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シスコン忍の登場
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(やっと登場します。シスコン忍)
薄暗い寝室で壮絶な美形が色気をただよわせながら、寝台から起き上がる。
はだけた白いシャツから男のただならぬフェロモンが溢れていた。
ん……カナ。
どこにいるんだい。
指先でカーテンを少し開ける。
二つの月が照らす夜空は三年目でもまだ慣れない。
おれの生きがい。
愛しい妹。
他の誰にも渡しはしない。
淡い栗色の髪だった髪は、転移の際に、その影響なのかプラチナのような白銀に変化していた。三年の時を感じさせるように長くなり、願掛けのように先は編み込んであった。目はもともと明るい茶色だったが、それが紫色へと変異していた。
忍は実はカナと一緒にここへと転移していた。
最初はこの異界に戸惑っていたが、これがあのゲームの世界ということは簡単に理解できた。
愛しのカナが、はまりにはまっていたBLゲームだ。
わからないはずはない。
彼女の為に作られたようなものなのだから……。
自分がカナを置いて、この世界に来てしまったと思うと情けないやら悔しいやら、途方もない絶望感にとらわれた。
カナのいない世界なんて、必要ない……。
何日か道なきところを歩き、壮絶に腹を空かせながら街にたどりついた。
ほとんど浮浪者のような格好で、道に横たわり、絶望の中に死んでいくのだと忍は思っていた。
死ぬのは時間の問題だった。
カナのいないところなんて生きている意味さえみえない。ときどき話しかけるものもいたが、完全に無視した。自分の状況が分かれば分かるほど、絶望しかなかった。
おれのカナを返せ。
いたずらな運命を忍は呪った。
でも 俺のせいか?
そんな時に一人の魔女が現れた。
「あんた……ここのものではないね」
「……」
この魔女は忍がすぐに異界から来たことを察知した。
怪しげに見えるこの魔女はナターシャと言った。
「こんなところで異界者を死なせたりしたら、何か気持ち悪いから、うちにおいで」
そんな言葉をかけられ、ほとんど自分の意思とか関係なしに魔女のうちに連れてこられた。
着るもの、住むところをすべてを用意してくれた。
忍にはその魔女は見覚えがあった。
でも、それは彼にとって重要ではなかった。
ナターシャは普段は醜い顔した白髪の老婆であった。
でも、魔法を解いた魔女は絶世の金髪の美女であった。彼女は市井の外れにひっそりと身分を隠して住んでいた。
本来の姿は、女性の理想的な体型のナターシャであったため、自分の本当の姿を見せた時の忍の態度に、魔女の方が驚いて、ますますこの男に興味が湧く。
「あんた、変わった男だね。普通は私の本当の姿を見ると、男も女も武者震いするぐらい惚れられちゃうんだけど……あんたは違うみたいだね」
「……違うから」
「は? あんた自身も稀にみる美丈夫だからかね」
「あんたはカナじゃないから」
「あーー、あんたの思い人は、カナって女のなのかい?」
忍はその問いに頷いたかと思うと、またそのがっくりと色気を感じさせる肩をさげた。
「……俺の妹だ。でも、もういない。この世界にはいない」
「あ、あんたの妹かい。これはこれは……」
魔女はちょっと手で口元を隠しながら、考えている様子だった。
身元が不明なことを避けるために、彼女の弟子ということになった。
魔女自体、あまり外界と接点がなかったため、忍を買い物やら外界への情報収集に向けて利用することにした。
ナターシャによると、異界からきた忍の魔力はかなりのものらしい。
ナターシャが見たこともないオーラに包まれ、かなり異質であり強力ということだった。
忍が、なぜあの森(この国ではあの辺りの森は魔物の世界とされ、なかなか一人で歩く者もいないし、命をなくす者が絶えないらしい)から魔物に襲われず一人で生きてこられたのも、その異質な魔力が魔物を寄せ付けなかったと考えた。
魔女は言い続けた。
