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デート、と称したお遊びは、カフェでお茶をして少し街を散歩して終わった。
わたしは、家と店の往復しかしてこなかったから、ただ街をぶらついているだけでも、物珍しいものばかりで楽しかったけれど、ソルヴェード様はこれで良かったんだろうか。
……まあ、わたしといてつまらなくても、どうせ他に女性がいるんだから気にしなくてもいいかな。
「――……」
自分で思ったくせに、なんだか少し、イラッとしてしまう。別に彼に気があるとか、そんなんじゃない。決して。ただ、自分が軽くあしらわれているような気がしてむっとするだけ。
それだけ。
「――ただいま」
わたしは使用人用の裏口から家へと入る。もう久しく、正門から家に入っていない。それはわたしだけではなく、家族皆がそうだ。流石に客人を迎えるときは正門を使うが、正門を開閉して出迎えをしてくれるだけの使用人が、もういないのだ。
わざわざ正門を開けて堂々と入ってくるのは面倒だったので、こっちの方が気が楽なのだが、ただいま、と声をかけても返事がないのは少しさみしいかもしれない。
「お帰りなさい、シノリア」
「――……! お母様!」
母が出迎えてくれて、わたしは驚きのあまり、肩を少し跳ねさせた。まさか人が立っているとは思わなかった。
別に、母が嫌いだとか、怖いだとか、そういうことはない。普通、というのもおかしい話だけれど、兄弟姉妹で差別されて育った記憶はないし、母親として愛情を注がれなかったこともない。
ただ、前世の記憶があるからか、どうしても根っからの平民庶民根性であり、母は伯爵家生まれ伯爵家育ちのお嬢様だったので、爪の先までお貴族様。細かい価値観の違いにストレスを感じることは多々あるが、おおよそ、仲のいい母娘だとは思う。
そんな母は、家が傾いてからも父を支えているが、それはそれとして、貴族らしい生活ができないことに不満を持っているようだった。湯水のように金を無駄に使う人ではないけれど、仕事や家事は自分がすることではないからしたくない、という感じ。
ドレスを買うのを諦めることはできても、料理をするために厨房には立てない。そんな人だ。
まあ、わたしが異端なだけで、普通、貴族家生まれの貴族家育ちだったらこんなものだと思う。悪い人じゃないのだ、決して。
だからこそ、母はあまり、使用人の領域であるこの裏口に立ち寄らない。どうしても家を出ないといけないときにしか使わない。
「貴女の帰りを待っていたのよ」
にっこり、と笑う母に、わたしは内心で冷や汗を垂らしていた。
――うわぁ、嫌な予感がする。
わたしは、家と店の往復しかしてこなかったから、ただ街をぶらついているだけでも、物珍しいものばかりで楽しかったけれど、ソルヴェード様はこれで良かったんだろうか。
……まあ、わたしといてつまらなくても、どうせ他に女性がいるんだから気にしなくてもいいかな。
「――……」
自分で思ったくせに、なんだか少し、イラッとしてしまう。別に彼に気があるとか、そんなんじゃない。決して。ただ、自分が軽くあしらわれているような気がしてむっとするだけ。
それだけ。
「――ただいま」
わたしは使用人用の裏口から家へと入る。もう久しく、正門から家に入っていない。それはわたしだけではなく、家族皆がそうだ。流石に客人を迎えるときは正門を使うが、正門を開閉して出迎えをしてくれるだけの使用人が、もういないのだ。
わざわざ正門を開けて堂々と入ってくるのは面倒だったので、こっちの方が気が楽なのだが、ただいま、と声をかけても返事がないのは少しさみしいかもしれない。
「お帰りなさい、シノリア」
「――……! お母様!」
母が出迎えてくれて、わたしは驚きのあまり、肩を少し跳ねさせた。まさか人が立っているとは思わなかった。
別に、母が嫌いだとか、怖いだとか、そういうことはない。普通、というのもおかしい話だけれど、兄弟姉妹で差別されて育った記憶はないし、母親として愛情を注がれなかったこともない。
ただ、前世の記憶があるからか、どうしても根っからの平民庶民根性であり、母は伯爵家生まれ伯爵家育ちのお嬢様だったので、爪の先までお貴族様。細かい価値観の違いにストレスを感じることは多々あるが、おおよそ、仲のいい母娘だとは思う。
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ドレスを買うのを諦めることはできても、料理をするために厨房には立てない。そんな人だ。
まあ、わたしが異端なだけで、普通、貴族家生まれの貴族家育ちだったらこんなものだと思う。悪い人じゃないのだ、決して。
だからこそ、母はあまり、使用人の領域であるこの裏口に立ち寄らない。どうしても家を出ないといけないときにしか使わない。
「貴女の帰りを待っていたのよ」
にっこり、と笑う母に、わたしは内心で冷や汗を垂らしていた。
――うわぁ、嫌な予感がする。
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