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天蓋が閉まっていてよかった、と思いながら、わたしは髪を手櫛で整える。せめてもの悪あがきだ。
このまま天蓋越しに話を済ませられないかな、と思いながらも、そういうわけにはいかないか、とわたしは観念して天蓋を開ける。天蓋を閉めたまま会話するのは、よっぽど酷い外傷を負ったか、特定の感染症患者の場合のみである。
今回みたいに、ただちょっと体調を崩しただけなら、天蓋越しに会話するのは余計な心配をさせるだけだし、失礼にも当たる。
「急に押しかけてすまない」
そう言いながらも、わたしの顔を見てあからさまにホッとしたような表情をオクトール様がするものだから、わたしは何も言えなくなってしまった。
「それでは、自分はこれで失礼いたします」
オクトール様が、わたしのベッドの傍にある鏡台の前に置かれた椅子に座ったのを見て、カリスはお辞儀をして去っていった。
カリスが退室して扉が閉まると、「体調を崩したと聞いて驚いた」とオクトール様が言う。
「少し熱が出ただけですから、たいしたことはありません」
頭や喉が痛かったり、鼻水が出たり、あるいは食欲がないなど、風邪らしい症状は何もない。疲れが熱となって出ただけだろう。
わたし的には疲れていないつもりだったが、体はそうじゃなかった、という話なだけだ。
「何か僕にもできることがあったらよかったんだが」
「……恐ろしいことを言わないでください」
医療系の魔法や魔法道具は、使用する場面が限られており、同時に管理も厳重だ。こんな熱程度で何か魔法道具を引っ張ってこられたら、違法になってしまう。下手にオクトール様の経歴に傷をつけるわけにはいかない。
「そういうわけでは――ん?」
何か言いかけたオクトール様が、ふ、と鏡台の上にある本の山に目をやる。目の端に映ったのだろう。
あの山は、寝る前に読んでいるものが積み重なった山である。
ちょっと気になって読み始め、でも理解しきれなくて辞書や他の本を引っ張り、というのが何度もあって、面倒になって最初から必要そうなものはまとめてそこに置いたのだ。ベッドから近いので、本棚までわざわざ取りに行かなくていいし。
そして、本が積み重なっているものだから、読み終わっても何冊かはそこにポイ、とおいてしまう、だらしなさの結晶なので、あまりまじまじと見ないでほしい。
こんなことになるなら、せめて読み終わったものだけでも本棚に片付けておくべきだった。
しかも、どれもこれも、初心者向けのものばかり。まだこんなところを勉強しているのか、と思われたらどうしよう。オクトール様はアインアルド王子と違ってそういうことをはっきり口に出さないタイプではあるが、どう思うかは知らない。
あんまり見ないで、と言おうとして、オクトール様を見ると、なんとも言えない表情をしていた。あんまりいい表情ではないのは確かだが。
このまま天蓋越しに話を済ませられないかな、と思いながらも、そういうわけにはいかないか、とわたしは観念して天蓋を開ける。天蓋を閉めたまま会話するのは、よっぽど酷い外傷を負ったか、特定の感染症患者の場合のみである。
今回みたいに、ただちょっと体調を崩しただけなら、天蓋越しに会話するのは余計な心配をさせるだけだし、失礼にも当たる。
「急に押しかけてすまない」
そう言いながらも、わたしの顔を見てあからさまにホッとしたような表情をオクトール様がするものだから、わたしは何も言えなくなってしまった。
「それでは、自分はこれで失礼いたします」
オクトール様が、わたしのベッドの傍にある鏡台の前に置かれた椅子に座ったのを見て、カリスはお辞儀をして去っていった。
カリスが退室して扉が閉まると、「体調を崩したと聞いて驚いた」とオクトール様が言う。
「少し熱が出ただけですから、たいしたことはありません」
頭や喉が痛かったり、鼻水が出たり、あるいは食欲がないなど、風邪らしい症状は何もない。疲れが熱となって出ただけだろう。
わたし的には疲れていないつもりだったが、体はそうじゃなかった、という話なだけだ。
「何か僕にもできることがあったらよかったんだが」
「……恐ろしいことを言わないでください」
医療系の魔法や魔法道具は、使用する場面が限られており、同時に管理も厳重だ。こんな熱程度で何か魔法道具を引っ張ってこられたら、違法になってしまう。下手にオクトール様の経歴に傷をつけるわけにはいかない。
「そういうわけでは――ん?」
何か言いかけたオクトール様が、ふ、と鏡台の上にある本の山に目をやる。目の端に映ったのだろう。
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ちょっと気になって読み始め、でも理解しきれなくて辞書や他の本を引っ張り、というのが何度もあって、面倒になって最初から必要そうなものはまとめてそこに置いたのだ。ベッドから近いので、本棚までわざわざ取りに行かなくていいし。
そして、本が積み重なっているものだから、読み終わっても何冊かはそこにポイ、とおいてしまう、だらしなさの結晶なので、あまりまじまじと見ないでほしい。
こんなことになるなら、せめて読み終わったものだけでも本棚に片付けておくべきだった。
しかも、どれもこれも、初心者向けのものばかり。まだこんなところを勉強しているのか、と思われたらどうしよう。オクトール様はアインアルド王子と違ってそういうことをはっきり口に出さないタイプではあるが、どう思うかは知らない。
あんまり見ないで、と言おうとして、オクトール様を見ると、なんとも言えない表情をしていた。あんまりいい表情ではないのは確かだが。
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