26 / 114
26
しおりを挟む
わたしはシオンハイトの持っていた植木鉢から、ゼナミントをちぎって一枚口に放り込んだ。
「あ」
ピン、とシオンハイトの耳が動いた。
洗いもせず食べたけれど、鼻が完全に詰まっているので、あんまり土っぽい匂いはしない。舌の上において舐めていると、すーっとしたものを感じる……気がする。
鼻がじわっとしたので、すん、と鼻をすすると、少しだけ鼻の通りが良くなった。いまだに口で呼吸しないと苦しいけれど。
「も、もっと食べる?」
そわそわとした様子のシオンハイトに、わたしは「いらない」と答えた。ゼナミントは一度に何枚も摂取したからといって、そんなに効果が変わるわけではない。そもそもミントはそこまで好きな部類じゃないし。効果がないのなら、進んで食べようとは思わない。
まあ、今は風邪のせいで舌がばかになっているから、そこまで露骨に嫌でもないんだけど。ゼナミントの味があんまり分からないなんて、そうとう味覚も終わっている。
舌の上にあったゼナミントの葉が、わたしの唾液でふやけてきたのを確認して、そのまま飲み込む。
「これ、ここに置いておくから、いつでも好きなときに食べて」
そう言って、シオンハイトはわたしのベッドのすぐそば、手を伸ばせばベッドに寝たままでもゼナミントが摘める場所に鉢植えを置こうとして、ピタッと固まった。
「あ、でも、ここじゃない方がいい? 僕がずっと見張っていられるわけじゃないし、貰ってきちゃったからもう兄上のじゃないし……君も寝るでしょ?」
シオンハイトもわたしも、ずっとこのゼナミントを意識していられるわけじゃないから、誰かに何かされるかも、と言いたいのだろう。
正直、その気持ちはない、わけではない。
「……もう、いらないからいい。あんまり効かないっぽい、し」
ゼナミントは結構即効性のあるものだ。口の中に入れて比較的すぐに鼻が少し通り良くなったように、本来なら口に含んで少ししただけで鼻水がひくはずなのだ。でも、これだけしか効果がない、ということは、やっぱり本格的な風邪には気休め程度しかならない、ということだ。
「……でも、持ってきてくれて、ありがと」
そう言うと、ぱあ、と、分かりやすくシオンハイトの顔が明るくなった。まるで演出のように、ものすごい変化である。
「ううん! なんでもするから言ってね!」
百点満点の満面の笑み、とでも言うべき笑顔を、シオンハイトは浮かべた。
風邪を引いて、心細くなっていたのか、その笑顔にちょっとだけ励まされたのは、内緒だ。
「あ」
ピン、とシオンハイトの耳が動いた。
洗いもせず食べたけれど、鼻が完全に詰まっているので、あんまり土っぽい匂いはしない。舌の上において舐めていると、すーっとしたものを感じる……気がする。
鼻がじわっとしたので、すん、と鼻をすすると、少しだけ鼻の通りが良くなった。いまだに口で呼吸しないと苦しいけれど。
「も、もっと食べる?」
そわそわとした様子のシオンハイトに、わたしは「いらない」と答えた。ゼナミントは一度に何枚も摂取したからといって、そんなに効果が変わるわけではない。そもそもミントはそこまで好きな部類じゃないし。効果がないのなら、進んで食べようとは思わない。
まあ、今は風邪のせいで舌がばかになっているから、そこまで露骨に嫌でもないんだけど。ゼナミントの味があんまり分からないなんて、そうとう味覚も終わっている。
舌の上にあったゼナミントの葉が、わたしの唾液でふやけてきたのを確認して、そのまま飲み込む。
「これ、ここに置いておくから、いつでも好きなときに食べて」
そう言って、シオンハイトはわたしのベッドのすぐそば、手を伸ばせばベッドに寝たままでもゼナミントが摘める場所に鉢植えを置こうとして、ピタッと固まった。
「あ、でも、ここじゃない方がいい? 僕がずっと見張っていられるわけじゃないし、貰ってきちゃったからもう兄上のじゃないし……君も寝るでしょ?」
シオンハイトもわたしも、ずっとこのゼナミントを意識していられるわけじゃないから、誰かに何かされるかも、と言いたいのだろう。
正直、その気持ちはない、わけではない。
「……もう、いらないからいい。あんまり効かないっぽい、し」
ゼナミントは結構即効性のあるものだ。口の中に入れて比較的すぐに鼻が少し通り良くなったように、本来なら口に含んで少ししただけで鼻水がひくはずなのだ。でも、これだけしか効果がない、ということは、やっぱり本格的な風邪には気休め程度しかならない、ということだ。
「……でも、持ってきてくれて、ありがと」
そう言うと、ぱあ、と、分かりやすくシオンハイトの顔が明るくなった。まるで演出のように、ものすごい変化である。
「ううん! なんでもするから言ってね!」
百点満点の満面の笑み、とでも言うべき笑顔を、シオンハイトは浮かべた。
風邪を引いて、心細くなっていたのか、その笑顔にちょっとだけ励まされたのは、内緒だ。
1
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる