ハーレム系ギャルゲに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

安眠にどね

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 これを言っているのがベルデリーンでなければ、そんな誤魔化し通用するかと言うところだが、ことベルデリーン相手では、嘘だと言い切れないのが怖いところである。

 ベルデリーンの背の高さでは、ヒールを履いているなら勢い余ったポニーテールがオクトール様の顔に届いてもおかしくないし、ゲーム原作の時間軸でエンディング間際までドレスやハイヒールを着用する機会が少ないので、ハイヒールを履いてバランスを崩す、というのもあり得ない話じゃない。

 ベルデリーンルートを担当したわたしだから分かる。嘘じゃなくて、本当のことを言っているのだ、と。
 明るくて、純粋で、王族や貴族のしがらみに囚われない元平民。それが彼女の魅力であり、そうあるようにわたしが書いてきた。
 裏表のある性格じゃないし、貴族らしく嘘がつける子でもない。

「……とりあえず、出直して来たらどうかしら。今日、わたしはこの後オクトール様と予定があるの」

「えっ、あっ、そうだったの? ええと……眼鏡、弁償しますから!」

 ごめんなさい! と勢いよく頭を下げるベルデリーン。ひゅ、と、彼女のポニーテールが鞭のように動いた。危ない。
 これは彼女の言っていたことは事実なんだろうな、と思いながらベルデリーンが立ち去っていく背中を見る。
 完全にその姿が見えなくなったのを確認して、わたしはオクトール様に近付いた。

「オクトール様、彼女はもう行きましたわ。代えの眼鏡はありますの?」

「な、ない……っ」

 なんでないんだ。という言葉は飲み込む。眼鏡がなくて、他人が怖い性格が前面に出ている彼を、今責めるのは追い打ちでしかない。
 しかしまあ、眼鏡がないとこうなってしまうのならば、予備くらい持ち歩いていてもおかしくないと思うんだけど……。

「とりあえず、お部屋まで戻りましょうか。歩けます?」

 あの眼鏡が伊達なのか、度がちゃんと入っている物なのかは分からない。ただ、どちらにしろ、今にも卒倒しそうなオクトール様は、一人で歩くのは心もとなさそうな感じがしたのだ。
 かといって、わたしが手を貸してもいいんだろうか? ちょっと刺激したらそのままぶっ倒れそうな気がしてはらはらする。
 真っ青な顔でオクトール様は小さくうなずく。不幸中の幸いなのは、オクトール様の私室が近い、ということだろうか。

 わたしは一応、眼鏡の残骸を全て拾っておく。レンズの部分はヒビが入っているものの、砕けてはいない。フレームがすごくひしゃげているが。
 直すのか新しいものを用意するのかは知らないが、廊下に放置しておくわけにはいかないので、拾った方がいいだろう。使用人を呼ぶべきところなのだろうが、これ以上人が増えてオクトール様の負担になるのは本位ではない。
 ふらふらとおぼつかない足取りで、しかし妙に早いペースで部屋に向かうオクトール様の後を、わたしは追った。
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