー、お返しをもらおうかな」といって、いきなりゴロンとフェリスがカナの膝に頭を乗せた。
所謂、膝枕だった。
彼女の腿は柔らかい。
「いいよ。ここで、読んで。その代わり、おれちょっとここで寝させてくれ」
「あ、いいの? フェリス疲れているんだね。わかった」と言いながら、もらった本を自分の顔の上で読み出した。
そよ風が二人を包み、陽だまりがあたたかい。
フェリスは、幸福を感じた。
彼女は俺だけのものにならないかもしれない。
でも、俺が彼女の為に出来ることはいくらでもある。
お前は本当に不思議な女だな。
なんで、お前のことがこんなに気になるんだろうな。
正直、女なんていくらでもいるだろうと自問する。
ああ、でもこいつしかダメなんだ……まいった……。
「フェリス、ありがとう……この本すごいよ!」
彼女は本を読みながら、声を上げた。
おれは、衝動的に起きあがり、髪の毛が風に揺らされているなか、彼女の柔らかい唇にキスをする。
「カナ。感謝しろよ。お前の本の為に、俺が男色って噂になっているんだよ」
ええええっと慄いている彼女を腕の中にしまいこむ。
「カナ。 愛している。私の妻になってほしい」
「フェリス……そんな」
「俺はお前を出会った時から、惚れてしまった。あの森に見つけた黒めがねのおさげちゃんにな。何度でもいうよ。愛している」
「で、でもいいの? わたし……正直、いろいろ複雑物件だよ。フェリスの隣にいる女性としては……」
「いいんだ。そんなの。たしかにお前には複雑すぎる兄がいるし、なぜかおれの部下までぞっこんで夫候補ときた。普通じゃないよな」
「うん、そうだね」
「でもな、そんなお前でもいいんだ。後継問題やら、次期国王なんて、あいつにやらせればいいし……その為の弟だ。あいつに意外にしっかりしてきたよ」
「フェリス……」
「俺は、自分はずっとこの国を護っていくことだけを天命として生きてきた。正直、自分の幸せなど考えたことがなかった。でも、お前に出会って、あの森でお前にキスをしてから、なにか自分でも考えられないような感情が俺を支配した」
カナはじっと自分を見つめていた。
「カナ。俺は初めて……生れて初めて……自分の為の欲望を持ったんだ。お前が欲しいと……俺のものになって欲しいと……俺は自分が幸せになりたい……お前と……」
また、カナを抱きしめ、自分の欲望をキスの中に注ぎ込む。
「はあああ……フェリス……」
俺たちは、言葉をなくして抱きしめ合った。
徐々に、そして、確実に、カナの唇を貪り始めた。
それでも、キス以上のことはしなかった。
彼女の心の準備を待ちたかった。
それでも、唇から漏れてしまう彼女の吐息は甘く、その目は潤い、初めて、俺たちの心が通ったような感覚を噛み締めた。
やっと届いたか。カナに。
時間がさし迫っているの感じ、また彼女を抱きしめながら、馬に乗せて帰る。
帰りの道は、お互いに体に残った熱を感じながら、王宮に向かった。
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