ハーレム系ギャルゲに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

安眠にどね

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 料理なら勝てる! と自信満々だったのに、いざ当日になると、本当に大丈夫なのかな……と緊張してきてしまう。

 わたしとクレメリア嬢は、王城の厨房の片隅を借りて料理をすることになった。見習いの料理人が練習で使う場所らしく、あまり広くはないものの、設備は整っている。
 ヒロインの一人であるハルシアに似たピンクの髪の毛を三つ編みにし、眼鏡をかけたクレメリア嬢は、いかにも優等生、という恰好をしていた。

 審判はオクトール様。けれど、他にも立会人にとノーディーニさんだったり、オクトール様の護衛だったり、ここの料理場の管理を任されている見習いの中でもリーダー格の人がいたりと、意外とギャラリーは多い。
 食材の持ち込みは自由。制限時間は三時間。気が付けばまるで料理漫画のような料理バトルになってしまったが、オクトール様が『妃にするなら、料理ができて、手料理を食べさせてくれる人』という条件を提示したのだから、まあ、こうなってしまうのも無理はない。

 わたしが作るのはサンドイッチとムスモス茸のスープ。コース料理も考えなかったわけじゃないけど、コースにしてしまうと家庭料理から一気に離れる気がしたので、すぐにその案は却下した。
 一般的なこの国の家庭料理のイメージを採用することにした。サンドイッチとスープが定番、というのは前世で設定として聞いていたし、カリスにも確認したので間違いない。

 料理漫画のような展開だなあ、と他人事のように思ったところで、実際これは料理漫画のワンシーンではないので、調理が開始されたところで解説が入るわけではない。
 わたしもクレメリア嬢も、調理を開始する。
 ムスモス茸のオイル漬けは既に作ってきてあるし、サンドイッチは切って挟むだけ。侯爵令嬢があまりにも手際よく複雑な料理を作っていたら違和感があるかと思って、定番な家庭料理の組み合わせの中でも簡単なものを選んだのだが、逆に簡単すぎて三時間も調理時間はいらないだろう。

 余裕を持って提供して終わるかな、と脳内で段取りを再確認しながら、サンドイッチに挟む野菜を洗う。その間に、ちらっと、クレメリア嬢は何を作るのかな、なんて、彼女の方をうかがってみると――。

「ひえっ」

 変な声が小さく出てしまった。誰も喋っていなくて、調理場は静まり返っているから、誰かに聞こえたかもしれない。わたしが水道で出している水の音で消えた可能性も十分にあるが。

 でも、声を出さずにはいられない。
 クレメリア嬢の包丁の持ち方がヤバいのである。両手で包丁を持つな。今使うのは包丁で、のこぎりじゃないんだから、そんな持ち方をして食材を切ろうとしないで。

 ライバル相手なはずなのに、あまりの不慣れっぷりに、わたしは不安になってきてしまった。クレメリア嬢が怪我しそうで怖いのだ。
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