31 / 111
31
しおりを挟む
わたしの言葉に、オクトール様は「その……」と口ごもった。何を言うのか迷っているようで、言葉を探すように目線が泳いでいる。
「ゆっくりでいいですわよ」
どうせ時間はあるのだし、とまでは言わない。嫌味のつもりはないが、勉強時間がなくなったから、という意味合いに変わりはないので、嫌味ったらしくなってしまう。
「君が、僕のことを庇ってくれるのは助かるし、実際、さっきもベルデリーン嬢との間に入ってくれて、すごくありがたかったんだけど、その……庇われっぱなしは、よくないと、思うというか」
眼鏡がないにも関わらず、癖になっているのか、彼の右手が眼鏡のふちを探してうろうろしている。
「本気で王位を目指す以上、このままでは駄目なのは、分かっているんだ」
ちら、とこちらを見た王子と目があう。しかし、すぐに彼の目線は下がってしまった。
「でも――現状、一人でなんとかなるか、と言ったらそんなことはなくて……だから、でも、その……僕の方がフォローしてもらってばかりだから、僕から言うのは変かもしれないけれど、僕を守ることを前提に考えなくてもいい――よくないけど……」
どっちなんだ、とは流石に言わない。みなまで言われなくたって分かる。オクトール様なりの励ましというか、あまり気負わなくていい、という意思表明なんだろう。かといって、完全に突き放されてしまうのは、今のところ困る、という感じか。
「……ちなみに、どのくらい踊れますの?」
「教師に合格を貰うくらい、かな」
となると、最低限は踊れるということか。わたしと同じくらい、と考えていいだろう。ステップを踏むことに集中していれば間違えることはなくて、でも、かといって、周りやパートナーにも意識を配ってフォローするのは難しいくらい。
となれば、やることは一つ。
「二人でダンスの練習もしましょうか!」
ここまでやることを積んでったらもはや、やけくそである。いや、ダンスのときくらいの、密着状態に慣れたら、急な触れあいで挙動不審になることもないだろうから、触れあいに慣れるための行動と兼ねられるとで実質プラマイゼロ。たぶん。
「互いに相手へ気配りが出来ないのであれば、わたしはオクトール様に、オクトール様はわたしとのダンスを、慣れるくらい練習すればいいだけですわ」
自分ができて、相手ができないことはフォローすればいいし、両方ができないのなら、できるまで共に練習すればいい。幸い、次の次に参加する夜会に間に合えばいいので、時間は多少ある。……わたしの勉強時間が大変なことになると思うけど、まあ、なんとかなるはず。友だちはいても、多い方じゃないから、頻繁にお茶会とかするわけじゃないし……。
「共に王位を目指してアインアルド王子を見返してやろうと手を取り合った中ですもの。どこまでも付き合いますし、付き合ってもらいますわよ」
わたしがそう言うと、オクトール様は、未だ不安そうな表情をしながらも、こっちをしっかりと見て、うなずいた。
「ゆっくりでいいですわよ」
どうせ時間はあるのだし、とまでは言わない。嫌味のつもりはないが、勉強時間がなくなったから、という意味合いに変わりはないので、嫌味ったらしくなってしまう。
「君が、僕のことを庇ってくれるのは助かるし、実際、さっきもベルデリーン嬢との間に入ってくれて、すごくありがたかったんだけど、その……庇われっぱなしは、よくないと、思うというか」
眼鏡がないにも関わらず、癖になっているのか、彼の右手が眼鏡のふちを探してうろうろしている。
「本気で王位を目指す以上、このままでは駄目なのは、分かっているんだ」
ちら、とこちらを見た王子と目があう。しかし、すぐに彼の目線は下がってしまった。
「でも――現状、一人でなんとかなるか、と言ったらそんなことはなくて……だから、でも、その……僕の方がフォローしてもらってばかりだから、僕から言うのは変かもしれないけれど、僕を守ることを前提に考えなくてもいい――よくないけど……」
どっちなんだ、とは流石に言わない。みなまで言われなくたって分かる。オクトール様なりの励ましというか、あまり気負わなくていい、という意思表明なんだろう。かといって、完全に突き放されてしまうのは、今のところ困る、という感じか。
「……ちなみに、どのくらい踊れますの?」
「教師に合格を貰うくらい、かな」
となると、最低限は踊れるということか。わたしと同じくらい、と考えていいだろう。ステップを踏むことに集中していれば間違えることはなくて、でも、かといって、周りやパートナーにも意識を配ってフォローするのは難しいくらい。
となれば、やることは一つ。
「二人でダンスの練習もしましょうか!」
ここまでやることを積んでったらもはや、やけくそである。いや、ダンスのときくらいの、密着状態に慣れたら、急な触れあいで挙動不審になることもないだろうから、触れあいに慣れるための行動と兼ねられるとで実質プラマイゼロ。たぶん。
「互いに相手へ気配りが出来ないのであれば、わたしはオクトール様に、オクトール様はわたしとのダンスを、慣れるくらい練習すればいいだけですわ」
自分ができて、相手ができないことはフォローすればいいし、両方ができないのなら、できるまで共に練習すればいい。幸い、次の次に参加する夜会に間に合えばいいので、時間は多少ある。……わたしの勉強時間が大変なことになると思うけど、まあ、なんとかなるはず。友だちはいても、多い方じゃないから、頻繁にお茶会とかするわけじゃないし……。
「共に王位を目指してアインアルド王子を見返してやろうと手を取り合った中ですもの。どこまでも付き合いますし、付き合ってもらいますわよ」
わたしがそう言うと、オクトール様は、未だ不安そうな表情をしながらも、こっちをしっかりと見て、うなずいた。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる