67 / 111
67
しおりを挟む
ホールに戻ると、わたしたちに気が付いた何人かが声をかけに来てくれる。シャローネの近くにいた貴族は、オクトール様の言った、ヒールが折れた、という言葉が聞こえたかもしれないが、大半の貴族からしたら、踊り終えたわたしがふらついて、オクトール様に運ばれた、という風に見えたようだ。
言われてみれば、そう言う風に見られてもおかしくない、ということに気が付く。お姫様だっこされたことに慌てていて、そんなことまで気が回らなかった。
わたしの体調不良を心配する声に、「お恥ずかしながら、ヒールが折れてしまって」と、オクトール様の嘘に全力で乗っかった。
体調自体は全く問題ないことを告げると、安堵する人と、なんだか嫌な表情を浮かべる人とで別れた。
「アインアルド王子との婚約破棄で、心労がたたったのかと思いました。無理もないでしょうけど」
とある夫人のその言い方に、わたしはカチンとくる。
この国の貴族からしたら、いろんな妻を娶れるアインアルド王子が魅力的な男で、どんどんと『おさがり』になっていったわたしは魅力のない女、という風に見えるのは分かっているが、面と向かって言われるとイラッとする。影でひそひそ言われるのも、それはそれで腹が経つが。
シルヴィアの招待客とは全く毛色が違い、純粋に貴族ばかりでは、やはりこういう態度の人間が一気に増える。しかも、シャローネの家自体が、伝統を重んじる家だから、自然と新興貴族のシルヴィアや、彼女の家と主な付き合いがあるような下位とはつるまない人間ばかり。
シャローネは本当の意味で伝統を重んじるので、自分より上位の家の人間をそういう目で見たりはしないが、長い歴史のある上位貴族という立場に驕る人は、しばしば複数女を侍らせられない男や、わたしみたいな『おさがり』を見下した目で見ることがある。
でも、そんなことをされたって、怒りとなって、わたしのやる気の糧になるだけだ。悲しいと思うことはあまりない。
「いいえ? アインアルド王子は良縁をくださいましたもの。感謝こそすれ、未練などありませんわ」
わたしが言うと、ここまで言い切ると思っていなかったのか、相手が少しだけひるんだような表情を見せる。まあでも、わたしが悔しまぎれに言った一言だと、向こうは思うんだろうけど――まぎれもない、本心だ。
最初こそ、まだわたしの他に婚約者が決まっていなくて、人付き合いが苦手そうなオクトール様は、わたしが望む一夫一妻に都合がよさそうだ、なんて思ったものだけど。
今は、オクトール様だからこそいいと、本気で思っている。
言われてみれば、そう言う風に見られてもおかしくない、ということに気が付く。お姫様だっこされたことに慌てていて、そんなことまで気が回らなかった。
わたしの体調不良を心配する声に、「お恥ずかしながら、ヒールが折れてしまって」と、オクトール様の嘘に全力で乗っかった。
体調自体は全く問題ないことを告げると、安堵する人と、なんだか嫌な表情を浮かべる人とで別れた。
「アインアルド王子との婚約破棄で、心労がたたったのかと思いました。無理もないでしょうけど」
とある夫人のその言い方に、わたしはカチンとくる。
この国の貴族からしたら、いろんな妻を娶れるアインアルド王子が魅力的な男で、どんどんと『おさがり』になっていったわたしは魅力のない女、という風に見えるのは分かっているが、面と向かって言われるとイラッとする。影でひそひそ言われるのも、それはそれで腹が経つが。
シルヴィアの招待客とは全く毛色が違い、純粋に貴族ばかりでは、やはりこういう態度の人間が一気に増える。しかも、シャローネの家自体が、伝統を重んじる家だから、自然と新興貴族のシルヴィアや、彼女の家と主な付き合いがあるような下位とはつるまない人間ばかり。
シャローネは本当の意味で伝統を重んじるので、自分より上位の家の人間をそういう目で見たりはしないが、長い歴史のある上位貴族という立場に驕る人は、しばしば複数女を侍らせられない男や、わたしみたいな『おさがり』を見下した目で見ることがある。
でも、そんなことをされたって、怒りとなって、わたしのやる気の糧になるだけだ。悲しいと思うことはあまりない。
「いいえ? アインアルド王子は良縁をくださいましたもの。感謝こそすれ、未練などありませんわ」
わたしが言うと、ここまで言い切ると思っていなかったのか、相手が少しだけひるんだような表情を見せる。まあでも、わたしが悔しまぎれに言った一言だと、向こうは思うんだろうけど――まぎれもない、本心だ。
最初こそ、まだわたしの他に婚約者が決まっていなくて、人付き合いが苦手そうなオクトール様は、わたしが望む一夫一妻に都合がよさそうだ、なんて思ったものだけど。
今は、オクトール様だからこそいいと、本気で思っている。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる