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 ――口にしてから、決定的な失言だったと、わたしは気が付いた。
 今まで、わたしがシオンハイトを突き放すようなことを言っても、めげないか、多少ひるんでも困ったように笑うだけだったのに。

 シオンハイトは、今にも泣きそうな顔をしていた。

 さすがのわたしでも、言ってはいけないことだったのだと、彼を傷つけてしまったのだと分かる。
 それでも、一度口にした言葉は撤回できない。――わたしが、本当に思っていることなら、なおのこと。
 そして、謝ったところで、さっきの発現をより協調してしまうような気がして、わたしは言葉に詰まってしまった。彼にかける言葉を探して、目線が泳ぐ。そんなものはないと気が付いて、わたしは唇を噛んだ。

 どうしてシオンハイトがわたしによくしてくれるのか。おそらくは『異能』で消されたその記憶を、わたし自身が思い出さないと意味がない。
 シオンハイトが真実を話したところで、今のわたしが、本当の意味でそのことを信じられる自信が、わたしにはない。そして、それを悟られたら、今度こそ、シオンハイトを再起不能にまで傷つけてしまう予感があった。

 人を信じて、信じてもらうというのは、こんなにも難しいことだったか。前世のわたしが、どうやって他人を信用していたのか、思い出せない。

 ――コンコンコン。

 扉が叩かれる音に、わたしの肩が、大げさな程跳ねたのが自分でも分かる。驚きと、間抜けなくらいびっくりしてしまった恥ずかしさに、心臓がバクバクなった。
 扉をノックした相手は、「氷嚢をお持ちしました」と声をかけてくる。……わたしのことを呼ばないし、無理に部屋から引きずり出すこともない。さっきのメイドとは違う声。いくら使用人の顔と声を覚えていないとはいえ、さっきの人と違うことくらい分かる。

 シオンハイトが立ち上がる。ソファに座るわたしの怪我を見ようと、膝をついて、目線を合わせてくれていたのだ。……わたしは、それをつっぱねたけど。
 扉の方に向かい、使用人から氷嚢を受け取るシオンハイトの姿を、つい、目で追ってしまった。
 表情は固いままだが、さっきまでの泣きそうな顔はすっかり隠れてしまった。……それでも、しっぽが力なく下がっているので、たぶん、メンタルはそんなに回復していない。

 ――わたしは、何を忘れてしまったんだろう。一体、何を――……。

 ――……もしかして、あの絵。誰かにあげたものを、その誰かがシオンハイトに譲ったのではなくて、シオンハイトに直接あげたのだろうか。

 あの絵は、両国が戦争しているときに描いたもので、停戦になってこっちに来るよりずっと前に手放したはずの絵。自信はないけれど、もうずっと『異能』で絵は描いていないし、あげるために描いた絵はすぐに渡してしまうので、わたしの手元には残らない。
 もしかして、絵をあげるくらい、昔のシオンハイトとわたしは交流があったんじゃ――。

「――ぐ、っ、いッ」

 さっき殴られたときとは比べ物にならないくらい、わたしの頭に激痛が走った。頭が割れるくらい、痛い。一度――前世で命を落としたときにすら、感じたことのないような痛み。

 わたしは一瞬にして、意識を手放した。
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