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「まあ、その意見には同意するが」

 兄上、と呼ばれた男は、意外にもシオンハイトの言葉に賛同していた。というか、兄上、ということは、第二王子か第三王子のどちらかなのか。王太子である第一王子は国王になるため、配偶者は獣人でないといけないはずなのに。

「『異能』があるから、とタカをくくって我々に戦争を挑み、それでいて劣勢になったらこうして娘を差し出して停戦を乞うのだからな。実に人間は『可愛い』よ」

 ……成程。愚かで可愛い、ということか。
 一瞬でも、獣人が、意外と人間に好意的なのだろうかと勘違いした自分が恥ずかしい。

 シオンハイトがその言葉に同意することはなかったけれど……でも、この戦争、人間側から仕掛けたのか。
 確かに、人間の女、極まれに男は『異能』を持つ。『異能』を持たない獣人を支配できるはず、と考えるのも無理はないだろう。

 でも、それで実質負けているのだから、なんと愚かなことか。そりゃあ、馬鹿にしたくもなる。
 勝てば官軍、とまでは言わないけれど、力に溺れた者の末路でしかない。
 お母様の口ぶりからしたら、戦力は拮抗しているように感じたけれど、こうして二人の会話を聞く限り、人間サイドは劣勢だったんだろう。

 二人がわたしの狸寝入りに気が付いて、嘘の情報を吹き込んでいるとも考えられるけど……。でも、少なくともお母様の話よりは信用できる気がする。だってあのお母様だし……。

「どう『可愛がる』かはお前の自由だが、殺すことだけはしないようにしろよ。一応は停戦の証としての嫁なんだから。反抗するような『異能』ではないんだろう?」

 男の言葉に、「……知りません」と苦しそうに応えるシオンハイトの声がした。

「驚いた。本当に警戒心の強い女だな。それとも人間って、本来はそういうものなのか?」

 目をつむったままなので、男の顔を見ることはできない。でも、きっと、呆れた表情をしているに違いない。声を聞けば、簡単に想像がついた。

「どうせお前の嫁もたいした能力じゃないだろうがな」

 おっしゃる通りです。役に立たないハズレ『異能』です。わたしは心の中で、そっと男に同意した。

「……それは、分かりませんよ」

 しかし、シオンハイトは、何故か反論する。やめて、ハードルを上げないで。
 異能を話しても殺されないのかもしれないけれど、別の意味で余計に話せなくなってしまった。
 ……シオンハイトも、わたしのことなんか、かばわなくてもいいのに。それとも、自分の嫁がハズレ『異能』持ち、だと認めたくないのかな。

 ああ、考えすぎて疲れてきた。人を疑う悪癖が年々酷くなっている。
 前世では、こんなにも他人を信用できないことはなかった。それだけ、なんだかんだ言っても前世は平和な国だった、ということだ。

「……まあ、いい。書類は確かに受け取った。俺はこれで失礼する」

 男がそう言った少しあと、扉が開閉される音が聞こえてきた。
 ……出て行ったのかな。
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