14 / 114
14
しおりを挟む
さすがに本物の虎ほど大きなものではないが、犬歯、というにはあまりにも立派なものがついている。しかも上下。
結構鋭そうだけど、こんな歯で、口の中ずたずたにならないのかな。閉じているときに牙が外に出ているわけでもないし、口の中の構造が人間とは少し違うのかも。見た目は一緒だけど。
間違えて口の中や舌を噛んだら大惨事になりそう。
「――あー、ララ? もういい? 閉じるね?」
……じっと見すぎたらしい。シオンハイトが恥ずかしそうに口を閉じた。
「……変な性癖に目覚めそう」
それは普通に引くのでやめてくれ。
でも、そう。プリンはない。普通に食べて、問題はなさそうだ。
……食べるべき、だろうか。
ここまでしてくれたのだから、彼の無実を信じるべきか。それに、シオンハイトがこの先も延々とお菓子を用意し続けるのならば、黙ってつっぱねるのも限界というか。
彼のことを信用するかはまた別として、分かりやすくしっぽがだらりと下がって、落ち込んでいる様子を見続けるのは、なかなか良心に訴えてくるものがある。
わたしの手には、シオンハイトに毒見させたプリン。綺麗に上だけがない。
……王子だから、毒の耐性とか、あるのかな……。
ふっとそんな考えが頭をよぎる。良くない兆候。平和じゃない世界に生まれて染まってしまったなあ、と思い知らされる。
いや、でも、わたしだって、多少は毒の耐性、つけさせられたし。即死するレベルの猛毒じゃなきゃなんとかなる……はず。
それにもし、何か入っていれば、今後シオンハイトを信用するか否かで迷うことはない。
今、最初の一歩を決めるべき。
――ええい!
わたしは半分以上ヤケになって、口の中にプリンを入れた。
……美味しい。
普通に、どころではなく、かなり、だいぶ美味しい。しかもちゃんと固めなやつ。最近はオアセマーレでも柔らかいタイプのプリンが出始めたが、わたしは前世から、昔ながらの固めのプリンが好きだ。甘いだけじゃない、卵の味が強いプリン。
握り込んだら親指と中指がぎりぎりとどかないくらいの大きさの瓶に入っているプリンだったので、一口、二口で中間層は終わってしまう。もう少し食べたいけど……流石にそこまでは。
全く手をつけていないものならまだしも、これは廃棄になってしまうだろうか。もったいないな、と思わないでもないのだが、自分の命の方が大事なので、仕方がない。
食べるのをやめて、プリンの瓶をテーブルに置く。
――と。
隣でソファに突っ伏して、もだえているシオンハイトに気がついた。どうした、王子。
結構鋭そうだけど、こんな歯で、口の中ずたずたにならないのかな。閉じているときに牙が外に出ているわけでもないし、口の中の構造が人間とは少し違うのかも。見た目は一緒だけど。
間違えて口の中や舌を噛んだら大惨事になりそう。
「――あー、ララ? もういい? 閉じるね?」
……じっと見すぎたらしい。シオンハイトが恥ずかしそうに口を閉じた。
「……変な性癖に目覚めそう」
それは普通に引くのでやめてくれ。
でも、そう。プリンはない。普通に食べて、問題はなさそうだ。
……食べるべき、だろうか。
ここまでしてくれたのだから、彼の無実を信じるべきか。それに、シオンハイトがこの先も延々とお菓子を用意し続けるのならば、黙ってつっぱねるのも限界というか。
彼のことを信用するかはまた別として、分かりやすくしっぽがだらりと下がって、落ち込んでいる様子を見続けるのは、なかなか良心に訴えてくるものがある。
わたしの手には、シオンハイトに毒見させたプリン。綺麗に上だけがない。
……王子だから、毒の耐性とか、あるのかな……。
ふっとそんな考えが頭をよぎる。良くない兆候。平和じゃない世界に生まれて染まってしまったなあ、と思い知らされる。
いや、でも、わたしだって、多少は毒の耐性、つけさせられたし。即死するレベルの猛毒じゃなきゃなんとかなる……はず。
それにもし、何か入っていれば、今後シオンハイトを信用するか否かで迷うことはない。
今、最初の一歩を決めるべき。
――ええい!
わたしは半分以上ヤケになって、口の中にプリンを入れた。
……美味しい。
普通に、どころではなく、かなり、だいぶ美味しい。しかもちゃんと固めなやつ。最近はオアセマーレでも柔らかいタイプのプリンが出始めたが、わたしは前世から、昔ながらの固めのプリンが好きだ。甘いだけじゃない、卵の味が強いプリン。
握り込んだら親指と中指がぎりぎりとどかないくらいの大きさの瓶に入っているプリンだったので、一口、二口で中間層は終わってしまう。もう少し食べたいけど……流石にそこまでは。
全く手をつけていないものならまだしも、これは廃棄になってしまうだろうか。もったいないな、と思わないでもないのだが、自分の命の方が大事なので、仕方がない。
食べるのをやめて、プリンの瓶をテーブルに置く。
――と。
隣でソファに突っ伏して、もだえているシオンハイトに気がついた。どうした、王子。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました
珂里
ファンタジー
第二王子である弟に、ある日突然告白されました。
「自分には前世の記憶がある」と。
弟が言うには、この世界は自分が大好きだったゲームの話にそっくりだとか。
腹違いの王太子の兄。側室の子である第二王子の弟と王女の私。
側室である母が王太子を失脚させようと企み、あの手この手で計画を実行しようとするらしい。ーーって、そんなの駄目に決まってるでしょ!!
……決めました。大好きな兄弟達を守る為、私は悪役になります!
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる