38 / 111
38
しおりを挟む
乾杯が終わり、パーティーが始まれば、本格的に周りが賑やかになる。貴族のみの社交界とはまた雰囲気が違う。
爵位や派閥に影響されて、会話をする相手がおおよそ決まっている貴族とは違って、商人は貪欲に情報やコネを求めていろんな人に声をかけるのだ。
とはいえ、ここに参加する貴族は男爵家か子爵家がほとんど。そこにポンと侯爵家や王族の人間がいれば、流石に声をかけるのはためらわれるらしい。
話しかけたいけど、どう話しかけるか、という視線をあちこちから感じる。
わたしは時折オクトール様と雑談をしながら、シャハルク商会の商会長であるロルク・シャハルク氏と、ノルテンブデン氏を探す。
ノルテンブデン氏はともかく、ロルク氏は東ヶ島の服――つまりは、東洋ファンタジーのような服を普段から着用していると聞いているから、すぐに見つかると思っていたのだが、思ったよりも目立たないようで、なかなか見つけられない。
魔法道具の世界では有名なオクトール様だから、向こうから話しかけてくれないかな、と一瞬思いもしたが、魔法道具作家である以前にオクトール様は王子なのだ。周りの貴族が声をかけていないにも関わらず、平然と声をかけられる平民はそうそういないだろう。いくらコネが欲しい商人たちでも、先陣になるには相当勇気がいるに違いない。
ましてや、社交界になかなか出てこないオクトール様だ。この機会に何としても声をかけたい、と思っていても、人となりについて情報が出回っていない相手に声をかけるのはハードルが高いだろう。せめて他の人の出方を見たいはず。
……これなら、さっきシルヴィアと少し話をしたときに、ロルク氏とノルテンブデン氏を紹介してほしい、と言っておくべきだったな。
このまま誰とも会話をせずパーティーが終わってしまっては、大失敗、とまでは行かずとも成功とは到底言えない。
シルヴィアがわたしとオクトール様の仲がいいと思ってくれた以上、オルゴンド家、もといオルゴンド商会には一瞬で噂が広まるだろうが……一家だけでなく、もう二、三は、少なくとも噂の後押しをしてくれる人が出てきてほしいところだ。
誰か話しかけてきてくれ。もしくはロルク氏かノルテンブデン氏、最低でもシルヴィアを見つけたい。
まだパーティーは始まったばかりではあるものの、思うように人を探せないことに焦っていたわたしの元に、ようやく声をかける人物が現れた。
「あら、ベルメ様じゃないデスか!」
――それは、アインアルド王子の妃の一人、つまりは『シックス・パレット』の攻略ヒロインであるナノハ・シャハルクだったけれど。
黄色の東ヶ島風ドレスがよく似合うナノハは、元より細めの猫目をより細くして、にこっと笑っていた。
爵位や派閥に影響されて、会話をする相手がおおよそ決まっている貴族とは違って、商人は貪欲に情報やコネを求めていろんな人に声をかけるのだ。
とはいえ、ここに参加する貴族は男爵家か子爵家がほとんど。そこにポンと侯爵家や王族の人間がいれば、流石に声をかけるのはためらわれるらしい。
話しかけたいけど、どう話しかけるか、という視線をあちこちから感じる。
わたしは時折オクトール様と雑談をしながら、シャハルク商会の商会長であるロルク・シャハルク氏と、ノルテンブデン氏を探す。
ノルテンブデン氏はともかく、ロルク氏は東ヶ島の服――つまりは、東洋ファンタジーのような服を普段から着用していると聞いているから、すぐに見つかると思っていたのだが、思ったよりも目立たないようで、なかなか見つけられない。
魔法道具の世界では有名なオクトール様だから、向こうから話しかけてくれないかな、と一瞬思いもしたが、魔法道具作家である以前にオクトール様は王子なのだ。周りの貴族が声をかけていないにも関わらず、平然と声をかけられる平民はそうそういないだろう。いくらコネが欲しい商人たちでも、先陣になるには相当勇気がいるに違いない。
ましてや、社交界になかなか出てこないオクトール様だ。この機会に何としても声をかけたい、と思っていても、人となりについて情報が出回っていない相手に声をかけるのはハードルが高いだろう。せめて他の人の出方を見たいはず。
……これなら、さっきシルヴィアと少し話をしたときに、ロルク氏とノルテンブデン氏を紹介してほしい、と言っておくべきだったな。
このまま誰とも会話をせずパーティーが終わってしまっては、大失敗、とまでは行かずとも成功とは到底言えない。
シルヴィアがわたしとオクトール様の仲がいいと思ってくれた以上、オルゴンド家、もといオルゴンド商会には一瞬で噂が広まるだろうが……一家だけでなく、もう二、三は、少なくとも噂の後押しをしてくれる人が出てきてほしいところだ。
誰か話しかけてきてくれ。もしくはロルク氏かノルテンブデン氏、最低でもシルヴィアを見つけたい。
まだパーティーは始まったばかりではあるものの、思うように人を探せないことに焦っていたわたしの元に、ようやく声をかける人物が現れた。
「あら、ベルメ様じゃないデスか!」
――それは、アインアルド王子の妃の一人、つまりは『シックス・パレット』の攻略ヒロインであるナノハ・シャハルクだったけれど。
黄色の東ヶ島風ドレスがよく似合うナノハは、元より細めの猫目をより細くして、にこっと笑っていた。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる