ハーレム系ギャルゲに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

安眠にどね

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 わたしもここらで一発、手でも切って不慣れアピールしておくか? と、手に持った包丁を見て、一瞬血迷う。すぐにそんな考えは投げ捨てたけど。
 ちゃんとオクトール様の隣に立ちたくて、彼にふさわしいのはわたしだけだと証明したくて、こんな料理対決みたいなことまでしているのだ。ならば、正々堂々、味で勝負するのみ。
 偶然手を切るならまだしも、わざと切るなんてのは論外である。あと普通に、衛生面を考えたら最悪だし。
 オクトール様に分かってもらえたらそれでいい、なんて甘えたことは言わない。圧倒的にわたししかいないのだと、周りにも思い知らせるために、平民の恰好をして料理教室に行ったことを思い出せ。

「――できましたわ」

 サンドイッチとスープという簡単な料理では、わたしの予想通り三十分強で完成してしまった。クレメリア嬢はまだ食材と格闘しているが、わたしの方は圧倒的に時間が余ってしまった。
 オクトール様の前に皿を並べる。

「――っ」

 オクトール様が息を飲んだのが分かった。わたしが作ったこのスープに、見覚えがあるんだろう。きのこのスープだった、ということしか聞いていなかったけれど、ムスモス茸で正解だったらしい。
 目の前で作ってはいたけれど、オイル漬けという既に加工済の食材を使用しているので念のため、という毒見を済ませたオクトール様が、スープを口に運ぶのを見届け、わたしは、「近い味になっていますか?」と問うた。まあ、彼の表情を見るに、聞くまでもないのだが。

「ああ。このスープ、まるで母上が作ってくれた料理みたいだ」

 わたし以外の人もいるから、今日のオクトール様は眼鏡をかけているのに、どことなく、二人きりの彼のように、声音が少し、幼く聞こえた。
 パクパクとスープを半分くらい食べ進めたオクトール様が、ふと、手を止める。

「味はおいしいが……結局、このきのこはなんのきのこだったんだ?」

「ムスモス茸ですわ」

 オクトール様の問いに答えると、彼は目を丸くし、周りの人間はざわついた。まあ、貴族に関わる人間だったら、貴族と同じようにムスモス茸を薬の材料としか見ていないだろう。

「ムスモス茸とは……あのムスモス茸か?」

 わたしがロネさんからこの料理を初めて教えてもらったときと同じようなリアクションをするオクトール様。

「もちろん、あのムスモス茸ですわ。……とある筋から料理を教えて貰いましたの」

 とある筋、とはロネさんのことで、ただ、わたしが平民の恰好をして料理教室に行っただけで、別に怪しい情報源でも何でもないんだけど。
 ただ、オクトール様の出自は、知っている人は知っているけれど、約一名を除いて明言するのを避けているから、わたしもそれにならって言葉を濁しただけである。
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