85 / 114
85
しおりを挟む
王城から抜け出し、城下町に出て人ごみに出られるところまでは成功した。……成功した、のだが。
近くに出た場所が場所だった。
飲み屋街に出たようなのだが、居酒屋が並ぶお店、とかではなく、明らかに綺麗なお姉さんと一緒に酒を楽しむような店ばかりが続くのである。別に、その手のものが苦手、というわけではないけれど、妙に露出の高い服のお姉さんばかりが店先にいると、目のやり場に困る。
しかも、夜中、という、おそらくこの手の店の、一番の稼ぎ時の時間帯だからか、妙な活気があって気まずい。
わたしたちの立てた作戦――イルシオンの者が、それぞれの国から国民を攫っているのなら、別人になりすまして、実際に自ら誘拐されよう、というものを考えると、こういう、治安が悪そうなところに出るしかないのは分かっているのだが。
ここは、国の中でも結構その手の店が多くあまり治安がよくない場所で、かつ、港までの大通りが複雑でなく、馬車も速度を出しやすい割に、小道は結構入り組んでいて土地勘がなければ簡単に迷う、と、人さらいをするのならばうってつけ、という場所らしいのだ。
もちろん、これで上手く行かなかった場合の手も考えてあるが。
わたしの記憶が正しければ、子供の頃にあの家で見た、奴隷として保護されていた獣人は、多くが子供。次いで女性が多く、男の人はあまりいない。わたしはともかく、シオンハイトと一緒だと、攫われにくいかもしれない。かといって、わたし一人にしてくれるわけではないのだが。
そういう、攫われるためにこの場所を選んだと分かってはいるが、それでも気まずいものは気まずい。
わたしは、シオンハイトから離れまいと、彼の手をしっかり握って、少しばかり彼に近寄った。すると、わたしの手首にシオンハイトのしっぽが絡む。
「大丈夫だよ。ちゃんと守るから」
……そういう怖さではないんだけどな。
わたしは気まずさを紛らわせるために、「結構賑やかなんだね」と話題をそらした。
実際、かなり賑やかではある。つい最近まで戦争をしていた、とは思えないほどだ。
……でも、これも、またすぐ曇ってしまうのかと思うと、その前になんとかしないと、という気持ちになる。
「……ねえ、ティア。向こうには、人探しを得意とする人もいるの?」
会話を聞かれていることを考慮して、わたしの呼び名はティアに変わった。ララ、の時点で既に愛称であり、正しい名前ではないのだが、シオンハイトが普段からララと呼んでいるので、こうなった。ちなみにシオンハイトはハイトから取ってハイドである。
向こう、は、オアセマーレ、得意とする、というのはそういう系統の『異能』ということだろう。勿論いる。
わたしが「いるよ」とうなずくと、「それなら、もし、全部上手くいったら、頼めないかな。……皆のために」と彼は言った。
奴隷とするために攫われた人の家族を探すのか。可能か不可能かで言えば、可能なはず。……次の終戦交渉が上手くいけば、その力を貸してもらうことも可能だろう。そもそも、次がいつになるのか分からないが。
そんな話をしていると、ふいに、シオンハイトの耳がくるっと動いた。
近くに出た場所が場所だった。
飲み屋街に出たようなのだが、居酒屋が並ぶお店、とかではなく、明らかに綺麗なお姉さんと一緒に酒を楽しむような店ばかりが続くのである。別に、その手のものが苦手、というわけではないけれど、妙に露出の高い服のお姉さんばかりが店先にいると、目のやり場に困る。
しかも、夜中、という、おそらくこの手の店の、一番の稼ぎ時の時間帯だからか、妙な活気があって気まずい。
わたしたちの立てた作戦――イルシオンの者が、それぞれの国から国民を攫っているのなら、別人になりすまして、実際に自ら誘拐されよう、というものを考えると、こういう、治安が悪そうなところに出るしかないのは分かっているのだが。
ここは、国の中でも結構その手の店が多くあまり治安がよくない場所で、かつ、港までの大通りが複雑でなく、馬車も速度を出しやすい割に、小道は結構入り組んでいて土地勘がなければ簡単に迷う、と、人さらいをするのならばうってつけ、という場所らしいのだ。
もちろん、これで上手く行かなかった場合の手も考えてあるが。
わたしの記憶が正しければ、子供の頃にあの家で見た、奴隷として保護されていた獣人は、多くが子供。次いで女性が多く、男の人はあまりいない。わたしはともかく、シオンハイトと一緒だと、攫われにくいかもしれない。かといって、わたし一人にしてくれるわけではないのだが。
そういう、攫われるためにこの場所を選んだと分かってはいるが、それでも気まずいものは気まずい。
わたしは、シオンハイトから離れまいと、彼の手をしっかり握って、少しばかり彼に近寄った。すると、わたしの手首にシオンハイトのしっぽが絡む。
「大丈夫だよ。ちゃんと守るから」
……そういう怖さではないんだけどな。
わたしは気まずさを紛らわせるために、「結構賑やかなんだね」と話題をそらした。
実際、かなり賑やかではある。つい最近まで戦争をしていた、とは思えないほどだ。
……でも、これも、またすぐ曇ってしまうのかと思うと、その前になんとかしないと、という気持ちになる。
「……ねえ、ティア。向こうには、人探しを得意とする人もいるの?」
会話を聞かれていることを考慮して、わたしの呼び名はティアに変わった。ララ、の時点で既に愛称であり、正しい名前ではないのだが、シオンハイトが普段からララと呼んでいるので、こうなった。ちなみにシオンハイトはハイトから取ってハイドである。
向こう、は、オアセマーレ、得意とする、というのはそういう系統の『異能』ということだろう。勿論いる。
