70 / 111
70
しおりを挟む
魔法道具の執着心によってそこまで情報を集めたんだろうか。
あ、それとも、単純に王城には文献が残っている、とか? 王城の書庫にある本は、数こそ貴族学院に劣るけれど、文献とか記録とか、そういう本に特化している、という設定が……あった気がする……。
ベルデリーンルートで貴族学院の図書館に行くことは、ほとんどなかったけど、ベルデリーンのルートを書くにあたって、貰った資料にそんな感じのことが書いてあった記憶がある。流石にうっすら覚えているだけだけど。
でも、オクトール様の答えは、わたしが想像したそのどちらでも、なかった。
「……誰にも、言わないで欲しいんだが」
そう、前置きを、オクトール様が言った。
「誰にも? 国王や、ノーディーニさんにもですの?」
「父上はおそらく知っているかも知れないが、僕が直接確認したことはない。ノーディーニにも言ったことがないから、彼は知らないだろうな」
その言葉に、わたしは思わず唾を飲み込んでしまった。
彼が、おそらくこの世で一番信頼している人物ですら知らないことを、わたしに教えようとしてくれている。妙な高揚感と緊張に、心臓がばくばくといっている。
それを悟られないように、わたしは必死で、表情を取り繕った。
「僕の母上が、王族の血筋でも、貴族の出身でもないのは知っているだろう?」
「ええ」
だからこそ、アインアルド王子にあそこまで馬鹿にされたわけで。ただ、オクトール様にとって、あまり話したくない内容なのかと思って、詳細をわたしから聞いたことはない。
――いや、でも、今、その話が出てくるって、ことは……。
思い当たる予感は、的中した。
オクトール様が、わたしの耳元に顔を寄せ、ささやく。
「僕の母上は、伝説の魔女の一族の女性なんだ。……だから、僕も伝説の魔女の使った旧魔女の魔法を知っている。母上が、生前、僕に教えてくれたから」
ぼそぼそと、二人きりでオクトール様の私室という状況にも関わらず、いっそうひそめられた声。でも、その幽かな声は、わたしの耳にしっかり届いた。
驚きに、わたしは思わず、オクトール様の顔を見た。彼はうっすらと、ほほ笑んでいる。
「……本当は、誰にも言うつもりはなかった。墓場まで持って行って、それこそ、伝説を伝説のまま、終わらせるつもりだった」
そう話すオクトール様に、わたしは言葉を返せなかった。驚きのあまり、なんて返したらいいのか分からなくて、瞬きをすることしかできない。『お嬢様』であることも忘れて、ぽかんと口を開けたまま。
あ、それとも、単純に王城には文献が残っている、とか? 王城の書庫にある本は、数こそ貴族学院に劣るけれど、文献とか記録とか、そういう本に特化している、という設定が……あった気がする……。
ベルデリーンルートで貴族学院の図書館に行くことは、ほとんどなかったけど、ベルデリーンのルートを書くにあたって、貰った資料にそんな感じのことが書いてあった記憶がある。流石にうっすら覚えているだけだけど。
でも、オクトール様の答えは、わたしが想像したそのどちらでも、なかった。
「……誰にも、言わないで欲しいんだが」
そう、前置きを、オクトール様が言った。
「誰にも? 国王や、ノーディーニさんにもですの?」
「父上はおそらく知っているかも知れないが、僕が直接確認したことはない。ノーディーニにも言ったことがないから、彼は知らないだろうな」
その言葉に、わたしは思わず唾を飲み込んでしまった。
彼が、おそらくこの世で一番信頼している人物ですら知らないことを、わたしに教えようとしてくれている。妙な高揚感と緊張に、心臓がばくばくといっている。
それを悟られないように、わたしは必死で、表情を取り繕った。
「僕の母上が、王族の血筋でも、貴族の出身でもないのは知っているだろう?」
「ええ」
だからこそ、アインアルド王子にあそこまで馬鹿にされたわけで。ただ、オクトール様にとって、あまり話したくない内容なのかと思って、詳細をわたしから聞いたことはない。
――いや、でも、今、その話が出てくるって、ことは……。
思い当たる予感は、的中した。
オクトール様が、わたしの耳元に顔を寄せ、ささやく。
「僕の母上は、伝説の魔女の一族の女性なんだ。……だから、僕も伝説の魔女の使った旧魔女の魔法を知っている。母上が、生前、僕に教えてくれたから」
ぼそぼそと、二人きりでオクトール様の私室という状況にも関わらず、いっそうひそめられた声。でも、その幽かな声は、わたしの耳にしっかり届いた。
驚きに、わたしは思わず、オクトール様の顔を見た。彼はうっすらと、ほほ笑んでいる。
「……本当は、誰にも言うつもりはなかった。墓場まで持って行って、それこそ、伝説を伝説のまま、終わらせるつもりだった」
そう話すオクトール様に、わたしは言葉を返せなかった。驚きのあまり、なんて返したらいいのか分からなくて、瞬きをすることしかできない。『お嬢様』であることも忘れて、ぽかんと口を開けたまま。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる