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「――それで、わたしに何をしろと言うのです?」

 わたしはスカートの裾を握りしめながら言った。緊張で、喉が乾く。
 他人の言葉を信じ、自分から動くのは、酷く久しいことだった。
 目を瞬かせる彼女に、早く言ってくれ、と、強く願った。というか、なんなら口から出てしまいそうだった。
 わたしが、やっぱりなんでもない、なんて、弱音を言ってしまう前に、話を進めてほしい。
 わたしのその願いが届いたのか、それとも彼女の驚きが終わったのか、王女様は口を開いた。

「アデルかフィア、どちらかを連れてリンゼガッドへ行ってくれ」

 先ほどの、双子間で交信を行うことが出来る『異能』を持った姉妹のことらしい。アデルが姉で、フィアが妹。わたしの方についてきてくれたメイドは妹のようだったから、フィアということになる。

「彼女たちは、どれだけ離れていても意思疎通を計ることができる。君が再びオアセマーレに来るかは分からないし、安全にやりとりをできるか分からないからな。その点、あの双子には、安全なやりとりが期待できる」

 それは確かに。
 今回はたまたまそういうチャンスがあっただけで、本来なら戻ってくることは叶わなかっただろう。たとえわたしがシディール様と結婚していたとしても、生家に戻ることはそうそうない。

 交通網がそう発展しているわけではないし、前世の記憶と比べると、結婚観は古いものだ。よほどのことがない限り、嫁ぐのであれば生家を捨てるとの同義、一度嫁いだら一生そこにいなければならない、という具合に。
 だからこそ、低リスクで通信できるというのは、この状況に必要な『異能』と言えるだろう。

「そして、まず、リンゼガッドでイルシオンがどういう扱いになっているのか、調べてほしい。同時に、怪しい人物のピックアップもしてもらえると助かる。……だが、無理はしなくていい。追い詰めるのは、次代の女王たる私の務めだ」

 イルシオンのことを調べるのはそう難しくないはず。つい先日シオンハイトに案内してもらった彼の図書室に、地図くらいはあるだろうから。
 ただ、怪しい人物を調べることに関しては、簡単にいくとは思えない。なにせ、わたしのリンゼガッドでの行動範囲はかなり狭いから。

 ――……騎士団の書類とか、見せてもらえないかな。流石に無理か? わたしが入ることができたからには、そこまで警戒しているようにも思えないけど。
 本当に漏れたらまずい機密情報があったら、いくらシオンハイトがいいと言ったからといって、オアセマーレの人間であるわたしを、執務室に入れるわけがない。

 そう考えると、書類は見れても、そこから得られる情報は少なそうだが――。

「行動できる範囲が狭いので、怪しい人物を突き止めることに関しては、難しいかもしれません。ただ、イルシオンの扱いに関しては、なんとかなるはずです」

 わたしの言葉に、王女様は、「よろしく頼む」と言った。
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