「そのあんたの魔力はこの世界ではとても異質だ。異界越えはこの世界ではしばらくみたことがない魔術だし、この私も随分長く生きたが、初めて見た。あんたの世界に返す方法はまだ分からないがそのあんたの妹に対する念で、あんたが妹に会えることもすることはもしかしたら、可能かもしれない」
「どうすればいいんだ、おれは! カナがいないなんて……。おれは……」
「よく言うだろう。念ずれば通ずるってね。お前の世界でもないかい? そういう言葉。ここの世界はね、気持ちが大事なんだ。恨み辛みを増大させたものはやがて悪魔や魔物に取り憑かれるか、そのような物になりかわる。愛したいという気持ちや人を救いたいという気持ちが、実際にここでは魔力を伴うとそれが魔法となって動くこともたまにあるんだ」
そこで、ゴクリと生唾を飲み込んだ魔女は、
「あんたの妹さんに対する執着……ごほん、いや愛情はかなり深いとみた。そして、あんたは甚大なる魔力を持っている。だから、方法としてはそのカナって女を探しだし、会えることはできるかもしれない。あんた気に入ったよ。わたしの弟子にしてやるよ」
このとき、魔女は考えてもみなかった。この男の妹に対する執着愛は、国の運命を揺るがすくらい強いものだとは全く想像していなかった。
魔女は状況を考えた。
本来カナだけが呼ばれるはずであったのに、この究極シスコン男も連れて来てしまったのだと推測する。
ただ、その転移によって、忍には大きな魔力が宿ったのだと魔女は理解した。
でも、忍自身は大して弟子にでも何にでもなりたくなかったようだった。
本人が、全く魔女のいうものに興味がなさそうなのだ……。
(全く、魔女に会えるってだけで、普通はこの上ない貴重な経験だって言うのに……)
魔女はちょっとため息をついた。
その後、魔力の発動方法が全く分からない忍は、魔女ナターシャとマンツーマンの指導を受けた。
忍は、訓練を受けてすぐに、自分の体から漲ってくる魔力を感じることが出来た。
愛の力なのか、忍の魔力のせいか、恐ろしい勢いで上達した。
魔女が、目の前で習った技術をすぐに習得し、魔法を見せる忍に驚嘆する。
「こいつは、やっぱりただものじゃなかったね。えらいもの拾っちゃったね」
っと呟いていた。
名前は忍を改め、名前が似てるシルクとした。
魔女曰く、本名隠したほうが、本当の魔法使いらしいだろって。
忍が聞こえない声で何か呟いたが、それは魔女には聞こえなかった。
「わかった。シルクと呼んでくれ……今日から」
微笑む忍が、なぜか魔女にとっては少し怖いものに感じた。
それが三年前のことだった。
薄暗い寝室で壮絶な美形が色気をただよわせながら、寝台から起き上がる。
はだけた白いシャツから男のただならぬフェロモンが溢れていた。
ん……カナ。
どこにいるんだい。
指先でカーテンを少し開ける。
二つの月が照らす夜空は三年目でもまだ慣れない。
おれの生きがい。
愛しい妹。
他の誰にも渡しはしない。
淡い栗色の髪だった髪は、転移の際に、その影響なのかプラチナのような白銀に変化していた。三年の時を感じさせるように長くなり、願掛けのように先は編み込んであった。目はもともと明るい茶色だったが、それが紫色へと変異していた。
忍は実はカナと一緒にここへと転移していた。
最初はこの異界に戸惑っていたが、これがあのゲームの世界ということは簡単に理解できた。
愛しのカナが、はまりにはまっていたBLゲームだ。
わからないはずはない。
彼女の為に作られたようなものなのだから……。
自分がカナを置いて、この世界に来てしまったと思うと情けないやら悔しいやら、途方もない絶望感にとらわれた。
カナのいない世界なんて、必要ない……。
何日か道なきところを歩き、壮絶に腹を空かせながら街にたどりついた。
ほとんど浮浪者のような格好で、道に横たわり、絶望の中に死んでいくのだと忍は思っていた。
死ぬのは時間の問題だった。
カナのいないところなんて生きている意味さえみえない。ときどき話しかけるものもいたが、完全に無視した。自分の状況が分かれば分かるほど、絶望しかなかった。
おれのカナを返せ。
いたずらな運命を忍は呪った。
でも 俺のせいか?
