26 / 51
26
しおりを挟む
わたしの嫌な予感は結構当たるのだ。
母の、「帰りを待っていた」という言葉を聞かなかったことにして、さっさと自室に戻りたい。――……勿論、そんなことできるわけがない。進行方向に母がいるので、物理的にどしようもないし。
「シノリア、貴女にこのパーティーに参加して欲しくて」
「パーティー……?」
うちの家が傾いてから、あまり小多情は送られなくなってきたというのに。
わたしは、母が渡してきた封筒を受け取る。未開封のものではあるが、この家から送られてくるパーティーの招待状は必ずこの封筒で送られてくるので、母もパーティーの招待状だと判断したんだろう。
ひっくり返して蝋封を見なくてもどこの家のものか分かるが、わたしは癖で、流れるように蝋封を見た。
赤い蝋封には、コメッタート伯爵家の家紋が押されている。
コメッタート家。事業に失敗してすっかり貧乏伯爵家とは違って、伯爵家の中でもかなり力を持っている家だ。歴史も長く、上位の貴族である侯爵家や、はては王族まで、場合によってはコメッタート家の人間に頭が上がらないと言われているほど。
……そういえば、コメッタート家現当主に嫁いだ夫人が、母と幼馴染で仲良しなんだったっけ。
その経由で招待状が届いたのだろうか……と思いながら、わたしは封筒を開ける。本当はレターナイフで開封した方がいいんだろうが、今、わたしの手元にはない。
中身を見て、読み進め――わたしは思わず手紙を握り込んでしまった。高そうな質の良い便箋に、皺が入る。
「お母様、これは……」
わたしは思わず手紙を読むのをやめ、顔を上げて母を見た。
彼女は相変わらずにっこりして――。
「シノリア、いい機会だからこのパーティーで婚約者を見繕ってきなさい」
――そんなことを言ってのけた。
「い、いや、お母様。いい歳して、そんな、パーティーで婚約者だなんて。妹たちの方が適正年齢では」
動揺して、乾いた笑いがこみあげてくる。
しかし、母は、にこにこと笑顔のまま、圧力をかけてくる。圧のある笑みに、わたしは押し黙ることしかできなかった。
「いい歳して、婚約者がいないシノリアに問題があるでしょう。縁談話はいくつかお父様が用意したのに、全部はねのけたのは、どこの、だぁれ?」
「……ぐっ!」
それを言われてしまうとわたしは、本当に何も言い返せなくなってしまう。
貴族令嬢としているのが嫌で、現実逃避ばかりして、のらりくらりと婚約話をかわし続け、とうとう『いい歳』と言われてしまうような年齢になってしまったのだ。前世だったらまだまだ、結婚なんて考えなくていい年齢なのに……!
母の、「帰りを待っていた」という言葉を聞かなかったことにして、さっさと自室に戻りたい。――……勿論、そんなことできるわけがない。進行方向に母がいるので、物理的にどしようもないし。
「シノリア、貴女にこのパーティーに参加して欲しくて」
「パーティー……?」
うちの家が傾いてから、あまり小多情は送られなくなってきたというのに。
わたしは、母が渡してきた封筒を受け取る。未開封のものではあるが、この家から送られてくるパーティーの招待状は必ずこの封筒で送られてくるので、母もパーティーの招待状だと判断したんだろう。
ひっくり返して蝋封を見なくてもどこの家のものか分かるが、わたしは癖で、流れるように蝋封を見た。
赤い蝋封には、コメッタート伯爵家の家紋が押されている。
コメッタート家。事業に失敗してすっかり貧乏伯爵家とは違って、伯爵家の中でもかなり力を持っている家だ。歴史も長く、上位の貴族である侯爵家や、はては王族まで、場合によってはコメッタート家の人間に頭が上がらないと言われているほど。
……そういえば、コメッタート家現当主に嫁いだ夫人が、母と幼馴染で仲良しなんだったっけ。
その経由で招待状が届いたのだろうか……と思いながら、わたしは封筒を開ける。本当はレターナイフで開封した方がいいんだろうが、今、わたしの手元にはない。
中身を見て、読み進め――わたしは思わず手紙を握り込んでしまった。高そうな質の良い便箋に、皺が入る。
「お母様、これは……」
わたしは思わず手紙を読むのをやめ、顔を上げて母を見た。
彼女は相変わらずにっこりして――。
「シノリア、いい機会だからこのパーティーで婚約者を見繕ってきなさい」
――そんなことを言ってのけた。
「い、いや、お母様。いい歳して、そんな、パーティーで婚約者だなんて。妹たちの方が適正年齢では」
動揺して、乾いた笑いがこみあげてくる。
しかし、母は、にこにこと笑顔のまま、圧力をかけてくる。圧のある笑みに、わたしは押し黙ることしかできなかった。
「いい歳して、婚約者がいないシノリアに問題があるでしょう。縁談話はいくつかお父様が用意したのに、全部はねのけたのは、どこの、だぁれ?」
「……ぐっ!」
それを言われてしまうとわたしは、本当に何も言い返せなくなってしまう。
貴族令嬢としているのが嫌で、現実逃避ばかりして、のらりくらりと婚約話をかわし続け、とうとう『いい歳』と言われてしまうような年齢になってしまったのだ。前世だったらまだまだ、結婚なんて考えなくていい年齢なのに……!
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる