婚約破棄された侯爵令嬢は、元敵国の人質になったかと思ったら、獣人騎士に溺愛されているようです

安眠にどね

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「悪い使い方は思いつかなかったんだ? いい子だね」

 ちょっと子供をあやすような言い方にむっとなるも、悪用する方法を思いつかなかったのは事実である。

「ちなみに、この『異能』で色つけたものは、消えることはないの? ララなら消せるとか?」

「……わたしが生きている間はずっとそのまま」

 『異能』の効果が持続する時間は、個人差がある。制限時間があったり、『異能』を使った本人が取り消そう、と思うまではなにをしてもなくならなかったり。
 わたしの場合は、『異能』を鑑定する『異能』を持っている人に見てもらって、わたしの使った『異能』の効果がなくなるのは、わたしが死んだときだけだと言われている。
 実際に死んだことがないので、確かめようがないけど。

 数多くの『異能』持ちがいる世界でも、死んだ人間を生き返らせるような効果がある『異能』を持っている人はいない。伝説やおとぎ話、民話の中には、いるけれど、現実には聞いたことがない。死んだ人間の魂を宿らせる――前世で言うイタコみたいなことができる人はいるが。
 死んだら終わりなので、確かめたいと思ったこともない。生に執着していなかったら、ここにきて、こんなにも周りを警戒しない。

「そっかあ……」

 わたしが死んだら消える、ということを聞いたシオンハイトが、残念そうに呟いた。

「死んだら全部消えるって、さみしいね」

 そんなことを言う彼は、わたしの渡した紙ナフキンを見ていた。
 そんなの、誰にだって描けるようなものなのに。特別に感じるようなことはなにもないはずなのに。
 ――シオンハイトは、どうしてそんなにも愛おしいものを見るような目で、その紙ナフキンを眺めているのだろうか。

「……変なの」

 わたしは思わず、声に出してしまった。

「そんなに大切にするようなものでもないよ」

 花の形に色をつけた、といっても、本物の花のようなものではなく、記号に近い花。子供でも描ける――というにはいささか形が整いすぎているが、それでも画力を必要としないようなもの。絵としての価値は全くない。
 しかも、キャンバスやスケッチブックではなく、使い捨ての紙ナフキン。王族が使っているものなら、平民が使う者よりも多少は質がいいかもしれないが、それでもやはり、所詮は紙ナフキン。
 そう思って言ったのだが――。

「好きな人にもらったら、どんなものでも嬉しいんだよ」

 嘘偽りなさそうな笑顔でそう言われてしまったら、わたしはそれ以上、なにも言うことができなくなってしまった。
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