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絶対に気が付かないと思っていたから、予想以上の反応速度に頭の処理が追い付かなくてきょとんとしてしまった。
「……いなくなられると困る」
少し俯きがちに、眼鏡のブリッジを押し上げながらオクトール様が言った。眼鏡越しに見える目はそらされている。
こういう場に慣れていないから、一人にされると心細い、っていうだけなんだろうけど――頬を若干赤くしながら言うな!
いい歳して社交界慣れしていないから一人になりたくない、と言い出すのが恥ずかしいのかもしれないけど! そう顔を赤められると! わたしだって勘違いしてしまうぞ!? さっきのドレスのわたしへの褒めの一件もあるわけだし!
――なんて思っても、今この場で言うわけにもいかないし、表情に出すことすら貴族令嬢らしからぬ行動として駄目な気がする。
「向こうにノルテンブデン氏がいらっしゃったから、声をかけようと思っただけですわ。折角、魔法道具の話で盛り上がっているんですもの」
お嬢様らしく笑ってみせながらわたしは言う。わたしの言葉に賛同したのは、オクトール様ではなく、ロルク氏だった。
「それはいいですなあ! 何、ノルテンブデンはワシが呼んできますよ」
ロルク氏が豪快に笑うと、腹もつられるようにして揺れる。
提案はありがたいが、今この場に不要なのはどうみてもわたしだ。
「大丈夫ですわよ。折角ですから、オクトール様との会話を楽しんでくださいな」
ノルテンブデン氏はそう遠くない場所にいる。声をかけて、呼んで、戻ってきて……十分もかからないだろう。
オクトール様はわたしが思っていた以上にちゃんとできるみたいだし、わたしがいなくたって、十分くらいどうにでもなるはず。……別に拗ねているわけではない。
しかし、ロルク氏は重ねて「いいえ、ベルメ嬢はここにいてください、殿下のためにも」と言われてしまった。
「お二人の仲が良いようで、ワシも安心しました」
まだ婚約が成立したことを証明するパーティーは先なので、婚約への言及はないが、アインアルド王子から婚約破棄されたことは事実。そして、あまり深く考えていなかったが――ロルク氏からしたら、孫娘が侯爵令嬢から男を奪った、という風に見えるのだろう。……あれ、もしかしてこれ、向こうからしたらかなり胃が痛くなるようなことじゃないのか?
自分の孫娘が奪った男の元婚約者が話しかけてくる――ロルク氏からしたらかなり肝が冷えるシチュエーションだろう。わたしが商会長、とでなく、ロルクさん、とでも呼んでいたら、商談だとは気が付かずにひたすら胃が痛い思いをしていたかもしれない。
……ここは彼の胃の為に譲るか。オクトール様のために、と見せかけて、この場を離れたいのかもしれないし。
というか、立場的に、侯爵令嬢と王族と、商人だものな。貴族の孫娘がいると言っても、動くとしたらロルク氏が適任だろう。
「それではお願いしようかしら」
わたしが気まずさにこの場から逃げたいことを優先して、いろいろと気が付かないでいた。反省せねば。
「……いなくなられると困る」
少し俯きがちに、眼鏡のブリッジを押し上げながらオクトール様が言った。眼鏡越しに見える目はそらされている。
こういう場に慣れていないから、一人にされると心細い、っていうだけなんだろうけど――頬を若干赤くしながら言うな!
いい歳して社交界慣れしていないから一人になりたくない、と言い出すのが恥ずかしいのかもしれないけど! そう顔を赤められると! わたしだって勘違いしてしまうぞ!? さっきのドレスのわたしへの褒めの一件もあるわけだし!
――なんて思っても、今この場で言うわけにもいかないし、表情に出すことすら貴族令嬢らしからぬ行動として駄目な気がする。
「向こうにノルテンブデン氏がいらっしゃったから、声をかけようと思っただけですわ。折角、魔法道具の話で盛り上がっているんですもの」
お嬢様らしく笑ってみせながらわたしは言う。わたしの言葉に賛同したのは、オクトール様ではなく、ロルク氏だった。
「それはいいですなあ! 何、ノルテンブデンはワシが呼んできますよ」
ロルク氏が豪快に笑うと、腹もつられるようにして揺れる。
提案はありがたいが、今この場に不要なのはどうみてもわたしだ。
「大丈夫ですわよ。折角ですから、オクトール様との会話を楽しんでくださいな」
ノルテンブデン氏はそう遠くない場所にいる。声をかけて、呼んで、戻ってきて……十分もかからないだろう。
オクトール様はわたしが思っていた以上にちゃんとできるみたいだし、わたしがいなくたって、十分くらいどうにでもなるはず。……別に拗ねているわけではない。
しかし、ロルク氏は重ねて「いいえ、ベルメ嬢はここにいてください、殿下のためにも」と言われてしまった。
「お二人の仲が良いようで、ワシも安心しました」
まだ婚約が成立したことを証明するパーティーは先なので、婚約への言及はないが、アインアルド王子から婚約破棄されたことは事実。そして、あまり深く考えていなかったが――ロルク氏からしたら、孫娘が侯爵令嬢から男を奪った、という風に見えるのだろう。……あれ、もしかしてこれ、向こうからしたらかなり胃が痛くなるようなことじゃないのか?
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……ここは彼の胃の為に譲るか。オクトール様のために、と見せかけて、この場を離れたいのかもしれないし。
というか、立場的に、侯爵令嬢と王族と、商人だものな。貴族の孫娘がいると言っても、動くとしたらロルク氏が適任だろう。
「それではお願いしようかしら」
わたしが気まずさにこの場から逃げたいことを優先して、いろいろと気が付かないでいた。反省せねば。
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