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 ナノハの表情は驚きに満ちていて、なにより、真っ青な顔をしていた。
 彼女には、わたしとオクトール様が飾りに使っている花のことが分かっているのだろう。シャハルク商会の孫だけあって、物を見る目は確からしい。
 わたしたちがこうして惜しげもなく、さも普通の飾りと同じように使っているのを見て、ただ、この婚約発表のパーティーにつけてきた、というわけではないことを、察しているのだろう。

「……ナノハ?」

 ナノハが固まって、顔色を悪くしているのにアインアルド王子が気が付いたようだ。キッとこちらを睨み「彼女に何をした」と低い声で問いただしてくる。この男はこの男なりに、ヒロインたちのことはしっかり大事にしているようだ。

「わたしたちは何もしていませんわ」

 微妙に嘘。実際、危害を加えるようなことは一つもしていないけれど、彼女の顔色が変わったのは間違いなくわたしたちの身についている花なので、何かした、といえば確かにしたのだが。

「――ベルメお嬢様、花をお持ち致しました」

「あら、ありがとう、グレーリア」

 着替えを済ませたのであろう、普段のメイド服とは違い、シンプルなドレスに身をまとったグレーリアが、花で一杯のかごを手に、わたしの近くへと寄ってくる。ちなみに、グレーリアの髪にも、一輪、この花が飾り付けられている。

 モルトベルグ王国の貴族の婚約発表のパーティーの場では、夫婦となる者たちの色と同じものを挨拶しながら配る。参加する者が少なければ宝石だったり、その領地の特産品だったりと贈るものに縛りはない。
 今回わたしたちが用意したのは、わたしたちの衣装の飾りでもある、わたしの髪と同じ色の赤い花と、オクトール様の髪色と同じ黒に近い紺の花。

 ただし、それはただの花ではなく、どちらも長い間国内で一度たりとも咲いたという報告がない、絶滅したはずの花である。
 わたしの花はかつての特産品。オクトール様の花は国旗にも描かれている花。

 ただ、どちらも国内で確認されなくなってから長いし、オクトール様の花は国旗に描かれているとはいえ、国旗にはかなり簡略化された記号のような花が描かれているので、その話を知った上で、実物を見たことがないと、国旗に描かれた花だとは分からないだろう。
 実際、わたしも、オクトール様がこの花を持ってきたときに教えて貰わなかったら絶対に気が付かなかったと思う。

 ――そして、ナノハを除いた、アインアルド王子たちも、わたしたちの配る花が何を意味しているのか、全く気が付いていないようだった。

「随分と可愛らしい花ですわね。お二人にお似合いですわ」

 一夫一妻であるわたしたちには花程度しか配れないのか、とでも言いたげにエルレナが薄く笑った。
 ……笑っていられるのも今のうちなんだから、存分に笑っていればいいわ。
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