婚約破棄された侯爵令嬢は、元敵国の人質になったかと思ったら、獣人騎士に溺愛されているようです

安眠にどね

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「――好き」

 シオンハイトが、まっすぐわたしを見ながら言った。

「ずっと、好きだって、言いたかった。思い出したなら――好きって言っても、信じてくれるよね?」

「……うん」

 わたしの返事を聞いて、シオンハイトが顔を近付けてくる。あ、キスされるかも、と思った瞬間、わたしは反射的に彼の口を塞いでいた。
 拒まれるとは思っていなかったのか、シオンハイトが目を見開く。

「――……ララ?」

 彼のささやくような声が、手のひらに響いてくすぐったい。

「……僕のこと、忘れた間に、他に好きな人でもできたの?」

 わたしの手を、無理やり引きはがすようなことはしない。それでも、わたしの手首に彼の手が添えられる。

「――違う。違うの」

 このまま、彼のことを受け入れるなんて――そんな、わたしに都合のいいこと、できなかった。

「だって、わたし、全部忘れてたんだよ」

 シオンハイトとの過去も、大切な約束も。全部忘れて、死ぬのが怖いから国から出たくないと、必死になって婚約者を探して。シオンハイトはずっと待っていたのに、わたしは正反対の行動ばかりしていた。
 『異能』で忘れさせられていたのは事実。わたしがなんとなく、幼少期の思い出にして忘れてしまったわけではないけど――それでも、わたしはシオンハイトを突っぱねて、拒絶したのも、事実。

「……僕の他に婚約者を探したっていうのは気に食わないけど。でも、『異能』で忘れさせられてたなら仕方ないよ。……えっ、その婚約者とキスとかしてないよね?」

「してない!」

 シディール様とはそういう関係じゃない。いや、婚約関係にはあったんだけど。でも、冷めきった利害だけの関係だけじゃないかわりに、熱い恋愛関係も全くなかった。友人――いや、よき仕事仲間、というのが一番しっくりくるかもしれない。わたしとシディール様の関係を現すのは。

「……ずっと待ってたのに。またこうして会えて、ララと結婚できたのに。ララは全部思い出したのに。まだ待たないといけないの?」

「うっ……」

 そう言われてしまうとわたしは弱い。

「全部気にしない、っていうのは嘘だけど。それでも、そんなことより、ララとキスしたい」

 泣きはらした目で、そう言われてしまうと、わたしはもう、反論ができなかった。

「……罪滅ぼしがしたいなら、ララから――ラペルラティアからキスして」

 ささやくようなシオンハイトの声。そして、彼は目をつむった。意地でも動かないし、諦めないらしい。
 ――……わたしは、彼の頬に両手を添えて、えい、とばかりに唇を押し付けた。
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