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 まあ、でも、確かに普段のソルヴェード様を見ていたら、そこを一番に疑われてしまう、と思っても無理はないのか。既婚者には本気にならない、と言ったって、もはや口説き文句なのでは? という言葉の一つや二つ、投げかけているのを見かけたことがある。挨拶代わりみたいなものなのか、向こうも本気にしてはいない顔ばかりだったけど。

「それは知っている。キャンシーが俺の婚約者に決まってからは、挨拶以外、声もかけなかっただろう。決まる前とは露骨に態度が分かっていれば、流石に気が付く」

 それってつまり、決まる前はちょっかい出してた、ってことじゃない?
 おいおい、どうなってるんだ、と、ちらっとソルヴェード様を見たら、サッと目線をそらされた。気まずそうな表情をしている。
 追及こそするつもりはないが、露骨に昔は手を出していました、という表情だ。この人は……全く……。

「キャンシーを取ったのは、ヴィアラクテ家の次男だ」

 うわお、ヴィアラクテ家と来たか。
 ヴィアラクテ家と言えば、司法関係の仕事につく者が多い国内唯一の公爵家だ。前世の三権分立、とまではいかないものの、王族とはまた違う権力を持っていて、王族でも犯罪を犯せば取り締まることができるのは、一重にこのヴィアラクテの一族がいるからだ。

 王族に忠誠を誓いながらも、決してただ従うのではなく、国が正しくあるために動く家。
 そんな家の人間に婚約者を取られるなんて……何をしたんだろう。エストラント様の年齢からしたら、既に結婚式の準備は始まっていて、挙式まであと何か月、という段階だろうに。そんな途端場で寝取ることができるなんて、よっぽど何かしたに違いない。

 そう思って、つい疑いの目を向けてしまったが、睨み返されただけだった。怖い。

「俺は何もしていない」

 何もしてないってことはないんだろうなあ。多分だけど、無意識になにかやっているに違いない。もしくはすれ違いか。
 口調が強いし、威圧感のあるお人だから、どうにも圧を常に感じる。彼が何とも思っていないことでも、キャンシー嬢がどう思っているかはまた別なのだろう。
 そこに、間男につけ入られた、ということか。
 ――なんて、思っても口には出さない。流石に睨みつけられる趣味はないので。

「え、ええと……それで、エストラント様がここにいらっしゃった理由は分かりました。でも――何故、わたしがここに連れてこられたのですか?」

 わたし、全く関係ないよね。うちの家の者、もしくは関係者が寝取ったから文句を言いたい、というのならばまだ分かるが、我が家にヴィアラクテ家との繋がりなんぞない。王族同様、ずっと遠い場所にいる人たちばかりだ。

 ――そう、思っていたのだが。

「君を次の婚約者に選ぶのが、最大限有益であると考えたからだ」

 あまりの言葉に、わたしは頭が真っ白になった。

 なに、え、婚約者?
 誰が?
 わたしが?
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