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 幼い頃から、わたしは絵を描いてきた。趣味、というのも勿論だが、『異能』の使い道に最適なのが、絵だったからだ。
 わたしの『異能』は色をつけること。ただ、色を変えることはできない。上から重ねるように色をつけるので、白いキャンバスが一番いいのだ。白色以外のものに色をつけることもできるけれど、下地の色と混ざるので、綺麗に思ったような色にはならない。白色だったら、十二色、なんて言わずに、それこそ思うように無限に色をつけることができる。

 ……でも、『異能』を使って絵を描いていたのは、十歳くらいまでの話だ。
 最初の内は、『異能』なんて特別な力がない世界で生きた前世の記憶があるものだから、自分の『異能』がアタリかハズレか、なんて気にならなくて、ただただ魔法のような能力に心躍って、一杯使ってみたくなったのだ。
 しかし、次第に周りからの態度で、わたしの『異能』がハズレなんだと察するようになってからは、あまり使わなくなった。絵を描くこと自体は好きだったので、筆を置くことはなかったが、絵の具を使って絵を描くようになった。

 でも、この絵は絵の具を使って描かれた形跡がない。油絵チックなのに、絵の具が全然乗っていない。まるで印刷物のよう。
 まぎれもなく、わたしが『異能』で描いた絵だ。
 なんでこんなものが、ここに。

「綺麗でしょ?」

 シオンハイトはわたしに問いかける。
 この作家知ってる? とわたしに聞くことも、君の絵だよ、と言うこともない。
 シオンハイトは、わたしがこの絵の作者だと知っているんだろうか。
 確信をそらした、曖昧な質問。わたしの答えで、わたしが自分の絵だと気が付いているかどうか、探っているのだろうか?

 わたしの絵だと名乗るのが正解なのか、不正解なのか、全く分からない。

 でも、一つ分かったことがある。
 シオンハイトは、わたしを知るチャンスが過去にあった、ということだ。他の絵は、画家の情報をある程度知っていたし、この絵だけ、なんの情報も得られなかった、とは考えにくい。オアセマーレの同盟国の画家、つまりは敵国の画家の情報まで仕入れているのだ。全く知らないわけがない。
 ということは、分かっている上で、わたしに聞いてきた、ということ、なのだろう。

 ……でも、昔に実は会っていて、そこでなにか好かれるような出来事があった、なんて少女漫画の展開みたいな記憶、わたしには一切ない。
 前世の記憶があって、自意識がそれなりにあったからか、幼少期の記憶も割とハッキリしているのに。
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