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 ――その日の夜。先にお風呂から上がって、一人ベッドに寝ころんでいたわたしは、昼間のことを思い出していた。

 大切な人を殺した国が憎い。
 そう思ってしまうのは当たり前のことだ。

 わたしたちの世代で完全に手を取り合って仲良くなる、というのは相当ハードルが高いように思う。
 それでも、せめて停戦ではなく終戦にまで持っていきたい。二度と戦争をしないと条約を結ばせたい。

 そうでなければ、わたしは、二人で戦争を止めて仲良くしようと誓いあった約束を忘れた自分が許せない。

 それに、わたしがこの『記憶』を消された、ということは、おそらく、シオンハイトに会わせていてくれたあの家がなくなったということだ。事実確認はしておかないといけないが、わたしの想像はそう遠いものではないだろう。なら、あの家で保護されていた、攫われてしまった獣人たちは……。

 ――……そもそも、この戦争の原因って、なんなんだろうか。

 教育、というのは、する側の都合によって歪められることができるから、リンゼガッドの教育とオアセマーレの教育、どちらがより事実に近いのかは分からないが、わたしはリンゼガッドからしかけた戦争だと教わった。
 でも、わたしがこちらに来たばかりのとき、たぬき寝入りをして聞いた、シオンハイトと彼の兄の話を聞く限りでは、リンゼガッド側ではオアセマーレの方から戦争を仕掛けた、と教わっている。

 どっちが先に仕掛けたかはこの際置いておくとして――火種は何なのだろうか。
 土地や資源問題かと言われると、微妙なところ。確かにオアセマーレよりもリンゼガッドの方が何倍も広くはあるものの、凛ゼガッドの土地を奪ったところでオアセマーレにメリットはあまりない。
 なにせこちらは『異能』が存在するのだから。

 変な話、食糧問題も水資源も大抵、『異能』でどうにかできてしまう。植物の成長スピードを早める『異能』や、有毒か無毒か調べて食べられるものか判断する『異能』、水から有害物質を取り除く『異能』に、単純に水を綺麗に浄水する『異能』も存在する。

 『異能』の力が強すぎて、文明が発展しにくいというくらい、オアセマーレの『異能』は万能なのだ。
 戦争に便乗して獣人を攫って奴隷にする活動があったから、人材が欲しいのか? でも、どちらかというと、この世界の人間は『異能』を持てない獣人を見下しがちだし、何より、言い方は悪いが『異能』ありきの文化なので、金銭的な問題はともかくとして、『異能』なしで働かせるには効率が悪い。

 でも、逆にリンゼガッドにもメリットはないんだよな。

 それこそ、土地はオアセマーレより広いし、使い勝手のいい港や資源が豊富な山がオアセマーレリンゼガッドにない、というわけではないし、確かに『異能』持ちは少ないかもしれないけど、その分、文明が発展している。『異能』で病気や怪我を治すしかないオアセマーレと違って、医療が発展しているから医者と薬で大抵の病気を治せてしまうし、ライフラインだってそう。オアセマーレと違って下水道完備だし、風呂も薪で沸かすわけじゃない。通信機器だって、電話やメールくらいなら近しいものが存在している。

 ……真面目にこの両国、なんで戦争なんかしてるんだ?
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