62 / 114
62
しおりを挟む
「えっ――えっ?」
思ってもみないくらい軽い口調でシオンハイトが言うものだから、二度も聞きなおしてしまった。
そんなにあっさり行けるものなの? わたし、こっちに来るときに二度とオアセマーレの土地を踏めないと思って覚悟してきたんだけど?
「ララの家には行けるか分からないけどね。今度、兄上――一番上の、王太子であるティグルフ兄上がオアセマーレに行くことになってて、その護衛として、僕がついていかなきゃならないの」
ティグルフ、とは聞いたことのない名前だ。わたしをシオンハイトとの部屋から無理やり連れ出したあの男の名前とは違う気がする。ちゃんと名乗られたわけじゃないし、名乗られたとしても覚えてない可能性のが高いと思うけど、それでもなんか違う、というのは分かる。
「ビードレッド兄上が問題を起こしたから。臣下に下る王子のための、この館は、許可なく自分の使用人を他の階に送り出したり、使用人の買収をするのは禁じられてるんだ。だから、順番で言えばビードレッド兄上が護衛のはずなんだけど、今謹慎中だから、僕に仕事が回ってきたの」
ビードレッド。なるほど、言われてみれば、あの男はそんな名前だった気がする。
暗殺や揉め事を防止するために、この館にはいろいろと取り決めがあって、その一つが使用人を、階段等決められた場所以外に向かわせることを禁じているのがその一つなのだと、シオンハイトは説明してくれた。
それを破ってしまった彼は謹慎処分、加担した使用人はクビらしい。
結構重いな、と一瞬思ったけれど、冷静に考えたら相当ヤバいことをしているわけで。わたしは敵国から来た人間だから、根底に恨みがあるとしても、弟の嫁を殴らせるって、別に王族じゃなくてもなかなかの事件である。
ただ、あんな風にされたからか、あの男が大人しく謹慎しているイメージがつかなかい。何かされるのでは、という不安はあるけれど……オアセマーレに行ってしまえば、逆に安全なのだろうか? 分からない……。
わたし自身は別に社交界であぶれていたということはないけれど、それなりの立場である養母にそれはもう嫌われているので、安全か、と言われると微妙なところ。
でも、そうなってしまうとわたしに安心していられる場所なんて限られている。
「ララも一応、僕について来られるよ。和平のための結婚だもの。ララがちゃんと生活できているということをアピールするため、とでも言えば駄目だとは言われないよ。というか、ビードレッド兄上もディナーシャを連れていく、と言っていたしね」
それならわたしも行って平気なのかな。
少し迷いはしたけれど、一度、原因を探るためにもオアセマーレには行きたいところなのだ。
わたしはシオンハイトの提案を受け入れることにした。
思ってもみないくらい軽い口調でシオンハイトが言うものだから、二度も聞きなおしてしまった。
そんなにあっさり行けるものなの? わたし、こっちに来るときに二度とオアセマーレの土地を踏めないと思って覚悟してきたんだけど?
「ララの家には行けるか分からないけどね。今度、兄上――一番上の、王太子であるティグルフ兄上がオアセマーレに行くことになってて、その護衛として、僕がついていかなきゃならないの」
ティグルフ、とは聞いたことのない名前だ。わたしをシオンハイトとの部屋から無理やり連れ出したあの男の名前とは違う気がする。ちゃんと名乗られたわけじゃないし、名乗られたとしても覚えてない可能性のが高いと思うけど、それでもなんか違う、というのは分かる。
「ビードレッド兄上が問題を起こしたから。臣下に下る王子のための、この館は、許可なく自分の使用人を他の階に送り出したり、使用人の買収をするのは禁じられてるんだ。だから、順番で言えばビードレッド兄上が護衛のはずなんだけど、今謹慎中だから、僕に仕事が回ってきたの」
ビードレッド。なるほど、言われてみれば、あの男はそんな名前だった気がする。
暗殺や揉め事を防止するために、この館にはいろいろと取り決めがあって、その一つが使用人を、階段等決められた場所以外に向かわせることを禁じているのがその一つなのだと、シオンハイトは説明してくれた。
それを破ってしまった彼は謹慎処分、加担した使用人はクビらしい。
結構重いな、と一瞬思ったけれど、冷静に考えたら相当ヤバいことをしているわけで。わたしは敵国から来た人間だから、根底に恨みがあるとしても、弟の嫁を殴らせるって、別に王族じゃなくてもなかなかの事件である。
ただ、あんな風にされたからか、あの男が大人しく謹慎しているイメージがつかなかい。何かされるのでは、という不安はあるけれど……オアセマーレに行ってしまえば、逆に安全なのだろうか? 分からない……。
わたし自身は別に社交界であぶれていたということはないけれど、それなりの立場である養母にそれはもう嫌われているので、安全か、と言われると微妙なところ。
でも、そうなってしまうとわたしに安心していられる場所なんて限られている。
「ララも一応、僕について来られるよ。和平のための結婚だもの。ララがちゃんと生活できているということをアピールするため、とでも言えば駄目だとは言われないよ。というか、ビードレッド兄上もディナーシャを連れていく、と言っていたしね」
それならわたしも行って平気なのかな。
少し迷いはしたけれど、一度、原因を探るためにもオアセマーレには行きたいところなのだ。
わたしはシオンハイトの提案を受け入れることにした。
1
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる