腐女子 異界で悶絶する【改訂版】

忘れていたファイル

　すべての記憶がなくなって、全部が始まる。
　つながっていくパズル……。
　なにかが自分を気持ち悪くさせた。

　「お、おい、どういうことだ。話の意味がまったくわからん……」

　フェリスが呟くと……忍は自分の腕を上方にあげ、何が一言わからない言語を喋り、人差し指で円を描いた。すると、しゃべりかけていたフェリスが口を開いたまま、止まった。

　みると、ケヴィンも微動たりともしない。

　時が止まった？

　「カナ。わかる？　おれがシルクって意味。シルクは隠れエンドのキャラクターなんだ。絶対支配者。このキャラクターは本当は存在しないし、テスト上のキャラなんだ。 発売前に消す予定だったんだけど、この世界を調整する際に、テストキャラとして残したんだ。でも、ほとんどこのキャラは現れないように設定してある」

　忍の声が頭に響いてくる。

　「開発者のおれ自身があるコードを入れ、バクを発生させないかぎり、出てこないキャラなんだよ。つまり、開発者のおれが舞姫で侵入し、それの結果が画面に現れた形の最終形がシルクなんだ」

　なんだかよくわからないけど、世界が暗転するような不安を感じ肩がふるえてきた。

　大丈夫と聞いてくる忍の顔や声が霞んできた。

　記憶が遠ざかる。

　すべてフェイク？
　すべてゲーム？

　そして、

　全てをなくして、再起動。
　全てをセーブしない、再起動。


　セーブなし？
　本当？


　忘れる。
　忘れてた。


　繋がらない記憶。 
　失っていた気持ち。

　塞いでしまった過去。
　な、なにか、、こころの中が壊れていく。

　叫ぶ声。
　衝撃音。

　車のライトが目を焼く。
　爆音と衝撃。


　あ、、世界が崩れてく。

　ママ。
　パパ。

　二人の笑顔が浮かぶ。

　忘れてごめん。
　ずっと忘れていてごめん。

　頬にとりとめのない涙が流れていく。
　ずーと、ずーと忘れた。蓋をしていたものが開かれた。忘れていたファイル。
　忘れていた記憶。セーブしてたんだ。

　わたしのどっかで、知らないファイルに保存されていたわたしの家族。
　それとも、忍が代わりにセーブしておいてくれたの？

　「し、しのぶ。わたし……」
　「カナ……」

　震える私の肩をしっかり抱いている忍がいた。
　彼の体温がなぜか心地よく感じた。
　自分がここに存在していることをその温かさが教えてくれた……。
　彼の頬にも涙が溢れている。
　瞳はなにか深い紫色が熱い思いを漂わせていた。

　「もしかして、記憶……戻ったの？」
　「忍、、どうしよう。わたし……ずっと忘れていた。ずーーーと忘れていた」
　「大丈夫……。カナ、ご両親だってわかってくれるさ……。君は頑張ったんだから……」

　忍の抱きしめる腕に力が入った。
　本当に、本当に忘れていた。

　わたしのママとパパ。
　ごめんなさい。
　忘れていて。
　大切な人たち。
　止まらない涙を片手でぬぐいながら、はっと気がつく。手がまた震える。

　「待って……忍は、わたしの本当の兄さんじゃないの？」

　ちょっとたくましい忍の胸に両手を押し付けて、彼の顔を覗き込む。
　やさしく甘い視線がカナを包みこむ。

　「僕は、カナの本当の血のつながった兄ではないよ。カナが言う本当の兄がそういう意味合いならね。でも、僕はいつでも君を守るよ。いつだって一緒にいる。こんなゲームの中に迷い込んだ君さえも、見つけるぼくだよ。カナはぼくから一生離れられないよ」

　そう言ってやさしくわたしの頬に口づけする。

　「愛してる……カナ。ずっと。君をお葬式の日で見た時から、ずっとずっと愛してる。君がどんなことをしても、何を望んでも、君がどこへ行こうが、ぼくの君への愛は変わらない」

　もう愛にあふれる視線にカナはどうしていいのかわからない。
　今まで、どうしてこの忍の愛に気がつかなかったのだろう。

　「えええ！ もう、何言っているの、忍。訳わかんない！」

　涙でぐちゃぐちゃになりながら、優しい腕につつまれながら、カナは号泣する。
　そんなカナを宥めるように、忍はいままでの経緯を話し始めた。