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あれBLの世界じゃないの? しかも通常装備

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 んん~~。

 なんかふわふわする。いい気持ちシーツ。
 あー身体はなんかすっきりだわ。
 あれ、朝かな。

 おかしな夢だった。

 昨日はゲームも攻略できたし……。夢の中で、あの人達に偶然、出会って、びっくりしたけど……。

 ん、なんだ、この感触。シーツが気持ち良過ぎる。

 何かの不安にかられて、目を開けてみた。

 目を見開くと、真っ白の洗い立てのシーツが自分をしっかり包んであった。周りを見渡してみると、中世のヨーロッパの思わせるような華美な装飾の部屋。天蓋付きのベット。

 まだ季節ではないのか、使用されていない暖炉やその上にある草模様のついたマントルピース。
 高貴な人専用であることを十分と感じさせる部屋のベットの中で困惑した。
 サイドテーブルには、ワイヤーでできたオブジェの中に、電気でもない光る物体が入っていて、部屋全体をすこし明るくさせていた。

 ま、まさか!

 驚きと期待が胸を膨らます。

 昨日の記憶とこのランプからして、私は異界へ転生したのか? しかし、自分の手足や顔を触って確認してみると、もちろん胸まで覗いてしまった。通常装備だ。

 あんまり凹凸感がない、いつもの自分の胸。かわりない。

 ざ、残念すぎる。
 夢でもなにか自分とは違うものになってみたかった。
 どうせなら金髪や銀髪の美少女、くらいまではっちゃけてみたかった。

 白の木綿製のワンピース型の夜着を自分は着ていた。質素でありながら、胸元と足回りにレースがふんだんに使われており、ちょっと生地が薄いため、透ける部分も多いからちょっとエロい。

 メガネがないし、髪の毛も綺麗にとかされ、トレードマークの三つ編みもない。辺りをもう一度見回してみると、自分のあのヨレヨレのグレーのスウェット上下と黒縁メガネが近くのこれまたロココ調とも思わせる華美な椅子の上にとてつもなく違和感があるように置かれていた。

 黒眼鏡は実は伊達眼鏡なので、カナにとっては、なくても全く視界は問題ないのだが、気持ち的に落ち着かない。
 メガネを取るためにベットから降りる決心し、足元に用意してあった簡易なスリッパに足を滑りこませると、様子を見るためにメガネを装着してから、近くの重厚なカーテンで閉めきってある窓に近づいた。

 そのカーテンを開けてみると、朝日に目を焼かれるような感覚を味わった。

 眼下には信じられない光景が待ち受けていた。
 歴史を感じさせる重厚な石の外壁。
 ヨーロッパの城を連想させるような白亜の城塞。
 目下には、この城の正門がはるか遠いことを感じさせるような大規模の幾何学模様の庭園が広がっていた。

 やばい。
 本当に現実かも……。
 しかも見覚えがある景色だった。

 こんな想像力、ありえない。
 あのでは見られなかったお城の部分まで、精密にいま、目の前に見えている。
 自分の夢ではありえない。

 昨日までに起こったことを振り返る。
 変な物体に襲われ、いきなり現れたフェリス王子と思われる美男子にいきなり初キスを奪われて、気を失った。
 起きてみたら、この有様だ。

 トン、トン、と誰かがドアを叩く音がした。
 部屋の奥の重厚なドアが開き、栗色のふわふわ髪が印象的な侍女のような格好の女性が入ってきた。

 その可愛らしさに唖然とする。

 「あ、お目覚めになりましたか? よかったです。もう毒が身体からすっかり抜けているようですね。心配いたしました」

 「え、は、はい。ありがとうございます」

 びっくりしながらも、マリアの可愛さにちょっと心が躍った。
 萌えキャラだ~~!と心で叫んでいた。

 「申し遅れいたしました。わたくし、侍女のマリアと申します。フェリス殿下のめいを受け賜わり、貴方の様のお付きとなりました。以後よろしくお願い申し上げます」

 彼女が深く礼をする。

 「あ、マリアさんが、もしかして着替えさせてくれたんですが?」

 「は、はい。そうです……。睡眠中、失礼かとは思いましたが……。お気に触ったら、申し訳ございません……」

 「いえいえ、マリアさん、ありがとうございます。私は町家まちやカナといいます。ここはどこですか? あの突然ですけど、今の国王は誰ですか?」

 と勢いよく聞いてしまった。
 自分の感を信じて、ここがグレンビィア王国なのか、はっきりとしたかった。

 「カナ様、少々お待ち下さい。その問いには別の者がお答えいたします。お目覚めの際はすぐに伝達するように言われていますので……失礼いたします」

 慌てたように、マリアは身を翻してパタパタと部屋から退出した。

 クリクリっとしていて可愛い。
 マリアさん。
 自分の訳のわからない状況に漠然とした不安がよぎるが、マリアさんの態度から見て、いますぐ殺されそうとかはなさそうだと安心する。

