ハーレム系ギャルゲに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

安眠にどね

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 部屋に入ったオクトール様を見て、わたしはそのまま彼の部屋に入るかためらってしまう。駄目、とは言われていないが、こうして眼鏡がなくなってしまった以上、彼の負担にしかならない気がするのだ。

 同じように、『鎧』があるわたしにはよく分かる。

 いつも、王子に会いに行くときに履いていたお気に入りのハイヒールを靴磨きに出しているタイミングでアインアルド王子が我が家に顔を出し、対応しなくては行けなくなったとき、どれだけ肝が冷えたことか。
 ちゃんと勉強してマナー講座も受け、大丈夫だと言われているのに、いつもの靴じゃないと落ち着かなくて、何か粗相そしてしまうのではと、ひやひやして気が気じゃなかった。

 オクトール様と違い、他人と接したくないわけじゃないから、怖い、という感情はなかったけれど、緊張で死にそうだったのは覚えている。

「――オクトール様、わたし、今日は帰った方がよろしくて?」

 扉が開いたまま、わたしは廊下に立って、オクトール様に問う。眼鏡の予備があるならいいが……でも、お茶会と言う名の質疑応答の際の口ぶりからすると、普段からスペアを用意しているようには思えない。
 オクトール様は、少し考えるように目線を泳がせた後、「……どっちでもいい」と声を絞り出した。

「今日は、一日こんなだと思うけど、君が気にしないなら、いてくれて、いいよ……」

 いいよ、という顔色ではないんだが。「いや、でも……」と、言ったことを後悔しているようなぼやきも聞こえる。
 眼鏡の残骸だけ渡して今日は帰るか、と思っていると、「ほ、本当はっ」と、ボリュームの調整に失敗したらしいオクトール様の大声が聞こえてきた。

「ほ、本当は、眼鏡がなくても話せるようになりたい、から……。つ、付き合って――練習に、付き合ってくれると嬉しい、けど、たぶん、終始こんな感じだから、うっとうしいと思うっていうか……」

「うっとうしいと、誰かに言われたんですの?」

 まあ、確かにちょっと回りくどい言い方だとは思うけれど……面倒くさいと思うほどではない。……今のところ。
 気の長い方じゃないけれど、それを表に出してイライラしているアピールをするほどわたしだって鬼じゃない。

「……うっとうしくない?」

「今のところは問題ありませんわね」

 わたしがそう言うと、オクトール様は少し考え込んで、「……頑張りたい」と呟いた。
 つまりは、今日ここにわたしがいていい、ということか。

「――失礼しますわね」

 わたしはそう言って、オクトール様の部屋に足を踏み入れた。
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