わたしが「いるよ」とうなずくと、「それなら、もし、全部上手くいったら、頼めないかな。……皆のために」と彼は言った。
奴隷とするために攫われた人の家族を探すのか。可能か不可能かで言えば、可能なはず。……次の終戦交渉が上手くいけば、その力を貸してもらうことも可能だろう。そもそも、次がいつになるのか分からないが。
そんな話をしていると、ふいに、シオンハイトの耳がくるっと動いた。
0
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話
近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」
乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。
本編完結!番外編も完結しました!
●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ!
●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります!
※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。
虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される
朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。
クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。
そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。
父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。
縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。
しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。
実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。
クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。
「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
【完結】乙女ゲームのモブに転生、男装薬師になって虚弱な推しキャラを健康体(マッチョ)にします~恋愛? 溺愛? 解釈違いです~
禅
恋愛
王家専属の薬師の家に生まれたレイラには、病弱で早死にした前世の記憶があった。
強く覚えていることは唯一の友だちだった少年と遊んだ乙女ゲーム。
そのゲームのモブキャラに転生したレイラは、虚弱である推しキャラ、リクハルドに長生きしてもらうため健康体(マッチョ)にしようと計画する。
だが、推しはゲームの設定になかった女嫌いのため近づくこともできず。この状況を打開するため、レイラは男になる決心をする。
一方、リクハルドも前世の記憶があった。自分の趣味を笑わず、一緒に遊んでくれた病弱な少女。その少女にエンディングを見せることができなかった。
心残りとなった世界に転生。しかも虚弱な攻略キャラ。
攻略されたくないリクハルドは不摂生と不健康を貫き、自身の魅力を徹底的に落とした。
レイラ「健康体(マッチョ)になってください!」
リクハルド「断る!」
この二人、お互いが前世の友人であったと気づく日は来るのか――――――――
※小説家になろう、魔法のiランドにも投稿
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
【完結】転生令嬢は推しキャラのために…!!
森ノ宮 明
恋愛
その日、貧乏子爵令嬢のセルディ(十二歳)は不思議な夢を見た。
人が殺される、悲しい悲しい物語。
その物語を映す不思議な絵を前に、涙する女性。
――もし、自分がこの世界に存在出来るのなら、こんな結末には絶対させない!!
そしてセルディは、夢で殺された男と出会う。
推しキャラと出会った事で、前世の記憶を垣間見たセルディは、自身の領地が戦火に巻き込まれる可能性があること、推しキャラがその戦いで死んでしまう事に気づいた。
動揺するセルディを前に、陛下に爵位を返上しようとする父。
セルディは思わず声を出した。
「私が領地を立て直します!!」
こうしてセルディは、推しキャラを助けるために、領地開拓から始めることにした。
※※※
ストーリー重視なので、恋愛要素は王都編まで薄いです
推しキャラは~は、ヒーロー側の話(重複は基本しません)
※マークのある場所は主人公が少し乱暴されるシーンがあります
苦手な方は嫌な予感がしたら読み飛ばして下さい
○小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました
白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。
「会いたかったーー……!」
一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。
【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる