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 誰かにバレてはいけない、という話をうさぎ耳のメイドに言ったわけではないけれど、昔のシオンハイトがお忍びとしてこの屋敷にきていたからか、今回もお忍びだと思ってくれたようで、彼女はひっそりと、客間に案内してくれた。
 誰にもばれないように案内された客間は、妙な懐かしさがあった。ずっと昔に来たことがあったっきり、もう何年も来ていなかったから、懐かしいような、初めて来る場所のように感じるような、不思議な感覚だ。

 メイドに案内されて、しばらく待っていると、一人の女性が現れた。
 ――実母だ。
 もう随分と会っていなかった彼女は、記憶にあった頃よりも、ずっと老けていた。わたしが成長し、大きくなったからか、それとも、彼女がそういう年齢になってしまったのか、昔よりもずっと小さくなっているように感じた。

「――……ラペル、ラティア……」

 わたしの顔を見て、一瞬でラペルラティアであると気が付いたのか、少し泣きそうな顔をしている。
 わたしの顔を見て、泣きそうな表情をして――シオンハイトと、わたしの髪色と瞳の色を見たのか、どこかさみしそうな顔に変わった。

「全部、思い出してしまったのね」

 わたしの『異能』が色を変えられるようになっていて、しかも隣にはシオンハイト。わたしの『異能』については、察するものがあったらしい。
 ――しかし、全部、かと言われると自身がない。シオンハイトと記憶の擦り合わせは済んでいるものの、シオンハイトのいなかったときのことは確認のしようがないし、なにより、わたしの記憶をいじった人のことは思い出せないでいる。

「ラペルラティア、貴女が再びここに戻ってくるとは思っていなかったわ」

 ……わたしだって、シオンハイトと再会することも、記憶を取り戻すことも、ましてや、こうして戦争の原因を突き止め、終戦に向けて危険を顧みず行動するとは、少し前のわたしからは想像もつかなかった。
 必死に探した婚約相手であるシディール様と結婚し、子供をもうけるものだと思っていたし、婚約破棄されてシオンハイトのところに来たばかりの頃は、もう、全て終わりだとばかり、思っていた。

「――マ……。……。――再会の思い出話は後にしましょう。今日は、……貴女に、頼みがあるんです」

 ママ、と呼びそうになって、わたしは一度、口をつぐんだ。いい歳してママは流石に恥ずかしいし、長年会ってこなかった相手をママと呼ぶのは、なんだか抵抗があった。
 実母も、それを察してくれたのか、曖昧に笑っている。

「……。王女様に、取り次いで欲しいんです」

 わたしの言葉を分かっていたかのように、彼女は、二つ返事で了承してくれた。
 実母も、なんとなく、戦争の原因である『獣人奴隷』の真実に気がついていたのだろうか。
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