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わたしたちが見つけないといけないのは、イルシオンという国があることの証明、そして、そのイルシオンが奴隷売買を違法に行っていること、それにリンゼガッドとオアセマーレの両国が関わっていること、その証拠だ。
イルシオンという国が本当にあるのならば、その証明自体はそこまで難しくないはず。港で聞いた言葉は、聞き覚えのない言葉だった。この世界は、基本的に言語は共通だ。種族によって、細かい部分に差異がある程度。
それなのに、全く分からない言語、というのは、明らかに世界の輪から外れているということだ。
出版物の一つや二つをかっぱらうことができれば、架空の国ではない、ということが簡単に証明できる。言語が同じ種族の、別の国の存在を証明しようとしても、自国でその証拠をまかなったのでは、と疑われてしまうが、その心配はない。
ここが奴隷売買の本拠地だというのなら、商品リストや出荷先のリストがどこかにあるはず。島自体を『異能』の力で隠しているのであれば、意外と管理がずさんなことが期待できる。
リストや顧客情報は非情に重要な情報なはずだから、厳重な管理の下にある可能性もあるにはあるが、この島自体が隠蔽されているなら、と管理が甘くなる可能性も十分にある。
探すものが多いので、二手に別れた方が効率はいいかもしれないが、危険すぎるので、提案するのはやめておく。
シオンハイトは耳がいいから、足音をいち早く聞くことができるだろうし、扉の向こう側に誰がいるか確認することも可能なはず。
わたしが脳内で探すものの整理をしていると――。
「ティア」
偽名を呼ばれて振り返ると、シオンハイトが拘束を抜けて立っていた。……えっ、拘束ってそこまで簡単にほどけるものなの?
一応、イルシオンについたら、様子を見て拘束をほどき、行動しよう、とは聞いていたけれど……。
わたしがびっくりしている合間にも、シオンハイトはするするとわたしの拘束をほどいていく。
「こういうのはコツがあるんだよ」
わたしが言いたいことを察したのか、シオンハイトがそう教えてくれた。騎士団って言うのは、そういう訓練までするのか……。
あっという間にわたしの手足は自由になる。手首についた縄の跡を、シオンハイトがなぞった。
「……痛くない?」
心配そうな声音。実際はそこまで痛くはない。こんなに赤くなっているとは全然思わなかったくらいだ。
「大丈夫だから、今、外に人がいないなら行っちゃおう」
わたしの言葉に、シオンハイトは今だ心配そうな顔をしつつも、扉に耳をつけ、外の様子をうかがっている。ぴくぴくと彼の獣の耳が小さく動く。
「……うん、大丈夫」
そう言いながら、シオンハイトがゆっくりと扉を少しあけ、廊下を確認し、サッと出た。
証拠探しの始まりである。
イルシオンという国が本当にあるのならば、その証明自体はそこまで難しくないはず。港で聞いた言葉は、聞き覚えのない言葉だった。この世界は、基本的に言語は共通だ。種族によって、細かい部分に差異がある程度。
それなのに、全く分からない言語、というのは、明らかに世界の輪から外れているということだ。
出版物の一つや二つをかっぱらうことができれば、架空の国ではない、ということが簡単に証明できる。言語が同じ種族の、別の国の存在を証明しようとしても、自国でその証拠をまかなったのでは、と疑われてしまうが、その心配はない。
ここが奴隷売買の本拠地だというのなら、商品リストや出荷先のリストがどこかにあるはず。島自体を『異能』の力で隠しているのであれば、意外と管理がずさんなことが期待できる。
リストや顧客情報は非情に重要な情報なはずだから、厳重な管理の下にある可能性もあるにはあるが、この島自体が隠蔽されているなら、と管理が甘くなる可能性も十分にある。
探すものが多いので、二手に別れた方が効率はいいかもしれないが、危険すぎるので、提案するのはやめておく。
シオンハイトは耳がいいから、足音をいち早く聞くことができるだろうし、扉の向こう側に誰がいるか確認することも可能なはず。
わたしが脳内で探すものの整理をしていると――。
「ティア」
偽名を呼ばれて振り返ると、シオンハイトが拘束を抜けて立っていた。……えっ、拘束ってそこまで簡単にほどけるものなの?
一応、イルシオンについたら、様子を見て拘束をほどき、行動しよう、とは聞いていたけれど……。
わたしがびっくりしている合間にも、シオンハイトはするするとわたしの拘束をほどいていく。
「こういうのはコツがあるんだよ」
わたしが言いたいことを察したのか、シオンハイトがそう教えてくれた。騎士団って言うのは、そういう訓練までするのか……。
あっという間にわたしの手足は自由になる。手首についた縄の跡を、シオンハイトがなぞった。
「……痛くない?」
心配そうな声音。実際はそこまで痛くはない。こんなに赤くなっているとは全然思わなかったくらいだ。
「大丈夫だから、今、外に人がいないなら行っちゃおう」
わたしの言葉に、シオンハイトは今だ心配そうな顔をしつつも、扉に耳をつけ、外の様子をうかがっている。ぴくぴくと彼の獣の耳が小さく動く。
「……うん、大丈夫」
そう言いながら、シオンハイトがゆっくりと扉を少しあけ、廊下を確認し、サッと出た。
証拠探しの始まりである。
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