 さほど時間がかからずに、今度はノックもなしにドアが開かれた。
 そこには、家令ケヴィンが黒を基調とした燕尾服のいでたちで部屋に進入する。
 なにかちょっと慌てたような顔をしている。

 どう考えても、生ケヴィン様。 
 これも麗しい! そして、人の顔をガン見する。
 3次元で見慣れているから、怖くなかった。
 私を見て、なぜかちょっと頬を染め視線をそらした。

 「……ん、マリア、こちらにガウンを……」

 カナは自分の寝間着を見直した。

 ああああ! このネグリジェ、透けるんだ。
 は、恥ずかしい!
 胸のツンとしている部分まで形がはっきりと出ている!

 はずくて、し、死にたい!

 思わず、マリアが上に羽織るガウンを取ろうとするよりも速く、カナの身体が動き、いつもの早業ムーンウォークを発動し、奥の椅子の方へ即座に移動し、例の華美な装飾の椅子の上からいつも慣れているグレーのスウェトシャツをパッと首から着る。 

 いつもの早業がでてしまう。

 残念なことにスウェットシャツの表にはやる気のなさそうな漫画の猫のイラストが描かれている。この深刻そうな現状とこの華美な内装にまったくそぐわない。

 この猫ちゃんイラストに驚いたのか、ダサダサファションに反応したのかケヴィンは目を見張って驚いている。

 「大変お見苦しいものをお見せしました。私は町家カナといいます。なにかちょっと昨日は大変なことになっていたみたいですが、よくわかりませんが、助けていただいたようなので、感謝します」
と丁寧に挨拶して頭をさげた。

 一応、これでも恩義は忘れない日本人の乙女なのだ。ふわふわなベットも借りてしまったんだし。でも、ディープキスとファーストキスは奪われてしまったけど、なんとなくあれは事故? のような気がする。

 ケヴィンとマリアは、半分口を開けたまま唖然としていた。でもすぐに、さすがに家令のケヴィンだけはそこで自我を取り戻した。

 「カナ様とおっしゃるのですね。私は フェリス・マグノリア・グレンヴィル王太子にお仕えしているケヴィン・ユトラウスと申します」

 話を聞いてみると、やはりここはあのグレンビィア王国であり、現在は国王リヒッド・ロゼリア・グレンヴィル、つまり、フェリス殿下のお父さんが国を支配しているらしい。

 ケヴィンは結界のことは教えてくれなかったが、ゲームの知識がある私が考えるに、このグレンビィア王国の平和と安定は主に王族の魔力に絶対的に成り立っている。

 特にフェリス王太子では生まれた時にこの世にいる七人の魔女から祝福をされたという前代未聞の未曾有の力を持つ魔力継承者であり、この国自体を彼の結界魔力で支えていていた。これは国家機密であり、王族とその御付きの数名(多分ケヴィンも含む)しか知らないことなのだ。

 もちろん、ぱっと現れた不審者のカナがこんな国家機密まで知っているとは思わないだろう。

 「あのケヴィン様、昨日、私はそのフェリス殿下にお会いしたと思うんですけど」

 ついでに、あなたたちはまだラブラブじゃないんですかっとBL的なツッコミは心の中にしまっておいた。
 少しカナの質問に驚きながらも、ケヴィンは丁寧に答えようとする。

 「はい、そうです。蒼黒の森でカナ様を発見しました。ちょうどカナ様は魔物クセスボイに襲われていたので、フェリス殿下は緊急処置をしたのです。あれには、媚薬を体に埋め込むものが入っており、体液を十分に与えないと、永遠に……その欲の渇望というか、それが治らないのです」