そんな時に一人の魔女が現れた。
「あんた……ここのものではないね」
「……」
この魔女は忍がすぐに異界から来たことを察知した。
怪しげに見えるこの魔女はナターシャと言った。
「こんなところで異界者を死なせたりしたら、何か気持ち悪いから、うちにおいで」
そんな言葉をかけられ、ほとんど自分の意思とか関係なしに魔女のうちに連れてこられた。
着るもの、住むところをすべてを用意してくれた。
忍にはその魔女は見覚えがあった。
でも、それは彼にとって重要ではなかった。
ナターシャは普段は醜い顔した白髪の老婆であった。
でも、魔法を解いた魔女は絶世の金髪の美女であった。彼女は市井の外れにひっそりと身分を隠して住んでいた。
本来の姿は、女性の理想的な体型のナターシャであったため、自分の本当の姿を見せた時の忍の態度に、魔女の方が驚いて、ますますこの男に興味が湧く。
「あんた、変わった男だね。普通は私の本当の姿を見ると、男も女も武者震いするぐらい惚れられちゃうんだけど……あんたは違うみたいだね」
「……違うから」
「は? あんた自身も稀にみる美丈夫だからかね」
「あんたはカナじゃないから」
「あーー、あんたの思い人は、カナって女のなのかい?」
忍はその問いに頷いたかと思うと、またそのがっくりと色気を感じさせる肩をさげた。
「……俺の妹だ。でも、もういない。この世界にはいない」
「あ、あんたの妹かい。これはこれは……」
魔女はちょっと手で口元を隠しながら、考えている様子だった。
身元が不明なことを避けるために、彼女の弟子ということになった。
魔女自体、あまり外界と接点がなかったため、忍を買い物やら外界への情報収集に向けて利用することにした。
ナターシャによると、異界からきた忍の魔力はかなりのものらしい。
ナターシャが見たこともないオーラに包まれ、かなり異質であり強力ということだった。
忍が、なぜあの森(この国ではあの辺りの森は魔物の世界とされ、なかなか一人で歩く者もいないし、命をなくす者が絶えないらしい)から魔物に襲われず一人で生きてこられたのも、その異質な魔力が魔物を寄せ付けなかったと考えた。
魔女は言い続けた。
「そのあんたの魔力はこの世界ではとても異質だ。異界越えはこの世界ではしばらくみたことがない魔術だし、この私も随分長く生きたが、初めて見た。あんたの世界に返す方法はまだ分からないがそのあんたの妹に対する念で、あんたが妹に会えることもすることはもしかしたら、可能かもしれない」
「どうすればいいんだ、おれは! カナがいないなんて……。おれは……」
「よく言うだろう。念ずれば通ずるってね。お前の世界でもないかい? そういう言葉。ここの世界はね、気持ちが大事なんだ。恨み辛みを増大させたものはやがて悪魔や魔物に取り憑かれるか、そのような物になりかわる。愛したいという気持ちや人を救いたいという気持ちが、実際にここでは魔力を伴うとそれが魔法となって動くこともたまにあるんだ」
そこで、ゴクリと生唾を飲み込んだ魔女は、
「あんたの妹さんに対する執着……ごほん、いや愛情はかなり深いとみた。そして、あんたは甚大なる魔力を持っている。だから、方法としてはそのカナって女を探しだし、会えることはできるかもしれない。あんた気に入ったよ。わたしの弟子にしてやるよ」
このとき、魔女は考えてもみなかった。この男の妹に対する執着愛は、国の運命を揺るがすくらい強いものだとは全く想像していなかった。
魔女は状況を考えた。
本来カナだけが呼ばれるはずであったのに、この究極シスコン男も連れて来てしまったのだと推測する。
ただ、その転移によって、忍には大きな魔力が宿ったのだと魔女は理解した。
でも、忍自身は大して弟子にでも何にでもなりたくなかったようだった。
本人が、全く魔女のいうものに興味がなさそうなのだ……。
(全く、魔女に会えるってだけで、普通はこの上ない貴重な経験だって言うのに……)
魔女はちょっとため息をついた。
その後、魔力の発動方法が全く分からない忍は、魔女ナターシャとマンツーマンの指導を受けた。
忍は、訓練を受けてすぐに、自分の体から漲ってくる魔力を感じることが出来た。
愛の力なのか、忍の魔力のせいか、恐ろしい勢いで上達した。
魔女が、目の前で習った技術をすぐに習得し、魔法を見せる忍に驚嘆する。
「こいつは、やっぱりただものじゃなかったね。えらいもの拾っちゃったね」
っと呟いていた。
名前は忍を改め、名前が似てるシルクとした。
魔女曰く、本名隠したほうが、本当の魔法使いらしいだろって。
忍が聞こえない声で何か呟いたが、それは魔女には聞こえなかった。
「わかった。シルクと呼んでくれ……今日から」
微笑む忍が、なぜか魔女にとっては少し怖いものに感じた。
それが三年前のことだった。
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