52 / 111
52
しおりを挟む
二人してアインアルド王子を見返してやろう、と言い出したのはわたしなのに、自己管理もできずに倒れるなんて恥ずかしい。
わたしがそう言うと、オクトール様は「そうじゃない」と首を横に振った。
「……親しい人が倒れたら、普通に心配くらいするだろう」
親しい人。まさかそんな風に言われるとは思ってもみなかった。じゃあどんな風に言われると思ってたのか、と聞かれると困ってしまうけど。
オクトール様は人見知りで、他人と接するのが苦手で、魔法道具が好きな人。そんなイメージしかなかったけれど……そうか、別に、他人と接するのが苦手でも、誰かを心配することがないわけじゃないのか。
それにしても、親しい人、か。
親しい相手になら、ドレスに対して誉め言葉の一つや二つ、言ってもおかしくはない。なるほど、単純に、オクトール様との距離が縮まっただけだったのか。それがどういう形でかは分からないが。
……親しい人。
わたしの顔を見て、婚約者だと聞いて失神し、その後の挙動不審っぷりを見たら、確かに『親しく』なったように思う。
でも、オクトール様の口から直接、そういう風に聞いてしまうと、逆に遠くなってしまったように感じるのは何故だろう。
『シックス・パレット』の世界は一夫多妻が常識。それでいて、貴族は政略結婚が当たり前。アインアルド王子は主人公補正と制作陣の一人であるわたしの影からのサポートがあって、好きな令嬢たちとの結婚が決まったが、あんなの異例中の異例である。
こうして、一夫一妻を貫けそうなオクトール様との婚約が決まっただけでも幸運だというのに。
その先を望んでしまうのはどうしてだろう。
「……すまない、体調が悪いんだったな。もう帰るとしよう」
わたしが黙ってしまったのを、ただの体調不良だと勘違いしたらしい。無理もないが。
オクトール様は鏡台前の椅子から立ち上がる。
「早く元気になって、いつもの君に戻ってくれ」
「いつもの、わたし……」
「ああ。貴族令嬢に言う言葉ではないと思うが、あまり大人しいと、らしくない」
オクトール様からわたしはどう見えているのだろう。元気になってくれ、ということばからして、けなされているわけじゃないんだろうけど。
――でも、そうか。わたしらしくないのか。
確かに、あまりうじうじ悩むのは、わたしらしくないようにも思える。そりゃあわたしだって悩むこともあるし、落ち込んでやけになることもあるけど――でも、現状に諦めて、悪あがきをやめるのは、確かにらしくない。
本当にわたしが諦めきって、わきまえていたら、もっと昔――それこそ、アインアルド王子との婚約が決まったときに、そういうものだと諦めて、彼をハーレムエンドにまで誘導したりしない。
恋愛結婚ができないからどうした?
彼を落とせばいいだけの話じゃないか。
わたしはオクトール様をベッドから見送ると、布団を被って目を閉じた。
絶対に今日中に体調を治す。そして、明日から、また勉強を再開して、体調管理もしっかりして――オクトール様に、わたしの王子様になってもらうために、努力するのだ!
わたしがそう言うと、オクトール様は「そうじゃない」と首を横に振った。
「……親しい人が倒れたら、普通に心配くらいするだろう」
親しい人。まさかそんな風に言われるとは思ってもみなかった。じゃあどんな風に言われると思ってたのか、と聞かれると困ってしまうけど。
オクトール様は人見知りで、他人と接するのが苦手で、魔法道具が好きな人。そんなイメージしかなかったけれど……そうか、別に、他人と接するのが苦手でも、誰かを心配することがないわけじゃないのか。
それにしても、親しい人、か。
親しい相手になら、ドレスに対して誉め言葉の一つや二つ、言ってもおかしくはない。なるほど、単純に、オクトール様との距離が縮まっただけだったのか。それがどういう形でかは分からないが。
……親しい人。
わたしの顔を見て、婚約者だと聞いて失神し、その後の挙動不審っぷりを見たら、確かに『親しく』なったように思う。
でも、オクトール様の口から直接、そういう風に聞いてしまうと、逆に遠くなってしまったように感じるのは何故だろう。
『シックス・パレット』の世界は一夫多妻が常識。それでいて、貴族は政略結婚が当たり前。アインアルド王子は主人公補正と制作陣の一人であるわたしの影からのサポートがあって、好きな令嬢たちとの結婚が決まったが、あんなの異例中の異例である。
こうして、一夫一妻を貫けそうなオクトール様との婚約が決まっただけでも幸運だというのに。
その先を望んでしまうのはどうしてだろう。
「……すまない、体調が悪いんだったな。もう帰るとしよう」
わたしが黙ってしまったのを、ただの体調不良だと勘違いしたらしい。無理もないが。
オクトール様は鏡台前の椅子から立ち上がる。
「早く元気になって、いつもの君に戻ってくれ」
「いつもの、わたし……」
「ああ。貴族令嬢に言う言葉ではないと思うが、あまり大人しいと、らしくない」
オクトール様からわたしはどう見えているのだろう。元気になってくれ、ということばからして、けなされているわけじゃないんだろうけど。
――でも、そうか。わたしらしくないのか。
確かに、あまりうじうじ悩むのは、わたしらしくないようにも思える。そりゃあわたしだって悩むこともあるし、落ち込んでやけになることもあるけど――でも、現状に諦めて、悪あがきをやめるのは、確かにらしくない。
本当にわたしが諦めきって、わきまえていたら、もっと昔――それこそ、アインアルド王子との婚約が決まったときに、そういうものだと諦めて、彼をハーレムエンドにまで誘導したりしない。
恋愛結婚ができないからどうした?
彼を落とせばいいだけの話じゃないか。
わたしはオクトール様をベッドから見送ると、布団を被って目を閉じた。
絶対に今日中に体調を治す。そして、明日から、また勉強を再開して、体調管理もしっかりして――オクトール様に、わたしの王子様になってもらうために、努力するのだ!
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる