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 ――さて、どう逃げよう。

 このままここにいて、わたしが『異能』の変化はないと主張し続けても、彼の中ではわたしが『異能』を変化させていることが決定しているから、なにを言っても嘘だと決めつけられる。
 でも、無理に元の部屋に戻ったとしても、また使用人に連れてこられて終わりだ。部屋から出ないと抵抗することが失敗に終わっている時点で、あそこも安全じゃない。
 どうしよう、と考えていると――。

 ――ガッ!

「――っ!」

 横から衝撃が加わる。思わず頭を押さえ、横を見ると、わたしを強引に連れ出してきたメイドがいた。

「ビードレッド様が変化した『異能』をご所望です。さっさと見せなさい」

 完全にわたしを見下している目に、ぞわっとする。対等でない、というレベルではない。生き物として扱ってすらいないような視線。

 ――こういう扱いをされると思って、ここにきたんじゃないのか。

 そう思うのに、いざ殴られたら頭が真っ白になって、パニックになってしまう。シオンハイトが、いかに自分へ配慮していたのかを、今、思い知らされた。

「……『異能』は、変化、してな――っ!」

 バチン。また殴られる。変化してないのだからどうしようもない。何をされてもできないものはできないのだ。
 ――それでも、それはわたしから見たらの話。
 男たちからしたら、わたしが意地を張って、変化した『異能』を隠しているようにしか見えないらしい。

「さっさと見せた方が身のためだぞ? ものによっては俺が有効活用してやる」

「……ディナーシャ以外の女も、『異能』が変化したっていうの」

 わたしとディナーシャ以外にも、二人ほどこちらに嫁いできているはずだ。ディナーシャの『異能』が変化した、というのは聞いているが、残りの二人がどうかは知らない。

「ああ、変化したと聞いている」

 言い淀まず、すらすらと言った男の言葉を聞いて、尋ねたところで意味がなかったな、と思い知らされる。
 だって、この男の言うことが信じられないから。
 わたしが変化させた『異能』を見せるための嘘かもしれないと、思ってしまったのだ。

 ディナーシャは実際に偽札を見せてもらって――いや。
 あれもそもそも、本物だったのか?
 ディナーシャが作ったとされる偽札、というだけで、わたしはディナーシャ本人が偽札を作っているところを見たことがない。

 見たことのない、他国の古い紙幣。

 わたしが判断できないからと、シオンハイトが嘘をついたのかもしれない。
 ――考え出すと止まらなかった。

 男も、シオンハイトも信じられない。
 シオンハイトに裏切られたと思うと、何故だか少し、胸が痛んだ。
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