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 綺麗な白髪でありながら、毛先だけは黒い髪。しっぽの毛色と相まって、ホワイトタイガーにしか見えない彼。本当はなんの獣人なのか、わたしは聞いていないから分からない。たぶん、尋ねれば答えてくれるとは思うけど、わたしから彼に何か声をかけるのは怖い。

 人間しかいない世界で生活した前世と、人間しかいない国で育った今世。獣人に対してどう会話をすれば失礼にあたらないのか分からないし、そもそも、敵国の人間相手にどんな対応をしたらいいのか分からない。
 死ぬことすら覚悟はしてきたけれど、死を望んでいるわけじゃないから、死なないで済むのなら、死にたくはない。

 ――早く、この部屋から出て行ってくれないかな。

 一人でいるほうが、まだ気が休まる。というか、騎士団の団長なら、仕事があるんじゃないの。
 なんて、言えるわけもない。
 こんなにもわたしによくしてくれる理由が分からなくて、もし話に乗ってしまったら、手のひらを返すように冷たい態度を取るんじゃないかって、怖くなる。

「――……ララはどんな食べ物が好き?」

 わたしが、今、テーブルに載っているものを食べる気がない、と察したシオンハイトは、わたしに好物を聞いてきた。

 なんて答えたらいいんだろう。
 この流れだと、次に並べられるものが甘いスイーツではなく、わたしの好物へ変わるに違いない。

 わたしにだって、好きな食べ物の一つや二つはある。――でも、今、用意されたところで食べる気にはならない。
 停戦交渉の元、和平の証として嫁がされたわたしだから、最低限の衣食住は保障されるとしても、明らかに余剰である食べ物に何か細工されていると疑ってしまっても無理はないだろう。

 だから正直、わたしは必要最低限のもの以外食べたくないのだ。同じ理由で外にも出たくない。『事故』を装って死ぬかもしれないし。
 何を言うのが正しいのか分からなくて、結局わたしは口を開くことができなかった。

「……リンゼガッドのことを知ってもらおうと思ってリンゼガッドのお菓子にしたんだけど、オアセマーレのお菓子の方がよかったかな」

 どう見たって、黙って突っぱねるわたしの方が悪いのに、シオンハイトは「ごめんね」とわたしに謝った。
 分かりやすく落ち込んで謝罪されると、良心が痛む。――でも、それも、わたしを懐柔させるための演技だったり、嘘だったりするのかもしれない。

 疑り深いのがわたしの悪癖だが、それでも今回ばかりは、疑いたくなっても仕方がないだろうと、言い訳したくなるのだった。
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