ハーレム系ギャルゲに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

安眠にどね

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「オクトール様、こちらに眼鏡、置いておきますわね」

 わたしは、デスクの上にハンカチを置き、その上に眼鏡を置く。わたしがいつも使わせてもらっている、ソファとセットになっているテーブルとは別の、一人用の小さなソファの傍にあるサイドテーブルの上に。たぶん、ここで読書とかするのだろう。
 随分と距離があるものの、オクトール様から返事が聞こえる。会話は何とか成立するようだ。

「……今日は勉強をやめて、何か会話でもしましょうか」

 前回は向かい合うようにしてソファへ座り、対面で勉強を教えてもらった。しかし、今日のオクトール様はその距離ほど近付くことはできなそうだから。

「ご、ごめん……」

 オクトール様は謝るばかりで、決して大丈夫、とは言わない。まあ、実際大丈夫じゃなさそうだし、勉強を取りやめよう、というのに賛成なんだろう。

 ――さて、しかし。会話をする、と言っても何の話をしようか。
 好きな食べ物とか、そういった類の話は以前のお茶会と言う名の質疑応答会で済ませてしまった。

「ええと……とりあえず、こちらに座らせていただいてもよろしくて?」

 わたしは一人用の小さなソファを見ながら言う。オクトール様からは許可の言葉が返ってきた。
 わたしが座ってしまうと、妙な沈黙ができる。気まずい――が、社交のフォローはすると言った手前、こういうときにどうにかしないと。
 何か話題は――ああ、そうだ。

「オクトール様、ダンスは踊れますの?」

 社交に出ない、という話は知っているが、王族であればダンスの教育は受けているはず。最初に行く夜会はただの立食パーティーだが、二回目の夜会はダンスパーティーである。いわゆる舞踏会。

 ちなみにわたしはダンスは本当に苦手なのである。漫画やドラマなんかでは優雅に主人公とヒロインが会話をしながらダンスをする――なんてシーンもあったけれど、実際やってみると、会話に余裕を割くことができなかった。
 足を踏まないように、余裕がないと悟られないように、つまずかないように、ステップを間違えないように。そうやって頭を稼働させて踊っていれば、おのずと会話をすることなんて出来なくなる。
 前世ではダンスなんて一切してこなかったから、フォローのしようがない。社交に関しては、ある程度の年齢生きていたから、話す際のルールが分かっていればなんとか乗り越えることが可能だ。

「――……踊れなくは、ない」

 オクトール様を見れば、眼鏡のブリッジを上げようとして、空振りしている姿だった。普段眼鏡をかけているとやっちゃうけど……眼鏡を触ろうとした、ということは踊れないってこと……? それとも、ダンスの距離ほど密着するのが苦手ってことなのか? どっちだろう。

「……わたし、あまりダンスが得意じゃありませんの。そちらのフォローは期待しないでくださいまし」

 一応、釘を刺すではないけれど、先に断っておこう……。
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