 あ、つまり感じちゃった愛液を食べないとインランになっちゃうってこと?
 驚いている私に、少し頬を赤らめてケヴィンが見つめなおす。

 よくよく聞いてみると、ちょっと体液の臭いを感じ、力を緩ませたクセスボイにケヴィンが一発、刺し殺すことでわたしのインランへの道は閉ざされたらしい。

 ありがとう、ケヴィンさん。それに、フェリス殿下も。
 さすがにこの歳で淫乱にはなりたくない。

 「あのカナ様、ケヴィンとお呼びくださってもかまいません。フェリス殿下からあなた様を国の来賓として扱うようにご命令です」

 「あ、やっぱりフェリス殿下なんですか。失礼ですが、フェリス殿下はおいくつなんですか?」

 もっとあの時の状況について聞かれると思ったケヴィンは目を見張った。

 「え、そういう質問ですか。殿下は現在十七歳になります」

  え、わかっ! まだ高校生?!

 なのにあんな巧みなディープキス。さすが人気ナンバーワン攻略キャラ。
 若くても、やる時はやるんだな。
 超絶な色気と低音ボイスにやられたよっと、違うことにカナは関心してしていた。

 「あのー、じゃあケヴィンさん、私は違う国というより、違う世界からきたんですけど、どうやって帰れるか知っていますか? まあそんなに自分が生きてきた国も友達とかもそんなにいないんですけど、一応、数少ない友達や変人の兄を置いてきたもので、まあちょっとこの国を観光して元の世界に戻れたら、サイコーなんですけど」
と本音で聞いてみた。

 切れ長な目をうっすりと細めて考えたあと、顎に手を押さえて、ケヴィンは口を開いた。

 「やはり、あなたは異世界から来た方ですね。フェリス殿下はそうではないかとおっしゃっておりました。それについては殿下自身にお聞きください。ただいま、殿下は別件で多忙なため、それが終わり次第、カナ様とお会いしたいと言っておられました」

 それから、ケヴィンは簡単にこの世界について説明してくれた。

 ここはやはり思った通り、グレンビィア王国であり、フェリス・マグノリア・グレンヴィル殿下は先ほども聞いたが十七歳と判明。ゲームのフェリス殿下が二十五歳だったような。まだ八年もあるじゃん!

 そういえば、設定が甘々なゆるい設定だったな。
 あのゲーム、【愛の果てグレンビィア王国~男たちの果てしなき愛欲】

 あの絡みついてきた変な魔物みたいなのもいなかったような気がする。
 頑張ってゲームの内容を思い出そうとするが絡みのシーンしかよく覚えていなかった自分に反省する。

 そんななか、バタバタと慌ただしい音が外から聞こえてきた。勢いよく、また奥のドアから入ってきた男性がいた。カナも驚いて、ベットのそばで直立してしまう。

 「緊急の会議が入ってしまい、遅くなってしまった。すまん」

 それはまさしく、見た目も麗しく、その美声と色気のある仕草だけで百人の女の腰を立たせなくさせるという完璧男子。フェリス・マグノリア・グレンヴィル、通称フェリス殿下。
 眉毛にかかる銀色の髪が色気を醸し、まだ17歳でこの色気とフェロモン。
 カナは正直、生身の人間だったら、風のようにこの場から立ち去っていたが、慣れ親しんだゲームのキャラクターだったせいか、逃げ去る事はしなかった。

 ケヴィンがなにか話そうとしていたフェリスに向かって耳打ちをした。
 たぶん、私の名前やら、いままでの聞いた情報をフェリス殿下に教えているのだろう。

 肩章には金の太いモールが縁取られ、白地の輝く生地と銀色の髪を際立たせていた。
 カナは、ぼーっとしながら、フェリスの王子らしい衣装を拝謁し、妄想の世界へと飛んでいた。

 あー、スマホあったらな……絶対写メしてたっとカナは思う。

 そんな妄想の途中、いきなり、その超絶イケメン王子がカナの前で片膝をつき、服従するかのように、左手を胸にあて、右手をカナの方に差し出した。目はじっとカナを見据えている。声は震えながらも、緊張していえるようだった。

 「舞姫、わたしはグレンビィア王国のフェリス・マグノリア・グレンヴィル。昨晩は大変失礼した。舞姫を救うことができて、この上なき名誉。突然ではあるが……どうぞ私を貴方の夫にしていただきたい」

 は??? 

 いまなんとおっしゃいましたか?

 おっと?

 夫?

 まいひめ?

 なんですか?それは。


 ケヴィンもマリアも唖然としながらも、微動たりともしなかった。
 彼らの目だけは異様にびっくりしている様子がわかる。

 「あの、フェリス様、いえ、フェリス殿下、とってもとっても光栄なお話なんですが、あまりに突然すぎて、ちょっとよくわかりません。オットとはどういう意味ですか? まいひめ? なにかの暗号ですか?」

 ぶっと吹き出す、ケヴィンがいる。フェリスはちょっと唖然としながらも体勢を立て直し、手をその色気が溢れる前髪を耳にかけながら、眉間に手をあてた。

 「暗号ではありません。夫です。わたしの妃になってほしい。せめて婚約の約束を……」

 え、

 これ突然の求婚?

 異界からくる地味女子に対する荒手の冗談なのだろうか。一応、後ろに該当するべきひとがいるかもしれないと思って、振り向いてみる。

 もちろん、だれもいない。

 フェリスは男色じゃないの?
 もしかして、隠れミノとして、私を利用しようとしている???

 あ り え る !

 「フェリス殿下。いささか過ぎて、カナ様が話についてこられておりません。どうぞもうすこし事情を話されてからのほうがよいかと存じます」

 ケヴィンがまた咳をコホンとしながら、フェリスをなだめようとしている。

 求婚の途中を止められて、ちょっと不機嫌な殿下にかわり、信頼できる家令ケヴィンは、メガネを定位置に人差し指で戻し、ふうっと息をついて、これまでの経緯やカナがこの異世界にきた意味を教えてくれた。

 ケヴィンによると、昨晩、この世界に強い魔力の歪みが生じたらしい。そして、カナが誰も入らない蒼黒の森で発見されたこと、さらに、カナ自身が異世界からやってきた事実を合わせると、カナ自身がこの世界に福音をもたらすといわれる舞姫という可能性が高いという事だった。

 しかも、昨晩はこの国でいう月隠れの日なのだ。月隠れとは太陽と2つの月が重なる日で、特別な日をされ、街では舞姫が降りてくる伝説を祝って、お祭りごとがなされるらしい。

  舞姫とはまさしく空から降り舞ってくる神の福音であり、この国だけではなく、この世界の古き信仰の一つらしい。前回、舞姫が現れた時は、いまから300年以上も昔で古代の歴史書に残っていると言われる。

 「だから、お前を元の世界に返す方法はまだわからない。我が王国では建国以来のことなんだ」

とフェリスはつぶやいた。
 
 初キス、ディープキス、プロポーズを約1日で全て体験し、ありえない展開に唖然とする。
 でも、、ただここで、うんっとは言えなかった。
 さすがにそれは本能がやばいと言っている。
 しかもいつ帰れるのかがわからない。

 「ちょっと……その……そういうのは まだ無理かも。わたしまだ十五歳だし」

 考えて出したカナの答えに、絶句する男子二人。

 「もう十五歳? 十二歳ぐらいだと思いました。さすがの無敗の殿下も……舞姫様の前では」

 「うるさい。ケヴィン。邪魔するな」

 マリアさんはちょっと微笑んでいた。

 「え……でも十二歳だったと思う少女に求婚って……もしかして、フェリス殿下、ロリコンですか?」

 「は? ロリコンとは意味がわからないが……」

 話がかみ合わないので、色々聞いてみると、この世界では貴族は幼少から婚約者がいるそうで、早い人は生まれたときからいるらしい。

 フェリスは持っている力が甚大すぎて一つの貴族と力関係的に親しくなるべきではないということで、十七歳のいまでも婚約者が不在という異常事態が続いていた。取り巻きの3大公爵家のバランスを崩すのはどうしても避けたいらしい。

 「もう十五歳か。これで舞姫だった場合、熾烈な争いがおきるぞ。これには私との婚約か結婚しかないじゃないか!!」

 力説するフェリスを聞いてカナは悶絶した。
 初対面で(正確には3次元では初対面だが)結婚するとは、ちょっといささか腐女子には重すぎる。
 
 早過ぎるという意味で出した年齢が、かえって婚約の話に油を注いでしまったようだった。
 熱烈に見つめてくるフェリスの視線に耐えきれず、フラフラと足取りが寝台へと行き、カナはまたその気持ちが良いシーツの中に倒れて気を失った。

(ショックで倒れすぎる主人公。すみません。)

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