婚約破棄された侯爵令嬢は、元敵国の人質になったかと思ったら、獣人騎士に溺愛されているようです

安眠にどね

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 そんな状況だったら、オアセマーレという人間しかいない国で獣人を見かけたら、絶対に記憶に残るはず。ということは、直接会ったわけではないということか。獣の耳もしっぽも、完全に隠せないわけではないけど、正装で隠すことは難しいだろうから、少なくともパーティー等では出会っていないはず。

 それでも、わたしが預かり知らぬところで、彼がわたしの情報を何かしら得ることができるということが判明しただけ、彼がわたしにこれだけ接してくる理由が分かった気がする。わたしが知らないところで、何かしら、わたしのことをしって、そこで好感を持たれたんだろう。……たぶん。

 わたしの絵のときだけは、細かい説明をしてくれなかった。「この絵はララが描いたんでしょ」と口にしたわけではないけれど、暗にそう言われているような気がした。

 集められた絵画は、廊下の端から端まですべて使って飾られていた。でも、わたしの絵はあれ一枚だけだ。
 オアセマーレの伝統的な祭りの絵。A4サイズくらいのキャンバスに描いた、小さな絵。

 祭りの風景を描いているだけあって、結構描き込まれているものだ。ということは、『異能』を用いて絵を描いていた時期でも、割と終盤のほうのはず。最初のうちは、空から始まって、段々と物をモチーフにして描き始め、最終的には人が多くいたり、建造物が複雑な風景画に手を出した。

 いつ頃描いたんだっけ……たしか、歴史と経済の勉強が始まったころで、じゃあオアセマーレの伝統の祭りを描こう、って思って……ということは、九歳くらい? オアセマーレが戦争中ということを知ったのもそのくらいだったか。

 ……でも、この絵、どこで買ったんだろう。

 わたし自身、絵を売ることはあまりなかった。仕事にしてお金を稼ごう、と思ったことはなく、全部趣味だからだ。それでも、何人か「金は払うから売ってくれ」と言ってくることはあった。こんな絵にお金を払うなんて変わった人、と思うことはあっても、悪い気はしなかったので、何枚かは売った。でも、その売った絵の中に、これは入っていなかったように思う。売れたのはどれもこれも、一人で運ぶのは難しいような大きいサイズのものばかり。

 でも、それらに比べたらこれはちいさい。
 むしろ、これは人にあげるサイズの――ああ、そうか。

 誰か、あげたものを売ってしまったのか。

 人に渡した時点で、わたしに所有権はなくなる。だから、あげた絵を捨てようが売ろうが、あげた人の勝手。
 でも、こうして、善意であげたものが金になって他人の手に渡っているのを見ると、あんまり気分のいいものじゃない。
 ましてや、わたしの絵をあげた人は皆、口を揃えて「大切に家で飾ってるよ」なんて、言うものだから。
 ……少しだけ、人間不信が加速した気がする。
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