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ぱちぱちと拍手が響く中、ようやく終わったと安堵するのはいいけれど、だからといって痛みが引くわけじゃない。ハイヒールを履いているにも関わらず、片足に体重をかけていたら、そちらの脚までつってしまいそうである。
――と。
「きゃ――」
ふわっとわたしの体が浮いた。咄嗟のことに、近くにあったものを反射でつかめば、それはオクトール様の肩だった。
……お、お姫様だっこされてる!?
痛みと驚きで、わたしの脳内はぐちゃぐちゃだ。もう取り繕うどころの話ではない。
わたしを抱きかかえたまま、オクトール様はシャローネの元に歩く。
「すまない、ヒールが折れてしまったようだ。休憩室を借りても?」
真っ赤な嘘だ。でも、わたしのドレスは足元が全く見えない長さの物で、スカートもボリュームを出している。ヒールもそれなりに高いものを履いているから、かかとの根本は見えない。
シャローネはすっかり騙されて、「大変ですわ! すぐにご案内致します」と言って、使用人に声をかけていた。
ざわざわとした人の話し声と、緩やかに始まった音楽が遠ざかっていく。
使用人に案内され、廊下を歩いた先には休憩室。人や酒に酔って体調を崩した人のためのものであると同時に、いい雰囲気になったカップルがこっそりいちゃつくための場所でもある。が、どちらにしろ、パーティーが始まったばかりでは、使う人間はいない。
いくつかある休憩室のうち、一番豪華な部屋に通された。こんなに豪華な場所をパーティーの開始早々に使うのはなんだか罪悪感のようなものがあるが、オクトール様が王族で、わたしが侯爵令嬢なのだから仕方がない。後でいちゃつきに来るであろうカップルに、心の中でだけ謝っておく。
扉が開かれ、オクトール様と二人きりになって、ソファに下ろされた瞬間、わたしは足のつま先に手を伸ばした。おかえりふくらはぎ。
じわじわと、痛みがぼやけていく。完全に痛みが引くのは難しそうだが、まあでも、この程度なら余裕で我慢できる。さっきとは雲泥の差だ。
「……足をくじいたのではなかったのか?」
スカートの中身が見えないようにする程度の気遣いしかできないわたしに、オクトール様が聞いてくる。
わたしはもう平気かな、と足を下ろし、スカートを直しながら「足がつったんです」と答える。
くじいただけならまだ良かった。体重をかけなければそれほど酷い痛みにはならない。ハイヒールな時点で、足をくじいたとしても結構大変だったとは思うが、足がつる方がまだ我慢できないと個人的には思う。
――と。
「きゃ――」
ふわっとわたしの体が浮いた。咄嗟のことに、近くにあったものを反射でつかめば、それはオクトール様の肩だった。
……お、お姫様だっこされてる!?
痛みと驚きで、わたしの脳内はぐちゃぐちゃだ。もう取り繕うどころの話ではない。
わたしを抱きかかえたまま、オクトール様はシャローネの元に歩く。
「すまない、ヒールが折れてしまったようだ。休憩室を借りても?」
真っ赤な嘘だ。でも、わたしのドレスは足元が全く見えない長さの物で、スカートもボリュームを出している。ヒールもそれなりに高いものを履いているから、かかとの根本は見えない。
シャローネはすっかり騙されて、「大変ですわ! すぐにご案内致します」と言って、使用人に声をかけていた。
ざわざわとした人の話し声と、緩やかに始まった音楽が遠ざかっていく。
使用人に案内され、廊下を歩いた先には休憩室。人や酒に酔って体調を崩した人のためのものであると同時に、いい雰囲気になったカップルがこっそりいちゃつくための場所でもある。が、どちらにしろ、パーティーが始まったばかりでは、使う人間はいない。
いくつかある休憩室のうち、一番豪華な部屋に通された。こんなに豪華な場所をパーティーの開始早々に使うのはなんだか罪悪感のようなものがあるが、オクトール様が王族で、わたしが侯爵令嬢なのだから仕方がない。後でいちゃつきに来るであろうカップルに、心の中でだけ謝っておく。
扉が開かれ、オクトール様と二人きりになって、ソファに下ろされた瞬間、わたしは足のつま先に手を伸ばした。おかえりふくらはぎ。
じわじわと、痛みがぼやけていく。完全に痛みが引くのは難しそうだが、まあでも、この程度なら余裕で我慢できる。さっきとは雲泥の差だ。
「……足をくじいたのではなかったのか?」
スカートの中身が見えないようにする程度の気遣いしかできないわたしに、オクトール様が聞いてくる。
わたしはもう平気かな、と足を下ろし、スカートを直しながら「足がつったんです」と答える。
くじいただけならまだ良かった。体重をかけなければそれほど酷い痛みにはならない。ハイヒールな時点で、足をくじいたとしても結構大変だったとは思うが、足がつる方がまだ我慢できないと個人的には思う。
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