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真っ赤なわたしの髪に負けないくらい、強い赤の花が、わたしの髪やドレスを飾る。今日は婚約記念のパーティー。白が基調のドレスだから、随分と赤が鮮やかに映える。
当初は、この花飾りは使わない予定だったのだが、オクトール様が伝説の魔女の使う旧魔女の魔法の再現をする魔法道具を完成させたことにより、急遽使うこととなった。
この花は、かつてこの国の特産品の一つだったにも関わらず、国外から持ち込まれた植物特有の病気に負けて一気に枯れてしまい、今では種が少し残るだけとなってしまった花だそうだ。例の魔法道具で咲かせることができたので、飾りに使っている。
本来なら、たかだか一日のために飾りとして使えるようなものではないのだが――分かる人には一目見て分かるこの花を飾ることで、植物を復活させることができるようになったとアピールするのだという。
白いドレスを着て、赤い花で飾られている『ベルメ・ルビロス』をが映る鏡を見て、ああ、わたしだ、と妙にしっくりきていた。
キャラクターの『ベルメ・ルビロス』ではない。生まれ変わった、わたしがそこにいる。
「お嬢様、とっても綺麗です!」
仕事をやり遂げた、という顔でわたしを褒めるのはカリスだ。持っていたくしを握りしめ、きらきらと目を輝かせているのが鏡に映っている。
「ありがとう、カリス」
わたしが礼を言い、彼女と話していると、扉がノックされる。
「お嬢様、グレーリアです。オクトール殿下が到着いたしました」
「分かりましたわ」
カリスに目くばせをすると、彼女は扉をすっと開ける。
扉の先には、わたしと同じように白を基調としたタキシードを着ているオクトール様がいた。結婚式本番ではないので、白一色ではなく、ところどころに赤で刺繍が入り、その胸元には、わたしと同じように赤い花が飾られている。普段つけている眼鏡と違って、落ちないようにチェーンがつけられていた。準備は万端らしい。
「……殿下。中にお入りくださいませ」
グレーリアの言葉にはっとしたような表情を見せたオクトール様が、慌てて中に入る。
「すまない、つい……」
顔をほんのりと赤らめながら、オクトール様の視線が泳ぐ。似合う、と言われるよりも先に見せたその反応が、わたしが今、彼の目に美しく映っているかどうか、物語っていた。
「とってもお似合いですわ、オクトール様」
わたしが先にそう言えば、オクトール様も「……君も、似合っている」とチェーンの一番下、垂れた部分を撫でながら言った。チェーンがつくとそこもいじる対象になるんだ。
そのことに気が付いて思わず頬を緩めていると、オクトール様が咳ばらいをし、わたしに手を差し出してくる。
「準備はいいか?」
「ええ、勿論ですわ」
わたしは差し出されたその手を取った。
――婚約発表パーティー会場という名の戦場に、わたしたちは向かうのだった。
当初は、この花飾りは使わない予定だったのだが、オクトール様が伝説の魔女の使う旧魔女の魔法の再現をする魔法道具を完成させたことにより、急遽使うこととなった。
この花は、かつてこの国の特産品の一つだったにも関わらず、国外から持ち込まれた植物特有の病気に負けて一気に枯れてしまい、今では種が少し残るだけとなってしまった花だそうだ。例の魔法道具で咲かせることができたので、飾りに使っている。
本来なら、たかだか一日のために飾りとして使えるようなものではないのだが――分かる人には一目見て分かるこの花を飾ることで、植物を復活させることができるようになったとアピールするのだという。
白いドレスを着て、赤い花で飾られている『ベルメ・ルビロス』をが映る鏡を見て、ああ、わたしだ、と妙にしっくりきていた。
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「お嬢様、とっても綺麗です!」
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「ありがとう、カリス」
わたしが礼を言い、彼女と話していると、扉がノックされる。
「お嬢様、グレーリアです。オクトール殿下が到着いたしました」
「分かりましたわ」
カリスに目くばせをすると、彼女は扉をすっと開ける。
扉の先には、わたしと同じように白を基調としたタキシードを着ているオクトール様がいた。結婚式本番ではないので、白一色ではなく、ところどころに赤で刺繍が入り、その胸元には、わたしと同じように赤い花が飾られている。普段つけている眼鏡と違って、落ちないようにチェーンがつけられていた。準備は万端らしい。
「……殿下。中にお入りくださいませ」
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「すまない、つい……」
顔をほんのりと赤らめながら、オクトール様の視線が泳ぐ。似合う、と言われるよりも先に見せたその反応が、わたしが今、彼の目に美しく映っているかどうか、物語っていた。
「とってもお似合いですわ、オクトール様」
わたしが先にそう言えば、オクトール様も「……君も、似合っている」とチェーンの一番下、垂れた部分を撫でながら言った。チェーンがつくとそこもいじる対象になるんだ。
そのことに気が付いて思わず頬を緩めていると、オクトール様が咳ばらいをし、わたしに手を差し出してくる。
「準備はいいか?」
「ええ、勿論ですわ」
わたしは差し出されたその手を取った。
――婚約発表パーティー会場という名の戦場に、わたしたちは向かうのだった。
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