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不幸中の幸いというべきなのか、それとも踏んだり蹴ったりというべきなのか、微妙なラインではあるが、シルヴィアの家で行われたパーティーの後、予定が合わなくてオクトール様と会うことがなかった。こっちはこっちで婚約パーティーの練習に忙しいし、向こうも向こうで忙しいのだろう。
普通なら共に練習するところだろうが、そこは貴族。向こうと一緒に練習する前に、最低限、という名の合格ラインに達するまで個人で練習しないといけない。オクトール様に会って練習をするときには、もう、練習ではなく最終確認、くらいの段階でないといけないのだ。
おかげで、オクトール様にあの夜の一言を言及しない理由ができたが、代わりに聞くタイミングを逃してしまった。来週、一度勉強会で会うには会うのだが、そのときにはもう、聞くのは今更過ぎる。
しかも、「ドレスが似合うってどういう真意で言ったの?」なんて。あの後すぐに聞き返せば良かったのに。むしろ、その瞬間以外、ベストなタイミングなんて存在しなかっただろう。
どうして記憶がないの、わたし……。
あの日から随分と日にちが経った。少なくとも、今更聞き返せないくらいには。
だから、忘れてしまってもいいし、少なくとも落ち着くべきなのに、でも、ふとした瞬間、思い出してしまって駄目だった。
不意打ちを食らった、からなのだろうか。こんなにも気にしてしまうのは。
考え過ぎて、もはや、よく分からなくなってしまった。こういうとき、相談する相手が少ないのが悔やまれる。『おさがり』と社交界で揶揄されがちなわたしにも友人はいるが、決して多くはないのだ。シルヴィアに手紙を出したが、まだ返事はない。
でも、なにも悪いことだけじゃない。
ふとした瞬間にオクトール様のことを考えてしまうので、とにかく頭を働かせていたくて、勉強をする時間が増えた。今ではちょっとした休憩時間やスキマ時間にも勉強をするようになった。
まあ、代わりに睡眠時間がガッツリ減ってしまったのでプラマイゼロな気がしてならないが。
それでも少しは前より知識が身に着いただろうか。長いこと魔法道具に関わってきた彼らと肩を並べるくらい知識を頭に入れるのは、この短期間でやるには難しいことは分かっているのだが、どうしても、気が急いでしまう。
「――お嬢様」
魔法道具に関する本を読んでると、ふと、グレーリアに声をかけられる。今日はもう予定がなかったように思うけれど、何かまだあっただろうか。夕方だから、今から講師が来るとは思えないけど……。
しかし、そうではなかった。
「一度お休みになられませんか」
そう言うグレーリアの表情は、心配そうにわたしを見てくるもので、普段は無表情で淡々と仕事をこなす彼女にしては珍しいな、と思ってしまった。
普通なら共に練習するところだろうが、そこは貴族。向こうと一緒に練習する前に、最低限、という名の合格ラインに達するまで個人で練習しないといけない。オクトール様に会って練習をするときには、もう、練習ではなく最終確認、くらいの段階でないといけないのだ。
おかげで、オクトール様にあの夜の一言を言及しない理由ができたが、代わりに聞くタイミングを逃してしまった。来週、一度勉強会で会うには会うのだが、そのときにはもう、聞くのは今更過ぎる。
しかも、「ドレスが似合うってどういう真意で言ったの?」なんて。あの後すぐに聞き返せば良かったのに。むしろ、その瞬間以外、ベストなタイミングなんて存在しなかっただろう。
どうして記憶がないの、わたし……。
あの日から随分と日にちが経った。少なくとも、今更聞き返せないくらいには。
だから、忘れてしまってもいいし、少なくとも落ち着くべきなのに、でも、ふとした瞬間、思い出してしまって駄目だった。
不意打ちを食らった、からなのだろうか。こんなにも気にしてしまうのは。
考え過ぎて、もはや、よく分からなくなってしまった。こういうとき、相談する相手が少ないのが悔やまれる。『おさがり』と社交界で揶揄されがちなわたしにも友人はいるが、決して多くはないのだ。シルヴィアに手紙を出したが、まだ返事はない。
でも、なにも悪いことだけじゃない。
ふとした瞬間にオクトール様のことを考えてしまうので、とにかく頭を働かせていたくて、勉強をする時間が増えた。今ではちょっとした休憩時間やスキマ時間にも勉強をするようになった。
まあ、代わりに睡眠時間がガッツリ減ってしまったのでプラマイゼロな気がしてならないが。
それでも少しは前より知識が身に着いただろうか。長いこと魔法道具に関わってきた彼らと肩を並べるくらい知識を頭に入れるのは、この短期間でやるには難しいことは分かっているのだが、どうしても、気が急いでしまう。
「――お嬢様」
魔法道具に関する本を読んでると、ふと、グレーリアに声をかけられる。今日はもう予定がなかったように思うけれど、何かまだあっただろうか。夕方だから、今から講師が来るとは思えないけど……。
しかし、そうではなかった。
「一度お休みになられませんか」
そう言うグレーリアの表情は、心配そうにわたしを見てくるもので、普段は無表情で淡々と仕事をこなす彼女にしては珍しいな、と思ってしまった。
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