22 / 114
22
しおりを挟む
廊下に飾られている絵を見ながら、シオンハイトの話を聞くだけ。
たったそれだけのことなのに、ずっと部屋にこもっていたわたしには、酷く疲れた。懐かしい絵を見て、嫌なことを思い出したからかもしれない。
「じゃあまた」と、仕事に戻るのだろうシオンハイトを見送って、わたしはソファに寝そべった。
一歩進んで二歩下がった気分だ。
今回ばかりはシオンハイトは悪くない。……たぶん。
あの祭りの絵が売られてしまったのは、わたしがあげた人から言い出したのかもしれないし、シオンハイトが無理をいったのかもしれない。直接現場を見たわけじゃないから、わたしには分からないが、それでも、わたしがあの絵をあげた誰かはシオンハイトに絵を譲ってしまったのは事実。
――……誰か?
「――っ」
誰にあげたんだっけ、と思い出そうとして、頭に激痛が走る。でも、それは一瞬のことで、あっという間に激痛が嘘のように引いていく。
「……そんな、昔、実は会ってました、なんて少女漫画みたいなこと、あるわけ……」
そんなことを言いながらも、わたしは、激しい頭の痛みに見舞われたことで、自分の記憶に自信をなくしていた。
有能で当たりの『異能』の中には、記憶操作をするものもある。わたしは、そんな『異能』を持っている人が周りにいた記憶はない。ただ、オアセマーレの国内には、少なからず、記憶操作の『異能』を持つ人間はいる。絶対に。
一人として同じ『異能』を持つ者はいない、とされているが、方法が違うだけで、与える結果は同じ、ということはよくある。例えば、一定の記憶を忘れさせるのか、なかったことにさせるのか、完全に消去させるのか。
忘れさせられたとて思い出すことはあるし、捏造されて記憶が擦り替わるのか、本当にスコンとそこだけ記憶がなくなるのか、そういう差はあれど、塗りつぶされた記憶になるというのは同じ。
もしかして、本当は、会っていた、のか?
自信はない。そんな少女漫画みたいなこと、と笑いたくもなる。
でも、前世の記憶を持って、『異能』なんて特殊能力があるファンタジーな世界に生まれている以上、漫画っぽい現象を全て、漫画じゃないんだから、と言うことはできない。
今までは、わたしが、自我を持って生まれたその瞬間から、今にいたるまでの記憶がしっかりしているという自信があったからから、そんなことはないと思っていたけれど――。
「――いた、い」
もう一度、あの絵を送ったのは誰だったかを思い出そうとしたら、激痛が頭に走った。そして、すぐに痛みが引く。……さっきと同じように。
これはもしや、本当に、その少女漫画みたいなイベントが、過去にあったというのだろうか。
たったそれだけのことなのに、ずっと部屋にこもっていたわたしには、酷く疲れた。懐かしい絵を見て、嫌なことを思い出したからかもしれない。
「じゃあまた」と、仕事に戻るのだろうシオンハイトを見送って、わたしはソファに寝そべった。
一歩進んで二歩下がった気分だ。
今回ばかりはシオンハイトは悪くない。……たぶん。
あの祭りの絵が売られてしまったのは、わたしがあげた人から言い出したのかもしれないし、シオンハイトが無理をいったのかもしれない。直接現場を見たわけじゃないから、わたしには分からないが、それでも、わたしがあの絵をあげた誰かはシオンハイトに絵を譲ってしまったのは事実。
――……誰か?
「――っ」
誰にあげたんだっけ、と思い出そうとして、頭に激痛が走る。でも、それは一瞬のことで、あっという間に激痛が嘘のように引いていく。
「……そんな、昔、実は会ってました、なんて少女漫画みたいなこと、あるわけ……」
そんなことを言いながらも、わたしは、激しい頭の痛みに見舞われたことで、自分の記憶に自信をなくしていた。
有能で当たりの『異能』の中には、記憶操作をするものもある。わたしは、そんな『異能』を持っている人が周りにいた記憶はない。ただ、オアセマーレの国内には、少なからず、記憶操作の『異能』を持つ人間はいる。絶対に。
一人として同じ『異能』を持つ者はいない、とされているが、方法が違うだけで、与える結果は同じ、ということはよくある。例えば、一定の記憶を忘れさせるのか、なかったことにさせるのか、完全に消去させるのか。
忘れさせられたとて思い出すことはあるし、捏造されて記憶が擦り替わるのか、本当にスコンとそこだけ記憶がなくなるのか、そういう差はあれど、塗りつぶされた記憶になるというのは同じ。
もしかして、本当は、会っていた、のか?
自信はない。そんな少女漫画みたいなこと、と笑いたくもなる。
でも、前世の記憶を持って、『異能』なんて特殊能力があるファンタジーな世界に生まれている以上、漫画っぽい現象を全て、漫画じゃないんだから、と言うことはできない。
今までは、わたしが、自我を持って生まれたその瞬間から、今にいたるまでの記憶がしっかりしているという自信があったからから、そんなことはないと思っていたけれど――。
「――いた、い」
もう一度、あの絵を送ったのは誰だったかを思い出そうとしたら、激痛が頭に走った。そして、すぐに痛みが引く。……さっきと同じように。
これはもしや、本当に、その少女漫画みたいなイベントが、過去にあったというのだろうか。
0
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる